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我儘を言っていいですか

俺は頷くことしか出来なかった

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 アークと魔物討伐の打ち合わせをしていると、ノックがした。

 今日は面会人はなかった筈だが。急用か。

 入室を許可する声を掛けるよりも早く、ドアを開け入って来たのはスミスと侍女だった。

 セリア付きの戦闘侍女がどうしてここに? まさか!!

「セリアに何かあったのか!?」

 いや。何かあったら、侍女はここにはいない筈だ。当然、スミスもだ。

「コンフォ様。お話があります」

 ほぼ同時に俺とスミスが声を上げた。一瞬、場が静まる。スミスが俺のことをコンフォと呼ぶ時は、決まって俺に対し何かしら意見がある時だ。自然と顔が強張る。

「……コンフォ様。まずご報告を。無事、セリア様は戻られました」

「セリアが戻ってる? なら、何で俺の所に来ないんだ? 怪我でもしたのか?」

 思わず、考えていたことが声となって出たらしい。

「とうとう嫌われたか。父、痛っ!!」

 冗談でも不穏なことをほざくアークの頭を、俺は容赦なく殴る。蹲るアークに、侍女とスミスは冷めた目で見下ろしている。

「先程、私は無事にと申し上げた筈ですが」

 スミスは呆れ顔をしながら、もう一度同じ言葉を繰り返す。

「なら、何故、セリアは来ないんだ? もしかして、パーティー会場で何かあったのか?」

 心配でならない。今すぐ飛んで帰りたいが、今この場を離れることは出来ない。ジレンマが俺を襲う。

 そんな俺に、スミスが一言。「来て当然と思っているのですね」と言った。

「どういう意味だ?」

 聞こえたぞ。もしかして、俺に喧嘩でも売っているのか? 買うぞ。例え、スミスお前でもな。

「いえ。深い意味はありませんよ。
 ……そうですね。パーティーでは色々あったようですよ」

 そうでなければ、スミスがわざわざ侍女と一緒に砦には来ないだろう。でも、

「何故だ?
 俺が参加出来ない代わりに、全身、俺の色に染めた筈だが。
 皇族と俺たちコンフォ伯爵家に喧嘩を売る馬鹿がまだ居たのか?」

 真面目に話しているのに、何故か残念なモノを見る目で見られてるのは何故だ? 特に、侍女の目が酷い。さすがの俺も傷付くぞ。

「喧嘩を売ってはいませんよ。ただ……初恋を拗らせに拗らせた馬鹿がいただけです」

 それだけで、俺はその馬鹿が誰か理解した。当然、アークもだ。

「……クニール公爵嫡男レイモンドか?」

 発する声はとてもとても低い。蘇る記憶。

「忘れてはいませんでしたね」

「「忘れるわけないだろ!!」」

 スミスの台詞に同時に突っ込む、俺とアーク。

「あの馬鹿、まだセリアを諦めていなかったのか!!」

「十年間、一度も会ってないだろ。それで、尚も諦めないって、どういう神経してるんだ?」

 俺とアークはここにいないレイモンドに対し憤る。その時だ。

「コンフォ様。アーク様。ここで質問です。
 レイモンドの瞳の色覚えてますか?」

 ずっと黙っていた侍女が、突然間の抜けた声で訊いてきた。

 突然何だ!? あの小僧の瞳の色!? それがどうした!?

 質問の意図が分からず、俺は剣呑な目で侍女を見る。その横で、アークが「あっ!!」と声を上げる。

「アーク様は気付いたようですね。そうです。コンフォ様と一緒の緑色です。
 そこで問題です。
 全身、緑色で装飾された美しさと可愛さを兼ね備えたセリア様を見た、初恋を拗らせた馬鹿は、果たしてどう考えるでしょうか?」

 想像するだけで腸が煮えくり返る。穢らわしい奴の目にセリアが映っただけで、その目を抉りたくなる。

「更に質問です。
 セリア様はイヤリングを与えられました。ピアスではなく。それがどう皆様に捉えられてるのか、コンフォ様は考えたことがありますか?」

「えっ!? 父上、セリアにピアス贈ってないのか!?」

 全員から視線が集まる。完全に非難の目だ。分かってはいる。だけど、

「……贈ってはいない。俺だって贈りたい。だが、セリアの体に傷を付けたくない気持ちが強くて出来ない。例え、ピアスの穴一つでもだ」

 完全に呆れ果ててるだろうな。でも、番であるセリアの体を傷付ける行為は、俺にとって恐怖でしかなかった。

「……………まさか、そんな答えが返ってくるとは思いませんでした」

 だろうな。

「竜の性質ですか……ほんと厄介ですね。シオン様」

「俺もそう思う」

 スミスの言葉に力なく頷くしか、俺には出来なかった。



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