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覚悟はよろしくて
第五話 謝罪の仕方を知らない人たち
しおりを挟むシオン様に癒やされ復活した私は、次の日、婚約者と一緒に皇宮にやって来ました。
お茶会の一件の真意を義姉様に詳しく訊くためですわ。始めから不自然でしたもの。皇女である私に対し挨拶もなしに、黙って控えているだけなんて。
さすがに、義姉様が私に対して悪意をもってしたものだとは思いませんわ。しかし、何かしらの意図はあったのだとは思っています。その意図が知りたいのです。
それに、シオン様がくれたこのピアスを、誰から貰ったものだと勘違いしたのか、私は知りたい。その経緯も。
近衛騎士が私とシオン様を謁見室に案内します。家族以外に呼ばれた者がいるようですね。誰かは容易に想像付きますわ。
謁見室に入室してすぐ、リム兄様が私たちの所に駆け寄ってきます。
「セリア。お茶会の件はローザから聞いた。すまない」
「セリア皇女殿下、不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。心から謝罪いたします」
リム兄様が謝罪し義姉様と一緒に頭を下げます。ローザは義姉様の名前ですわ。
最初に謝罪を口にするのが、王太子夫妻とは……
普通逆なのではと呆れながら、部屋の隅に控えている二組の夫婦に視線をやります。お茶会を主催したウルグス侯爵夫妻と、もう一組は、例の令嬢の両親ですね。どちらも、顔色が悪いですわね。当然ですけど。さらなる地獄に堕ちるかどうかの瀬戸際ですものね。
あら、例の令嬢はどこにいるのかしら? 姉の姿も見えませんね。謁見室にはいないようですけど。別室に控えているとか……もしかして、来てないのですか!? さすがに、それはないでしょう。当事者ですよね。
お父様とリム兄様が許すはずありませんわ。そのお父様は、明らかに不機嫌な顔で中央に控えています。さながら、魔王ですわね。
「経緯に関しては、皆揃ってからですよね。もちろん」
リムお兄様に向かってにこっと微笑みながら言います。だけど、対象は令嬢の両親に対してです。それがわかったのか、ビクッと身を竦ませる両親。縮こまったその姿を横目で見て、不信感を感じます
もしかして……別室で控えているのではないのですか!? まさか、連れて来てないの!? だとしたら、ありえませんわ。
「も、申し訳ありません、皇女殿下。娘は心を病んでおりまして、この場には……」
「だから?」
そう尋ねたら、黙り込みましたわ。心を病んだっていう理由で逃げるのは許しませんわ。行動には責任が伴うのですよ。平民でも貴族でも。
「話にならんな。帰ろうか、セリア」
黙って成り行きを見ていたシオン様が、私の腰に手を回し引き寄せます。
「そうですわね、シオン様。謝罪はなかったということで宜しいですわね」
実際、そういうことだと思うわ。
すると、慌てたのは令嬢の両親。
「「お、お待ちください!! 皇女殿下!!」」
あろうことか、彼らは私たちの進路を塞いだ。直ぐに、待機していた騎士に取り押さえられ、隅に引きずられる令嬢の両親。子が子なら親も親ってことね。
私とシオン様は両親を冷たい目で一瞥しました。謝罪の仕方をしらない人と話すことなどありませんから。時間の無駄ですしね。
反対に、ウルグス侯爵家の方々は違いましたわ。とはいえ、令嬢の両親よりはってことですが。
「皇女殿下、コンフォ伯爵様。大変申し訳ありませんでした。ゴードン伯爵家の者を茶会に呼んだのは私の責任です。罪はいかようにもお受けいたします」
夫婦二人で頭を下げてから、夫人が口を開きます。
「そう。なら、後は皇帝陛下と王太子殿下にお任せしますわ」
そう答えると、見る見る真っ青から真っ白になるウルグス侯爵夫婦。焦ってるのが、まるわかりね。私を言いくるめようとでも考えていたのかしら。
「「こ、皇女殿下!!」」
その声は、苛立ちと絶望が入り混じっていました。
「罪はいかようにもお受けするのでしょう?」
にっこりと微笑みながら、私は縋り付こうとする手を容赦なく払いのけます。自分が口にしたことは守らないといけませんわ。
「心を病んだ令嬢を皇女であるセリアに近付けた。その意味はわかっておるな、ウルグス侯爵。連れて行け。沙汰が下るまで謹慎していろ」
お父様が低い声でそう告げると、近衛騎士たちは侯爵夫婦を皇城から放り出した。ゴードン伯爵夫妻は貴族牢に放り込まれた。
さて、帰って来ない親を前にして、あの令嬢と姉はどう反応するかしら。
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