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覚悟はよろしくて
第三話 弱くてもいい
しおりを挟む「暫く私を一人にして」
元王城に戻って来た私は侍女二人にそう告げ追い出すと、一人でふて寝です。
「……大人気ありませんでしたわ」
ドレスのままベッドに横たわり、天井を見ながら出てくる言葉は自己嫌悪ばかり。
初めてのお茶会だったのに……途中で帰って来てしまいましたわ。マナーがなっていないと言われても仕方ない行為です。皇女として、シオン様の婚約者として、毅然と対応しなければならなかったのに……最悪ですわ。溜め息さえも出てきません。
いつもなら、どのような不愉快なことを言われても我慢出来ていたのに。あの時の私は我慢が出来なかった。あのままあの場に残っていたら、感情が爆発したかもしれない。周囲を凍りつかせたかもしれない。
それほど、不愉快で腹が立って、そしてとても悲しかった……
シオン様が、私のためだけに用意してくれたピアスを穢された気がして。
「……愛する人が出来るってことは、こんなにも心を脆く弱くしてしまうのですね」
身に沁みて知りましたわ。
「後悔してるの……?」
私しかいないはずの部屋に、私以外の声。顔を見なくても誰かわかりますわ。
「……お母様。さすがに、私も怒りますよ」
体を起こし言い放ちます。
「落ち込んでると思って、せっかく来てあげたのに」
見てたのですね。お母様のことだから、最初から見てたのでしょうね。
「余計なお世話ですわ!!」
完全に八つ当たりですわ。わかっていますが、そこにいるお母様が悪いのです。
「あら、酷い。……それで、後悔してるの?」
お母様は私の顔を覗き込みながら、嫌な顔をせずに同じ質問を繰り返してきます。
「後悔なんかしてませんわ!! そもそも、後悔なんてするはずないでしょ」
「なら、いいじゃない。今は弱くても」
「……それは駄目ですわ。毅然として、聞き流せるほど強くならないと」
お母様は何もわかってはいません。それが許されるのは平民だけですわ。私が弱味を見せるたり醜態をさらすと、困るのは皇家でありシオン様です。それでなくても、年が離れているのだから、何を言われるか。
「セリア、貴女は恋愛初心者なの。わかる? 初心者は弱くて当たり前なのよ。いきなり、上級者を目指しても失敗するだけ。取り返しのつかない醜態をさらすだけよ。あの場にそのまま残っていたら、魔力で参加者たちを威圧していたでしょうね。それとも、涙を見せた? どちらにしても、醜態よね」
お母様の言う通りです。反論の言葉が出てきません。唇を噛む私に、お母様は微笑みます。
「あの場から逃げ出したことは、マナーとしては決していいとは言えないけど、最善だったと言えるわ。……ねぇ、セリア。愛するって、とても力を消耗すると思わない? 心も体も。時には消耗し過ぎて、疲れてしまうこともあるわ。でも、それでいいと、私は思うの。魔力を増やすのと一緒だと思わない?」
お母様の極論に苦笑します。
「……そんな単純なものではないでしょ」
そう口で言いながらも、心の端では魔力の増やし方に少し似ているかもって思っている自分がいます。
魔力は枯渇するまで使って増やす。お母様の意見はかなり極端ですけどね。
「でもね、セリア、弱さは決して悪くはないわ。時には、とんでもない強さを生み出す。そのことは否定しないでしょ」
「…………しませんわ」
だって、知っていますもの。護るべき者がいる人の底力を。
「なら、いいわ。じゃあ、行ってらっしゃい」
そうにっこりと微笑みながらお母様は告げると、パチンと指を鳴らします。同時に足元には魔法陣。回避する暇はありせんでした。
「えっ、お母様!! どこに!?」
言い終わらないうちに変わる光景。よく知っている匂いと体温。抱え込まれる私の体。
「セリア!?」
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「セリア。何があった!?」
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