172 / 342
我儘を言っていいですか
第四話 ピアス一つで
しおりを挟むファーストダンスで思いっ切りお父様の足を踏んでやりましたわ。三回。勿論、誰にも悟られないように。結構技術がいりますのよ。
「おい。セリアわざとだろ。シオンが来ないからって、俺でウサを晴らすな」
曲が終わり、盛大な拍手の中で、お父様が小声で文句を言ってきます。
「何のことでしょう。シオン様は皇国を護るために働いておいでです。私に不満などあるわけないでしょう」
膝を軽く曲げ礼をしながら答えます。
「嘘を吐くな」
退場しながらも問答は続きます。今日はしつこいですわね。
「心外ですね。私はそこまで心が狭くありませんわ」
「なら、何故わざと踏んだ」
まだ続きますの。内心ウンザリとしながらも、顔は笑みを浮かべたまま答えます。
「答えなければなりませんか? しいて言うのなら、お父様の不用意な一言のせいですわ」
「俺が何を言った?」
はぁ!? 私が教えるわけないでしょ。
「そこまで親切ではありませんわ。自分で考えて下さいませ」
私とお父様のやりとりは、他の方には一切聞かれていませんわ。いませんが、何やらコソコソと囁かれていますね。私の方を見て。
何か失敗しましたか? もしかして、わざと足を踏んでいるのを見られたかしら。でもそれは、可能性としては低いですわ。……少し気になりますね。とはいえ、いきなり彼女たちの輪に入るわけにはいきませんし。どう致しましょう。
思案していると、お義姉様がリムお兄様と一緒にやって来ました。相変わらず仲がいいですね。リムお兄様の変わった趣味も笑って容認されていますし。あのお父様も受け入れておいでです。本当に懐の深い方ですわ。シオン様の次ですけど。
「セリアちゃん。初めてのパーティー、楽しんでらっしゃいますか?」
ニコッと微笑みながら、お義姉様が訊いてきます。
「楽しいと感じるまで慣れてはいませんわ。表情筋が今にも攣りそうです」
常に笑みを浮かべていなけれはいけないのって、意外と神経と体が疲れるものなのですね。勉強になりましたわ。
「そういう時は扇で口元を隠し、筋肉を休ませると宜しいですわ。但しその時は、目は笑ったままにしとかなくてはいけませんよ」
具体的に教えて頂いたのでやってみましたが、結構難しいものですね。完璧に習得出来るまで時間が掛かりそうですね。次のパーティーまでにはものにしときましょう。宿題ですね。
「ありがとうございます。お義姉様。次のパーティーまでには出来るようにしときますね」
ニッコリと微笑む私に、お義姉様は更に教えてくれました。
「セリアちゃん。社交の場では常に堂々とした姿勢でいなけれはいけません。皇族関係なく。そうでないと、相手に付け込まれますからね。自分を護る盾を自分で作るのです」
どうして、お義姉様がその言葉を口にしたのか、私は直ぐに気付きました。
やはり、参加者たちが私に関してコソコソと話していたようですね。
一体何を?
そう考えていた時です。お義姉様がさり気なく私の耳に手を添えてきました。
「全身コンフォ伯爵の色なんて、余程伯爵様はセリアちゃんのことを自分のものだと仰りたいのですね」
若干声が大きいです。お義姉様。さり気なく周囲に聞こえるくらいの微妙な大きさでした。
なるほど、そういうことですか。合点がいきましたわ。服装に疎いお父様でも気付いたのです。敏い参加者たちなら直ぐに気付いたでしょうね。挨拶に来られましたし。ほんと、よく見てますね。
デビュタントで三回も踊ったのに、いまだにコンフォ伯爵はピアスを贈っていない。年の差。そして私が皇女故に、様々な憶測をよんでいるようです。
不仲説。それとも、私の我儘で無理矢理婚約者にされたのか……憶測の内容はこんなところでしょうね。とても不愉快ですけど。
ピアス一つで愛情まで疑われるなんて……悔しいですわ。でも今は、そんな負の表情を表に出してはいけない。なら反対に、微笑んでみましょう。
「違いますわ、お義姉様」
「あら、違うの?」
同意すると思っていた私が異を唱えたことに驚くお義姉様に、更に笑顔を上乗せして告げました。
「シオン様は参加されていますわ。
だって、私は常にシオン様の想いに包まれていますもの。姿が見えなくても、今もこうして、シオン様が肩を抱いて護って下さっていますわ」
嘘や大袈裟ではありません。ましてや、この場限りの言い逃れでもありません。心底、嘘偽りなくそう思っているのです。
「……セリアちゃんは、本当に良い人に巡り会えたのね」
とても優しい、慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら、お義姉様はそう言ってくれました。
「はい。本当に」
その飾らない言葉がとても嬉しかった私は、自分がこの時どんな表情をしていたのか知りませんでした。
19
お気に入りに追加
7,461
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。