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これって、乙女ゲームのサブストーリーでしょうか

第十八話 ズルいんですもの

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「シオン様。脇見はいけませんわ」

 そう言いながら頬に手を添えると、シオン様の視線は私に戻ってきました。

 折角侍女たちが気を使って、私たちに気付かれないように対処してくれた、その気持ちを無駄には出来ませんからね。

 にしても、やっぱりですか……。

 シスターはシオン様を諦めていなかったようですね。恩情を与えた事を後悔はしていませんが、気持ちが伝わらなかったのは、少し悲しくなりますね。

 侍女たちは私の気持ちを汲んでくれますから、魔物関係には回さないでしょう。となれば、おそらく、直接シスターを差し出すでしょうね。聖教会の者たちに。

 「コラ。セリアこそ、デート中に余所事を考えて。そんなに、俺を焼かしたいのか」

 今度はシオン様の番とばかりに、軽く頭を小突かれてしまいましたわ。

 私の悪い癖ですね。考え事をしだすと周囲が見えなくなるのは。これが魔物の討伐なら、自然と体が動くので問題はないんですけどね。その動きが神がかっているとよく言われます。

「すみません。シオン様」

 シュンとする私に、シオン様は優しく微笑んでくれます。他の人からは怖がられるような笑みらしいけど、私には最高の褒美ですわ。

「怒ってはいないから、安心しろ」

「ほんとに怒ってませんか?」

 上目遣いでシオン様を伺います。

「その顔止めろ。自制が効かなくなる」

 耳まで真っ赤にしながら、私から距離を取ろうとするシオン様。合わさった視線がまた離れます。その反応は、とても初々しくて可愛いと思いますが、どゔも納得出来ません。

「どうして、この距離間で自制が効かなくなるのですか? 最近はそういう機会は減りましたが、なくなったわけではありませんよね。もっと密着していることも多いのに」

 自分の膝に私を乗せて、自分の手でご飯を食べさせようとした人物の言葉とは思えませんわ。あの時の方がもっと近かったですわ。

「……色々我慢してるんだ。これでもな」

 ベンチに座っているんです。少し横にズレて距離をとることも出来ます。

 だけど、苦笑していますが、私と距離をとろうとなさらないところがシオン様らしいというか、愛されているなぁと感じますわ。全身で愛を語ってくれるのはシオン様だけですね。

「卒業が待ち遠しいですね、シオン様」

 私も同じ気持ちです。

 今、家にはリムお兄様とお母様がいますからね。過度の接触は出来ません。どこで見てるか分かりませんから。なので、前までは当然のようにされていた、餌付けは出来なくなっていました。恥ずかしくて口には出来ませんが、私も少し寂しかったのです。

「ウッ。……ああ。卒業したら、即結婚式をあげてやる」

 シオン様は鼻を押さえると、そっぽを向きながら言ってくれました。耳も首も真っ赤です。

 今は以前と同じ格好で過ごしていますが、若返ったとはいえ、年の差は二十六。大の大人を可愛らしいって思うのは、シオン様の矜持を傷付けることになると思うのですが、それでも可愛らしいんですもの。

 シオン様がそんな様子を見せるのは私だけ。

 これからも私だけですわ。

 幸せです。

 陳腐な台詞しか浮かびませんが、心からそう言えます。

「……シオン様。幸せです。心から愛しています。これから続く長い人生を、私は貴方と共に歩んでいきたいです」

「おい。それって、普通男からの台詞じゃないか」

 関係ないと思いますが。顔を真っ赤にしながら、怒られても響きませんよ。余計に可愛いと思うだけですよ。

「そうですか? でも、プロポーズは私からでしたよね」

「ああ。全く、セリア、お前……俺をどうしたいんだ?」

 困った様子もいいですね。恋人を困らせてみたいって、前にリーファが言ってましたが、その気持ち分かりますわ。

「私で一杯に満たして欲しいだけですわ」

「…………(小悪魔過ぎるだろ。天然か)これ以上満たしてどうするつもりだ?」

「だってズルいんですもの。溢れそうなくらいに満たされてるのに、更に注ぎ込んでくるシオン様が悪いんですわ。
 だから、私も注ぐのです」

 さっき駄目だと言われた上目遣いをしながら。

 すると突然、シオン様が立ち上がりました。えっと戸惑う暇もなく、視線はシオン様の旋毛が見える高さに。

「シ、シオン様!?」

「行くぞ」

「何処にです?」

「砦だ」

 短くそう告げると、シオン様はズンズンと歩いて行きます。

 もしかして……私、地雷を踏んでしまいました? それにしても、いったいどこに地雷が……。

 えっ。この後のことですか? ……聞きたそうになさっておいでですが、さすがにそれは言えませんわ。マナー違反ですよ。なので、訊かないで下さいませ。


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