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我儘を言っていいですか

第八話 お仕置きですわ

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 パーティーから戻って来た次の日。

 シオン様に会うのは三日振りです。

 戻って来た日は、シオン様が夜勤だったので。なんでも、体調が悪い人がいたので代わったそうです。本当に、シオン様は部下思いの優しい方ですわ。数多くあるシオン様の魅力の一つですわね。

 会いに行こうと思えばいつでも会いに行けたのですが、結局会いには行けませんでした。私にも、考える時間が必要だったのです。気持ちを落ち着かせる時間も。

 仕事が終わり、私とシオン様二人っきりの僅かな時間。

 私はいつもと同じ定位置。シオン様の膝の上で、シオン様を見上げています。一日、気持ちを落ち着かせたので、今日こそは訊こうと心に決めていました。うじうじと考えるのは、正直疲れましたわ。私らしくありませんし。なので、さり気なくそういう風に話を持っていこうと考えていました。あくまで、出来ればですが。無理はしませんよ。

 なのに、いざ口を開こうとしたら、それ以前の問題が発生しましたわ。

 どういうことですか? これは。

 いつもと同じ様に目線を合わせれば、ぎこちなく逸らされます。ましてや今日は、特に言葉も少ないです。何か気に障ったことをしたのかと思ったのですが、私を膝から下ろすことはしません。それどころか、ガッシリと腰に手を回されています。

「……シオン様。どうかしたのですか?」
 
 そう尋ねても、素直に答えてくれません。それどころか、しどろもどろです。言葉を濁してますわ。

 いつもの自信満々な様子とは違い、おどおどしている様は、それはそれで、熊のようでとても可愛らしいのですが。何かしてしまったのかと気になりますわ。凄く。
 
 見に覚えはないのですが……まさか、パーティーのことは知られてませんよね。もしそうなら、私的には幸運かもしれません。そういう方向に話を進められるから。でも……それを確かめる術が見当たらない。

 俯いて考え込みます。シオン様の視線を強く感じながら。ふと、視線が弱くなりました。同時に、頬がふわりと温かくなります。シオン様が私の頬を大きな手で撫でていました。そして、私の耳朶を掴み軽く揉みます。

 シオン様の表情は見てませんが、その行動だけでわかりましたわ。

 全く……仕方ありませんわね。どうやら、パーティーの場で囁かれた内容を知られてしまったようですね。侍女が話しましたか? それとも、報告を受けたスミスが話しましたか? まさか、他の貴族ではないでしょう。侍女二人もスミスも、私のことを考えてのことだとは思いますけど。気持ち的には嬉しいですわ。それでも、これは頂けません。後できちんと言わなければなりませんね。

 私の耳朶を揉む手が止まります。

 シオン様……?

 顔を上げると、悲しみと痛みが混じったような辛そうな表情で、シオン様は私を見詰めていました。

「…………すまない」

 漏れる声も、とても苦しげです。

「……理由を伺っても宜しいですか?」

 今まで、どうやって聞き出そうか悩んでいたのが嘘のようですわね。

「…………セリアにピアスを贈りたい。でも、セリアが傷付くのは嫌だ」

 傷付く? ピアスですよ。小さな穴が開くだけじゃないですか。

「たかが、ピアスですよ」

「それでもだ。セリアを傷付けられない。それがピアスでも」

 まさか、そんな理由だとは思いませんでしたわ。傷付けたくないって……そんなことを言われたら、怒れないじゃないですか。文句も言えないじゃないですか。

「…………竜人特有の習性ですか?」

「すまない。セリア……」
 
 私が尋ねると、益々辛そうに顔を歪め認めるシオン様。 

 本当に、シオン様はズルいですわ。文句どころか、嫌な表情も辛い表情も出来ないじゃないですか。反対に、嬉しくて泣きそうになりましたわ。

「セ、セリア!! すまない。本当に悪かった。だから、泣かないでくれ」

 泣きそうになっていましたが、泣いてはいませんよ。

 そう言おうとしたら、シオン様のゴツゴツとした指が私の目元を軽く拭います。

 そこで、私は始めて自分が泣いていることに気付きました。

「……どうして、言ってくれなかったのですか? 私が怒ると思ったのですか? ヒック。それとも、駄々をこねると思ったのですか? ヒック……始めから言ってくれてれば、ここまで不安になることはありませんでしたわ」

 言ってくれてれば、こんなにも不安な気持ちにはならなかった筈です。馬鹿みたいに涙をながすこともありませんでしたわ。

「すまない。本当に悪かった。どうしても言えなかった……」

「……どうしてですか?」

「これまでも、竜人の気質のせいで色々セリアに無理を押し付けているだろ。だから、言えなかった」

 何ですか、その理由は!?

「手を離して下さい」

 静かだけど、怒りを含んだ声で言い放ったけど、シオン様は離してくれませんでした。

「手を離して下さい!!」

 なので、強く言い放ち、私は思いっ切りシオン様の手を叩きました。怯んだ隙にシオン様の膝から下ります。

「セリア……」

 呆然と呟くシオン様。手を伸ばし掴もうとしますが、途中でその手が止まります。そんなシオン様に、私は強く言い放ちました。

「馬鹿ですか。それが理由なんて、私を馬鹿にしてるんですか!! 今更、竜人の気質が原因で離れたりしません。私の覚悟をその程度だと思っていたの「違う!!」

 途中で言葉を遮られました。同時に抱き込まれる体。シオン様の心臓の鼓動が早い。

「離して下さい!!」

「嫌だ!! 絶対に離さない!! ……怖かった。怖くて怖くて仕方なかった……セリアがそんなことを口にしないってわかってる。だけど、一抹の不安が頭を過ぎった。セリアに見捨てられるんじゃないかって。そう思ってしまうと、尚更口にすることが出来なくなった……。情けないな……」

 シオン様の体の震えが伝わって来ます。

「本当に情けないですね」

 私の言葉にビクッと震えるシオン様。途端に、抱き締める手が強くなります。

 私を失うかもしれないことが怖かったーー。

 その言葉に頬が緩みます。私も相当甘いですよね。言葉一つで今までの蟠りが嘘のように消えていくなんて……。ピアスよりも嬉しいモノをもらいましたわ。シオン様の本心を。

「離して下さいませ。シオン様」

「嫌だ」

「なら、これから一週間口をききませんし、シオン様の膝にも座りませんよ」

 そう告げると、渋々、本当に渋々離してくれました。やれやれですわ。

 私はシオンの頬を両手で挟むと顔を寄せます。唇が合わさるギリギリで止めると、そのまま告げます。

「シオン様。私怒ってますの。悲しくて傷付きましたわ。なので、これはお仕置きです」

 頬にあった手をシオン様の柔らかい耳朶にもっていきます。それから、シオン様が少し前までしていたように軽く揉みました。

 目を見開くシオン様に、私は満面な笑みを浮かべて告げます。

「覚悟して下さいませ。シオン様」と。



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