上 下
186 / 342
覚悟はよろしくて

第五話 謝罪の仕方を知らない人たち

しおりを挟む


 シオン様に癒やされ復活した私は、次の日、婚約者と一緒に皇宮にやって来ました。

 お茶会の一件の真意を義姉様に詳しく訊くためですわ。始めから不自然でしたもの。皇女である私に対し挨拶もなしに、黙って控えているだけなんて。

 さすがに、義姉様が私に対して悪意をもってしたものだとは思いませんわ。しかし、何かしらの意図はあったのだとは思っています。その意図が知りたいのです。

 それに、シオン様がくれたこのピアスを、誰から貰ったものだと勘違いしたのか、私は知りたい。その経緯も。

 近衛騎士が私とシオン様を謁見室に案内します。家族以外に呼ばれた者がいるようですね。誰かは容易に想像付きますわ。

 謁見室に入室してすぐ、リム兄様が私たちの所に駆け寄ってきます。

「セリア。お茶会の件はローザから聞いた。すまない」

「セリア皇女殿下、不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。心から謝罪いたします」

 リム兄様が謝罪し義姉様と一緒に頭を下げます。ローザは義姉様の名前ですわ。

 最初に謝罪を口にするのが、王太子夫妻とは……

 普通逆なのではと呆れながら、部屋の隅に控えている二組の夫婦に視線をやります。お茶会を主催したウルグス侯爵夫妻と、もう一組は、例の令嬢の両親ですね。どちらも、顔色が悪いですわね。当然ですけど。さらなる地獄に堕ちるかどうかの瀬戸際ですものね。

 あら、例の令嬢はどこにいるのかしら? 姉の姿も見えませんね。謁見室にはいないようですけど。別室に控えているとか……もしかして、来てないのですか!? さすがに、それはないでしょう。当事者ですよね。

 お父様とリム兄様が許すはずありませんわ。そのお父様は、明らかに不機嫌な顔で中央に控えています。さながら、魔王ですわね。

「経緯に関しては、皆揃ってからですよね。もちろん」

 リムお兄様に向かってにこっと微笑みながら言います。だけど、対象は令嬢の両親に対してです。それがわかったのか、ビクッと身を竦ませる両親。縮こまったその姿を横目で見て、不信感を感じます

 もしかして……別室で控えているのではないのですか!? まさか、連れて来てないの!? だとしたら、ありえませんわ。

「も、申し訳ありません、皇女殿下。娘は心を病んでおりまして、この場には……」

「だから?」

 そう尋ねたら、黙り込みましたわ。心を病んだっていう理由で逃げるのは許しませんわ。行動には責任が伴うのですよ。平民でも貴族でも。
 
「話にならんな。帰ろうか、セリア」

 黙って成り行きを見ていたシオン様が、私の腰に手を回し引き寄せます。

「そうですわね、シオン様。謝罪はなかったということで宜しいですわね」

 実際、そういうことだと思うわ。

 すると、慌てたのは令嬢の両親。

「「お、お待ちください!! 皇女殿下!!」」

 あろうことか、彼らは私たちの進路を塞いだ。直ぐに、待機していた騎士に取り押さえられ、隅に引きずられる令嬢の両親。子が子なら親も親ってことね。

 私とシオン様は両親を冷たい目で一瞥しました。謝罪の仕方をしらない人と話すことなどありませんから。時間の無駄ですしね。

 反対に、ウルグス侯爵家の方々は違いましたわ。とはいえ、令嬢の両親よりはってことですが。

「皇女殿下、コンフォ伯爵様。大変申し訳ありませんでした。ゴードン伯爵家の者を茶会に呼んだのは私の責任です。罪はいかようにもお受けいたします」

 夫婦二人で頭を下げてから、夫人が口を開きます。

「そう。なら、後は皇帝陛下と王太子殿下にお任せしますわ」

 そう答えると、見る見る真っ青から真っ白になるウルグス侯爵夫婦。焦ってるのが、まるわかりね。私を言いくるめようとでも考えていたのかしら。

「「こ、皇女殿下!!」」

 その声は、苛立ちと絶望が入り混じっていました。

「罪はいかようにもお受けするのでしょう?」

 にっこりと微笑みながら、私は縋り付こうとする手を容赦なく払いのけます。自分が口にしたことは守らないといけませんわ。

「心を病んだ令嬢を皇女であるセリアに近付けた。その意味はわかっておるな、ウルグス侯爵。連れて行け。沙汰が下るまで謹慎していろ」

 お父様が低い声でそう告げると、近衛騎士たちは侯爵夫婦を皇城から放り出した。ゴードン伯爵夫妻は貴族牢に放り込まれた。

 さて、帰って来ない親を前にして、あの令嬢と姉はどう反応するかしら。

しおりを挟む
感想 775

あなたにおすすめの小説

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

離れた途端に「戻ってこい」と言われても困ります

ネコ
恋愛
田舎貴族の令嬢エミリーは名門伯爵家に嫁ぎ、必死に家を切り盛りしてきた。だが夫は領外の華やかな令嬢に夢中で「お前は暗くて重荷だ」と追い出し同然に離縁。辛さに耐えかね故郷へ帰ると、なぜかしばらくしてから「助けてくれ」「戻ってくれ」と必死の嘆願が届く。すみませんが、そちらの都合に付き合うつもりはもうありません。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。