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我儘を言っていいですか

執務室の密談

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 セリア様のお世話という至高の時間を邪魔され、セリア様に気付かれないようにソッと抜け出し向かうのは、皇帝陛下の執務室。渋々近衛騎士と一緒に。逃亡防止よね、絶対。

 一緒に来た近衛騎士が扉をノックし、入室を許可されたのは侍女の自分だけ。この時、一瞬目が合った近衛騎士に、物凄く同情的な目で見られたわ。

 ほんと、マジ勘弁して欲しい。うんざりしながらも、表情は神妙な面持ちのまま。外面が大事なのはスミスさんから嫌っていう程教わったからね。スパルタで。

 それほど広くない執務室では、既に皇帝陛下と皇太子夫妻、そして宰相様が座っていた。

 セリア様を除く、コンフォート皇国の中枢が勢揃いしたよ……マジ、お家帰りたい。

 そのまま踵を返して逃げ出さなかった自分を褒めたいわ。ハズレくじを引いた自分を心底恨みたくなったよ。シクシク。

 呼ばれた理由は想像がつくわ。まず間違いなく、あの男のことよね。

「呼ばれた理由は分かってるな?」

 早速、皇帝陛下が訊いてきた。皆様の視線が痛いわ。これって、完全に尋問よね。

「……クニール公爵家令息、レイモンド様のことでしょうか?」

 そのことしか思い付かないわ。

「アイツ、まだセリアの事を諦めていなかったようだな。相変わらず気持ち悪い奴だ」

 腹立たしく吐き出すのは皇太子殿下。

 正解だけど嬉しくない。それにしても、良心とは思えない程口が悪いわね。まぁ当然か。

 私の大事な、大事な美しいセリア様を、あんな暗く濁った目で舐め回すように見ていたのだから。何度、その両目を潰してやろうかと思ったことか。セリア様の初めてのパーティーだから必死で我慢したのよ。血で汚したくないもの。相棒も歯軋りしながら我慢してたわ。

 クニール公爵はそれなりの方だと噂で聞いていたけど、子育てには失敗したみたいね。次代の皇帝陛下にこうも嫌われたら、公爵家を継いでも出世はまず無理。公爵家なのに、重要な職は与えられない窓際職に決定ね。公爵を継げればだけど。

「それで、セリアはアイツのことを覚えているのか?」

 訊きたいことはそれね。

「いえ、皇帝陛下。セリア様はレイモンド様のことを全く覚えておりませんでした」

 私の返答に、皆様満面な笑みを浮かべる。

「セリアにとって、アイツは只の通行人程度だったってことだな」

 嬉しそうね。それにしても、本当に、セリア様は皇帝陛下に似てるわね。この黒い笑みなんてそっくりだわ。

「コンフォ伯爵と御子息たちが、速攻排除しましたから、尚更記憶に留まらなかったのでしょう」

 あの手腕は大したものだと、今も鮮明に記憶しているわ。

「ああ。そうだったな。それで、セリアは何と言っていた?」

「レイモンド様が出席するパーティーには出ないようにしよう、と仰っておりました」

「それが無難だな。二年後には結婚が控えているしな。それに、シオンの側にいるのが一番安全だろ」

 確かに。コンフォ様から奪い取れる者など皆無だわ。

「はい」

 皇帝陛下のお言葉に私は頷く。

「……確か、レイモンド様も婚約者との婚姻を間近に控えていたと記憶していますが」

 ずっと黙っていた皇太子妃殿下が、とても良い笑顔で会話に加わった。

「はい。半年後に教会で式をあげると聞き及んでおります」

 宰相様が告げると、一気に室内の温度が下がった。勿論、その要因の一つは私だけどね。

「へ~~婚約者がいて式が間近なのに、セリアをあんな獣のような目で見てたのか……そうか、そうか」

「命知らずですね」

「そうですね」

 皇帝陛下に賛同するように次々と声をあげる、皇太子夫妻。そんな中で、宰相様だけは違った。

「それで、何人付けますか?」

 具体的な案の提示。付けるのは暗部の人数。

「手のあいてる奴を全員付けろ」

 当然ね。

「クニール公爵様には内密で宜しいですか?」

「ああ。報せなくていい」

 ほんと、セリア様と皇帝陛下はよく似ているわ。思考回路がね。

 報せない理由は、奇遇に終わる可能性があるからじゃない。今は何とでも言い逃れる余地があるからよ。それに、敵認定した奴を追い込み止めを刺すのは、それなりの舞台が必要だから、ここは敢えて泳がす。

 その方がスパイスが効いて最高な塩梅になるからね。私的には大賛成。早速戻ったら、スミスさんに報告して、こちらも策を練らないとね。

 その時に、ピアスの件も一緒に報告しないといけないよね。そもそも、切っ掛けはそれなんだから。
 

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