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我儘を言っていいですか
なら、やることは一つだ
しおりを挟む何とも言えない、脱力と呆れた空気が流れた。居たたまれなくなる。
「…………竜の気質と言われたら、まぁ納得せざる得ませんが、だったらせめて、ピアスに見えるようなデザインの物をお渡しすればよかったのでは」
尤もな侍女の言葉に頷くスミスとアーク。
「うっ!!」
だが俺は、致命傷に近い傷を負った。確かにそうだ。そうすればよかった。なんて俺は馬鹿なんだ。四十も越えて、それなりに色々なことを経験してたのに、そこまで考えが及ばなかった……俺は馬鹿もいいところだ。
「それに、ピアスじゃないことであらぬ噂もたったようですし」
打ちひしがれる俺に、更に侍女は告げる。
「…………噂?」
「セリア様が、強引にコンフォ様に迫り無理矢理婚約したと。
なので、コンフォ様はピアスではなくイヤリングをわざと渡した。仮面夫婦ならぬ仮面婚約だと、貴婦人たちは囁いていました」
「はぁ!?
仮面婚約だと!!
誰がそんな馬鹿げたことをぬかしたんだ!!
ああ!? 言うに事欠いて、俺がセリアと無理矢理婚約してるだと!!
確かに強引な押しだったが、俺はそんな一生懸命なセリアを、俺の言葉に一喜一憂するセリアを可愛く想ってる。愛しく想ってるんだぞ!!」
四十を越えたオッサンの心の叫びに、皆残念なモノを見る目で俺を見る。
「……父上。その台詞、外では絶対言うなよ。完全に変質者の台詞だ」
アークが酷く疲れた声で失礼なことを言う。
「俺は恥ずかしくないぞ!!」
勿論、反論するぞ。アークでも、セリアの愛に対して異論は言わせない。
「そういう問題じゃない!! そもそも、四十過ぎたおっさんが、まだ十六の女の子を娶るんだ。形は政略結婚だから、皆表向き何も言わないが、それが恋愛結婚なら、完全にロリコン扱いされるからな。そこんとこ分かってるのか、父上」
ーーロリコン。
俺はロリコンなのか……
確かに、自分の子供よりセリアは下だ。
歳のことを言われたら何も言えない。魔法具で若返ったとはいえ、四十過ぎのオッサンには違いないのだから。でも、俺はロリコンじゃない。そこは強く否定するぞ。
「違う。俺はロリコンじゃない。セリアだけが対象者だ」
「はぁ!? 尚悪いわ」
「どこが悪いんだ!?」
じっくり話し合う必要があるな。そう考えてると、鋭い声が割って入った。
「いい加減になさい。シオン様、アーク様。論点がかなりズレてますよ」
スミスが青筋を額に浮かべながら、俺とアークの譲れない論争を中断させた。
「害虫の件、どうやって排除するつもりですか?」
すまない、セリア。まずは害虫の駆除をするのが先だな。
「排除はする。だが、セリアには気付かれたくはない」
セリアが俺以外の男のことを考えるのは不愉快だ。例えそれが、気持ち悪いといった不愉快な感情でもだ。
ほんと、我ながら心が狭い。
「それは当然の処置です。セリア様に気付かれないよう迅速に、且つ徹底的に潰しましょう」
「ああ。徹底的に潰す。まずは情報収集だな」
十年前と状況は大分違っている。
「それに関しては、こちら側で対処致します。友人がいますから」
スミスが告げる。現役から離れても、まだまだ影響力は大きいってことか……怖いな。
「なら、父上、俺はそれと無しに、父上とセリアが仲がいい噂を流しておくよ。俺としてはこんな噂不本意だけど」
苦虫を噛み潰したような苦い顔をしながらアークは言う。
「悪いな」
「父上のためじゃない。セリアのためだ」
「それでも、俺は嬉しい」
そう告げると、物凄く不本意な顔をされた。
さてと。裏工作は彼らに任せて、俺は正攻法で攻めるか。だとしたら、
「俺はセリアと一緒にパーティーに出ればいいのか?」
「魔物が落ち着けばですが」
スミスの言うことは尤もだ。なら、俺が今やることは一つだけだ。
俺は脇に置いてあった愛剣を掴むと背負った。そのままアークの襟首を掴み執務室を出た。
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