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我儘を言っていいですか
第十話 ケジメです
しおりを挟む「まさか、シオン様がピアスを用意していたとは思いませんでしたわ……」
呟く私に侍女が答えます。
「私も意外でした。用意しているのなら、さっさと渡せばよかったものを。変な意地を張らずに」
竜人の特性が意地ですか。相変わらず毒舌ですね。ちょっと、笑ってしまいます。
「そうですよね。全く。こういうのを何て言うか知ってますか。ヘタレって言うそうですよ」
ヘタレって。
侍女二人がプリプリと怒りながら、シオン様の文句を口にします。でもその後で、「「とてもお似合いです。セリア様」」と褒めてくれました。
私も何度も一人でピアスを眺めては微笑んでいます。傍から見たら、気持ち悪くて引かれそうですわね。でも、笑みが浮かぶのは止めようがありません。
シオン様の瞳の色……綺麗な透き通る緑色。あ……あの時のシオン様って、別人みたいで、それはそれで格好良くて、少し怖くて、思い出す度に頬が熱くなりますわ。
幼少時からシオン様のことを間近で見てきました。
保護者から恋人。婚約者。関係性が変わる度に、シオン様は新たな表情を見せてくれます。
「これ以上、私の心を縛り付けて……シオン様がいない生活は、もはや考えられませんわ」
溜息を吐きながらボヤいてしまいます。
ここが学園内の製作室で、私の側近たちがいたとしても。
クラン君もスミスも無言で黙々と仕事をしています。盛り上がっているのは侍女二人と私だけ。私のことを自分のことのように喜んでくれるのはとても嬉しいですが、それとこれは別ですよね。
「……ところで、ここにいる全員に訊きたいのですが、何故、シオン様があのパーティーの経緯を知っているのかしら? 不思議ですよね。王都にもいらっしゃらなかったのに」
にっこりと微笑みながら問い掛けます。
「確か……私はこの場だけでおさめるように言ったと思いますが、違いましたか?」
今度は侍女二人に視線を向けて尋ねます。
「「そっ、それは……」」
「それは何?」
ピタッと視線を合わせたまま重ねて尋ねます。
「「申し訳ありませんでした!!」」
仕方ありませんわね。今回は私を心配してのことですし、上司に報告するのは当たり前ですから。
「スミス。貴方がシオン様に報告する判断をしたのですね」
「はい」
スミスに視線を移しそう問うと、素直にスミスは認めました。
「……そんなに顔に出ていましたか?」
「いえ。私たち側近以外には気付かない程度でしたので、ご安心を。ただ、溜息が多かったですね」
「そうですか……私もまだまだですわね」
自分でも驚きですわ。多少は吐いていたのは覚えてますが、スミスたち側近が気に病む程に吐いていたとは。
「私たちの前で隠し事は出来ませんよ。セリア様」
スミスが言うと説得力がありますね。まぁ実際そうなんですけど。
「確かにそうですね。……それで、理由はそれだけですか?」
「何故、そうお考えに?」
質問を質問で返されましたわ。こういう時って、絶対何かしら関係があるんですよね。経験上。それに、思い当たる節もありまし。
「あのパーティー会場に、少し変わった方がいたからですかね。全く面識のない方ですけど」
たぶん、その方の目線があまりにも粘質的で気持ち悪かったので、侍女たちが心配したのでしょう。直ぐにこちらに戻るので心配ないと思ったのですが。
「セリア様はお綺麗なうえ才女。ましてや、皇女殿下です。妙な輩に好かれてしまう可能性がありますからね。シオン様にしっかりしてもらわないといけません」
なるほど、そのためにシオン様の耳に入れたのですね。
「理由はわかりましたわ。私を心配した故でしたら、これ以上は何も言いません。ただ、一言欲しかったですわ」
「これからは、そう致します」
スミスが頭を下げます。私を心配しての行動なのに、怒るわけにはいかないでしょ。それに、あのスミスがそうしたらいいと判断したのです。必要だったのだと思います。でも、これはケジメですわ。これで、この件は終わりです。
「皆、ありがとう。休憩は終わり。仕事片付けますよ」
そう声を掛けると、元気な声が返ってきましたわ。
「「「「はい。畏まりました」」」」って。
でもまさか、このピアスがあんな騒動を引き起こすなんて、この時の私は考えもしませんでしたわ。
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