婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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我儘を言っていいですか

第七話 目から鱗ですわ

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「あれ? スミスはどうしました?」

 顔を上げると、スミスではなくクラン君が立っていました。

「外せない用事が出来たそうなので、代わりにこれを渡すように頼まれました」

 スミスの代わりに書類を持って来たクラン君に尋ねると、そんな答えが返ってきました。

「外せない用事?」

 急を要する用事はなかったと思いますが。それでも、スミス自身が動くのです。それなりのことか起きたのでしょう。

「はい。詳しいことは知りませんが……」

「……そう」

 嘘ね。クラン君、何か隠してますね。少し顔が強張ってますもの。昔よりはかなり成長したようですが、まだまだですね。スミスに口止めでもされましたか。そうですか……仕方ありませんね。聞き出すのは止めておきましょう。

「ありがとう。…………クラン君、どうかしましたか?」

 私は書類を受け取ります。いつもならそのまま下がるのに、何故かクラン君は下がろうとはしません。

「いえ。ここにいるのが不思議で。
 いつもなら、真っ先にコンフォ伯爵様の元に向かわれるのに、仕事をなさっておいでなので……」

 いつもとは違う行動に、心配するクラン君。

 そうですね。いつもの私なら、迷うことなく、城に戻るよりも先にシオン様の元に向かいますね。そして、シオン様を一杯補充してから渋々戻るのが、いつものパターンですものね。

「別に喧嘩をしたわけではないから安心して」

 そう言いながら人払いします。

 クラン君と二人きりになるのは珍しいですね。いい機会ですから、ここは素直に恋愛の先生に意見を伺いましょう。

「……喧嘩はしていませんわ。ただ……会いづらいというか……」

「会いづらいのですか?」

 心底、驚いた表情をしていますね。私の口から、その言葉が出るとは思ってなかったみたいですね。

「クラン君は将来、恋人に、伴侶にビアスを贈りたいと思っていますか?」

 いきなりの質問に、クラン君は戸惑うことなく話してくれます。

「そうですね。別にビアスに拘るつもりはありませんが、何かしらの装飾品を贈りますね」と。

 え……?

「ピアスに拘らないのですか?」

 まさか、そんな返答が返ってくるとは思いませんでしたわ。

「俺はそうですね。一般的にはピアスでしょうけど、相手を思う物なら別に何でもいいのではないでしょうか?」

 確かに。目から鱗ですわ。

「……そうですね。私は馬鹿でしたわ。ピアスが貰え無いことが辛くて、そう思い込もうとしてましたわ」

「セリア様はピアスが欲しいのですか?」

「拘っていたって、言った方が正確ですね」

 苦笑が漏れます。

「それでも、別に構わないと俺は思いますが。男って、愛している人が欲しい物をあげたい生き物ですからね。まぁそれは、男に限らないと思いますが」

「そうですね。私も、シオン様が欲しい物は何としても手に入れたいですわ。例えばそれが、他国の宝物だったとしても」

 素直にそう答えると、何故かクラン君に引かれてしまいましたわ。

「セリア様。犯罪には走らないで下さい」

「バレなければ犯罪にはなりませんわ」

「行為そのものが犯罪ですから」

「冗談ですよ、クラン君。さすがの私もそこまではしませんわ」

「本当ですか? 若干不安が残りますが……。兎に角、一度、ピアスが欲しいと口にされたら如何ですか?」

 信用してませんね。冗談ですのに。まぁでも、一度おねだりというのに挑戦するのもいいかもしれません。上手くいけば、くれない理由に誘導出来るかもしれませんし。くれない理由を訊くよりもハードルが低そうです。

「そうですね。上手く誘導すれば理由も聞けますし。本当に、クラン君に相談して良かったですわ。道筋が見えましたもの。その分、会いづらさも軽減しましたわ」

「……それはよかったですね」

 にっこりと微笑む私とは違い、微妙な表情をするクラン君。私、使う言葉間違えました? 



 

 

 一方、その頃。

 スミスは侍女の報告を聞いていた。

「ーーなるほどな。緑のドレスを勘違いしたわけか……どこまでも、自己中な奴だな」

 さすがのスミスさんも嫌悪感丸出しだわ。

「自分も緑の目ですからね~~」

「セリア様のお言葉を、自分に対する告白と受け取ったのか」

「そうですね。何なら、今からサクッとしてきましょうか?」

 喜んで行ってきますよ。

「それは、まだ早い。きっちり現実を知ってからでいいだろ?」

「その後で、サクッといきますか?」

「そうだな。考えておこう。それよりも今は、コンフォ様にお会いするのが先だな」

 スミスさんの口角が上がる。ほんと、いい表情ね。

「はい」

 そう答える私も負けてないと思うけどね。


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