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我儘を言っていいですか

第九話 逆転

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 片方の指でシオン様の耳朶を揉みながら、もう片方の指を鳴らします。

 直ぐに音を一切たてずに姿を現す侍女。

「お呼びでしょうか」

「例の持って来てくれるかしら」

 侍女に視線を向けることなく、侍女に命じます。婚姻前の婚約者同士としては、かなり密着した姿を見られましたが構いません。これくらいはまだ可愛らしいくらいですから。

「畏まりました」

 侍女の気配が消えました。

「何をする気だ?」

 シオン様が訊いてきます。

「さっき言ったばかりではありませんか、シオン様。お仕置きですよ。お・し・お・き」

 わざとゆっくりと言ってみました。シオン様の喉がゴクリとなります。頬が赤くなって、色気がだだ漏れですわ。

 ウッ!! これはお仕置きなのに、私の方が攻撃されていますわ。怯みそうになるのを必死に堪えながら、平然を装います。今更ながら、恥ずかしさが込み上げてきましたわ。だって、シオン様の両足を跨ぐようにして見下ろしているのだから。淑女がする姿勢ではありませんね。でも、この姿勢にはちゃんと意味があるんです。

「お持ちしました。セリア様」

 侍女の声が直ぐ側で聞こえます。

「シオン様。用意が出来ましたわ。それでは始めましょうか。動かないで下さいね」

 動かないでという言葉に魔力をのせます。これで、暫くはシオン様の動きを封じ込めれます。動かれたら困りますからね。とはいえ、シオン様が本気になったら、簡単に跳ね除けられますが。シオン様はそんなことしませんよね。

 ニコッと微笑みながら、私はシオン様の耳朶に魔法を掛けます。痛覚を感じないように。

「まっ、まさか!?」

 焦るシオン様。

 その姿を見て、針を持っていた手が止まります。

「……そんなにピアスをするのが嫌なのですか。私の色を纏うのが嫌なのですか」

 そう問わずにはいられませんでした。

「違「なら!! ……私はこれから先、女性の幸せはないのですね。シオン様と結婚しても、本当の夫婦にはなれないのですね。当然、子供を抱くことも出来ないのですね。だってそうでしょ!! ピアスの穴ぐらいの傷が耐えられないのなら、シオン様と夫婦にはなれないし、子供を産むことも出来ない。そういうことなのでしょ。違いますか?」

 涙が頬を伝い、シオン様の頬に落ちます。違うと言って欲しかった。でも、私が望んだ言葉を聞くことが出来ませんでした。

「……それでも、私はシオン様を愛しています。心から」

 どうして。悲しいのに、笑みが浮かぶのでしょう。

 お仕置きの名目で、ビアスの穴を開けようと思っていましたが、もうどうでもよくなりましたわ。

 シオン様から下ります。針をテーブルの上に置きました。

「……このピアス、イヤリングに作り変えますね。それなら、身に着けて下さりますよね」

 喜ばれない品を贈っても意味ありませんものね。それなら、身に着けて下さいますか。

 シオン様の返事を聞かないまま、ピアスを持って部屋を出ようと、シオン様から背を向けた時でした。腕を強く握られ、引き寄せられます。

 自然と、シオン様の胸に背中から倒れる私。声を上げるより早く、私の足は宙に浮きます。そのまま、奥の部屋に連れて行かれました。

 奥の部屋って寝室ですよね。

 勿論暴れようとしましたが、それよりも早く、シオン様にベッドに押し倒されます。文句を言おうと思ったら、目の前にはシオン様のアップ。

「シッ……ん……ん~~」

 いつもよりは長い口付けに、頭が朦朧としてきました。自分がどんな顔をしているか気遣う余裕なんてありません。

 目の前には頬が上気し、呼吸が荒いシオン様が私を見下ろしています。おかしいですわね。お仕置きしていたのは私の方なのに。完全に逆転してしまいましたわ。押さえられてるわけでもないのに、指一本動かせません。

 シオン様……?

 ぼんやりしながら私はシオン様を眺めています。

 ゆっくりとした動作でシオン様は自分の耳朶を掴むと針で穴を開けました。そして、いつの間にか私の手から奪い取ったピアスを身に着けます。

 シオン様が私の色を……。

「次はセリアの番だ」

 私の番……?

 シオン様はまだ呆然としている私にそう告げます。反応出来ない私を見て微笑すると、もう一度口付けをくれます。

 そして、私の頬を一撫ですると、優しく耳朶に触れてきました。

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