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我儘を言っていいですか
第二話 形が全てではありませんわ
しおりを挟む今日は仕事がはかどりませんね。集中が出来ないっていうか……注意散漫っていうか……まぁ、理由は分かってますけどね。
原因はピアスです。
本当はとてもとても欲しいんです。リーファのように。
「あ~~もう!!」
休憩しますわ。仕事になりませんもの。少し頭を冷やさないといけませんね。ほんと、自分が情けないですわ。ピアス一つでこんなにも心が乱れるなんて。
実は、心の片隅で期待してましたの。
ずっと。
婚約が決まった時や、プロポーズされた時に贈られるんだって。勝手にそう思ってました。なのに、その気配は皆無。ピアスのピの文字も出て来ません。これでも女子ですからね、愛してる男性からどういう形で贈られるか、それなりに夢を見ますわ。そもそも贈られてもいませんけど。
リーファのように護るために敢えて贈らないとはっきり告げられれば、おねだり出来るでしょう。だけどね……私の場合は、そんな政治的な意図はあまりありませんからね。おねだりするのも躊躇しますわ。
何度も言いますが、本来なら、男性側から贈られるものですもの。
シオン様はそういうのに疎いですからね。
思い返せば、ドレスや宝飾品を贈られたのも、デビュタントの時だけですね……。当然、白ですけど。
「はぁ~~」
もう溜息しか出ませんわ。
別に宝石やドレスを贈って欲しいと思ってるわけではありませんわ。着る機会も殆どありませんから。
でも……ピアスだけは違うのです。
「ここは思いっ切って、リーファ様のようにおねだりしたら如何ですか?」
何度も溜息を吐く私に、侍女の一人がそう提案してきました。するともう一人が、すかさず切り返してきます。
「セリア様から? このタイミングで? それはちょっと色々な意味で厳しいのでは?」
私もそう思います。今更無理ですわ。私の誕生日まで、まだまだ時間ありますし。
「確かにそうですけど……」
言い淀む侍女に、さっき切り返した侍女が提案してきました。
「なら、コンフォ様に圧力を掛ければいいのでは?」
「圧力?」
「どんな風に圧力をかけるのですか? シオン様に」
悪戯っ子のような表情に興味を煽られます。思わず前のめりになる程に。侍女二人も顔を寄せて来ます。まるで、悪巧みをしているようですね。楽しくなってきましたわ。
「セリア様が訊けないのなら、別の方に聞いてもらえばいいんです。ちょうど適している方がいますしね。セリア様のことをとても可愛がっていて、コンフォ様にとても近い方が。その方に協力してもらいましょう。勿論、タダで」
益々悪戯っ子のような表情をする侍女の言葉に揺れる私。これが、悪魔の囁きっていうやつですね。
「どうします?」
侍女の背中に黒い羽根が見えますわ。
「その別の方って、誰です?」
話に乗るとしても、そこだけは訊いておきませんと。
「アーク様ですわ」
「アーク隊長に?」
確かにアーク隊長なら不自然な感じはしませんが……。
「はい。セリア様が元気がないと知れば食らいついてきますから、絶対」
絶対乗り込んで来ますね。派手な親子喧嘩に発展しそうです。部品を壊されたらたまりませんわ。それに……政治的なこと以外で、人の気持ちを利用するのは正直したくはありませんね。特に、私の大切な人は。
小さく息を吐き出すと、笑みを浮かべながらやんわりと首を横に振り断ります。
「私のために真剣に考えてもらえて嬉しいですが、止めときますわ。
そんなに不満な顔をしないで。こんな私的な話が出来るだけで、私はとても嬉しいんですから」と。
「本当にいいんですか?」
侍女が訊いてきます。
「いいのよ。ピアスがなくても、シオン様が私を愛してくれてるのは疑いようもないのだから。……形が全てじゃないって分かってますからね。
さて、残りの仕事片付けますか」
侍女二人にそう言いながら、その実、自分に言い聞かせてるって、自分自身が一番よく分かってますわ。
大丈夫。形が全てじゃないんだから……。
このちょっとした蟠りが、あんな大騒動を引き起こす切っ掛けになるなんて、この時は思いもしませんでしたわ。
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