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我儘を言っていいですか

第三話 ファーストダンス楽しみにしていて下さいね

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 一般的に、春の終わりから秋の半ばまでが社交シーズンとされています。

 とはいえ、実際パーティーが開催されるのは、春の終わりから初秋まで。夏はほぼ室内で行われます。日焼けしたくはありませんからね。それにドレスを着て、その上コルセットを締めた状態で炎天下って、確実に死者が出ますわ。どのような猛者でも。私なら、コルセットを締めた途端軽く死にますね。

 情けないですが、まぁこれでも一応皇女ですわ。らしくはありませんけどね。とはいっても、社交の場など婚約破棄されたあのパーティー以外参加していませんわ。当時は未成年でしたが、一度代理として参加致しました。成人してからはないですね。一度も。

 リーファとジーナ様は「「信じられない」」って言って驚かれましたわ。まぁそれが、普通の反応ですね。明らかにおかしいのは私の方ですから。自覚はありますよ。

 別に、社交そのものを否定するつもりは毛頭ありませんわ。他者の考えを聞くいい機会ですし。勉強になりますわ。貴族間の力関係を知ることは領地を統治するのに必要ですし。社交パーティーは大事だとは思います。

 思いますが、出来れば参加したくはありませんわ。肩が凝りますもの。それに履きなれないヒールを履いて、普段痛くならない箇所が筋肉痛になりますし。とはいえ、成人しましたし、いつまでも逃げてる訳にはいきませんね。

 という訳で、最低限参加することにしました。

 そこで選んだのが、例の婚約破棄されたあのパーティーですわ。ほんと、一年経つの早いですね。一度参加したことがあるパーティーなので、少し勝手が分かってますからね、デビューにはもってこいでしょ。

 今回はコンフォ伯爵家の代行ではなく皇族側としての参加ですわ。シオン様と一緒に参加したかったのですが、残念なことに魔物の繁殖期の兆しが見えたのでお留守番です。となると、当然アーク隊長たちも不参加ですね。

 今回は準主役であるコンフォ伯爵家の方々は誰も参加されませんが、皇国を護るためですもの、仕方ありませんわ。日にちをずらそうという案も出ましたが、英雄の誕生日ですからね、正直それは出来ませんでしたわ。失礼ですからね。

 出席するパーティーを決め、色々準備をしているうちにやって来ました。

 今日はパーティー当日です。

 シオン様にプレゼントされた薄緑色のドレスを身に纏い出陣です。

 因みにシオン様の瞳の色は緑色ですわ。全身、シオン様の色です。とても嬉しかったですわ。愛されてる幸せで胸が一杯でした。

 でも……ピアスは贈られませんでした。ピアスの代わりにイヤリングがプレゼントされましたが……。何故、ピアスじゃないんでしょ。

 シオン様の瞳の色のドレスや装飾品をプレゼントされたことは嬉しかったのですが、ほんの少し、心にチクッと鋭い痛みが走りました。幸いにも、シオン様に気付かれないですみましたが。考えても仕方ありませんね。答えなど出ませんもの。それよりも今は、目の前のことに集中しないと。

 シオン様の代わりに私のエスコートはお父様がしてくれることになりました。リムお兄様は義お姉様をエスコートしなければいけませんからね。

 呼ばれるのを待っていると、小声でお父様が話し掛けてきました。

「よく、シオンが参加を許したな」と。

 シオン様の執着振りをよく知ってるお父様ですからね。その疑問は尤もですわ。

 そういうお父様の執着振りも大概ですけどね。口にはしませんよ。場を弁えていますから。少しで時間が取れたら、お父様、柱や木の影からお母様をじっと見ていますからね。私でも若干引きますわ。それはさておき、

「一悶着はありましたが、まぁこれも仕事ですからね。最後まで同行すると仰ってましたが、振り払って来ましたわ」

 苦笑しながら答えます。

「…………そうか。大変だな、部下が」

 その情景が簡単に想像出来たのか、お父様は頬を引き攣らせながら呟きました。

 それを聞いた私とリムお兄様は、おそらく同時に心の中で突っ込んだ筈です。

 いやいや、お父様がその台詞を言ったらいけないでしょって。

「シオン様は部下に当たりはしませんよ。その代わり、魔物の死骸の山が沢山築かれますね」

「それに付き合わされる部下が可哀想だな」

 本当に、心からそう思いますわ。但し、お父様の部下がですが。

「そうですか? 良い訓練になると思いますが」

 そう答えると、お父様が呆れます。いや、呆れてるのは私の方です。

「そう思うのはお前だけだ。……セリア、準備はいいか?」

 お父様が手を差し出します。その手に自分の手を添えます。

「はい」

「それ、イヤリングか。ピアスじゃないんだな」

 お父様にとったら、何気ない一言だったと思います。

 しかし、私にとってその台詞は、ピシッと体が硬直させる程の威力がありました。だとしても、私はこれでも皇女です。直ぐに仮面を被り直しましたわ。そして心の中で呟くのです。

 お父様。ファーストダンス楽しみにしていて下さいね、と。

 
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