上 下
163 / 331
これって、乙女ゲームのサブストーリーでしょうか

第十六話 とんだ醜態ですね

しおりを挟む


 あまりにも派手な音がしましたからね。奥から店員が飛び出してきたのも無理はありませんわ。

 あらら。店員の目がまんまるになったと思ったら真っ青に。この惨状ですもの仕方ありませんわ。でも直ぐに、シスターを見て店員は慌てて奥に戻ります。タオルや布巾を持って来るためですね。まぁ拭いても、染みになって取れないと思いますけどね。

 ケーキと紅茶だけでなく、ジーナ様はホットチョコレートを飲んでいましたから。それはそれは悲惨な状態になってますわ。

 髪にも顔にも焦茶色の染みが。生クリームも制服にベッタリと付いています。

 ほんと、制服が黒で良かったですわね。染みが目立たなくて。後一週間遅ければ、もっと悲惨な状態になっていたでしょう。夏服に変わりますもの。夏服は白ですからね。夏服なら即廃棄しなければなりませんものね。いくら綺麗に洗濯しても、茶色い染みを付けたまま通うのは絶対嫌ですわ。

 平民の方なら無料で制服を交換出来ますが、貴族籍に属している方は有料になります。これに関してはどのクラスも関係ありません。Sクラスも同様です。

 一応、シスターは貴族籍になっていますから有料ですわね。だって、他国からの留学生ですもの。貴族、平民関係なく余程のお金がない限り留学は出来ないでしょ。ましてや、山脈を越えてまでって。どれだけの距離をって話です。まぁ中身は、平民の方でも顔を顰める程、無礼で醜悪、良いように言えば本能に忠実、幼児のような素直さってところかしら。

「どうぞ。これをお使いになって」

 内心、毒を吐きながら、私はシスターに持っていたハンカチを差し出します。本当は、シスターにハンカチ一つも貸したくなかったのですが、そういう訳にもいきませんからね。勿論、即ゴミ箱いきですよ。

「触らないで!!」
 
 折角差し出したのに、乱暴に払い除けられてしまったわ。鋭い声と一緒に。まぁ、そうよね。一応、恋敵である私の物なんて使いたくないわね。私も嫌だわ。とはいえ、シスターみたいに払い除けたりはしませんよ。

「そんなに私のが嫌なら、店員が持って来たのでさっさと顔と髪を拭きなさい。染みが余計に酷くなりますよ」

 親切心で言ってあげたのに、返ってきたのはやっばりと納得してしまう態度でした。

「酷い!! 私に命令しないで!! そもそも、貴女が避けたせいじゃない。制服弁償してよね。それと、私のシオン様と勝手に婚約したんだから、まとめて慰謝料払いなさいよ!!」

 制服の弁償? 

 慰謝料?

 はぁ!? 何仰ってるの。頭大丈夫かしら? よくそんな台詞吐けるわね。そんなに死にたいのかしら。でも、楽に死なせてあげるのは面白くないわね。どうしようかしら。悩むわ。

 そんな事を考えていると、さっきまで呆気に取られていた下僕たちが復活したみたいです。シスターの金切り声で。

「店で乱暴な真似は止めて下さい!!」

 店員が私と下僕の間に入ります。下僕の一人が掴み掛かってきたからです。

「煩い!!!! 引っ込んでろ!!」

 下僕が怒鳴ります。皆仲良く破滅の道まっしぐらなのは構いませんが、無関係の店員に怪我をさせる訳にはいきまんね。

「無関係な者に手を出すのは許しませんよ」

 店員の胸ぐらを掴んでいる下僕の腕を握ります。力を込めて。私、子供に見えますが、握力はそこそこありますの。幼い頃から太刀を持ち続けていますので。このまま折るのもアリですね。

 あまりの痛みに、下僕は悲鳴を上げ手を放します。これ以上は過剰防衛になりますわね。仕方ありませんね。ヒビぐらいで済ませてあげましょう。残念。

 腕を押さえ蹲る下僕に、シスターは寄り添うと尚も私に攻撃を仕掛けてきました。口実の一つになったみたいです。

「酷いわ!! これが、貴女のやり方ね。私に勝てないからって、暴力に訴えるなんて!! やっぱり、貴女にシオン様は任せられないわ!!」

 何!? この上から視線。任せられないって、誰に言ってるのかしら。もしかして、私。接点一つないのに。今すぐぶちのめしたくなりましたわ。別にいいですよね。私、結構我慢しましたよね。

「…………いい加減にその口を閉じなさい。貴女がシオン様の名前を口にする度に、シオン様が穢れていきますわ。
 あら? さっきまでの威勢は何処にいきましたか?」

 下僕と一緒に腰を抜かして、後退る様は笑えますね。更に圧を掛けましょうか。

 それにしても、さすがリーファとジーナ様。直接ではないにしろ、間近でこの威圧を余波を浴びても平気でいらっしゃりますね。店員を庇ってくれてます。これなら、安心ですわね。自然と笑みが浮かびます。

 あらあら。とんだ醜態ですね。その年でお洩らしですか。

「…………何んだ? この悪臭は」

 男子学生の声が響きます。

 まぁ二人分ですからね。悪臭も倍ですわ。

「これは、風紀委員長」

 さっきの声は風紀委員長でしたのね。

「何があったのです? セリア皇女殿下」

 風紀委員長は袖口で鼻を押さえてこちらに来ます。黄色い水溜りを避けながら。中々良いタイミングでの登場ですわね。

「詳細はこれに。後は店員に訊いて下さいませ」

 私は魔法具を風紀委員長に手渡します。そうしている間も、風紀委員たちはテキパキと動き、悪臭の元は半ば引き摺られるようにカフェから出て行きました。当然、下僕たちも。風紀委員たちも災難ですわね。下半身ズブ濡れの二人を引き摺るなんて。私なら絶対嫌ですわ。心底風紀委員の方に同情しますわ。

 それもですが、その姿で校内を連行されるなんて、私なら耐えられませんわ。因みにこのカフェ、風紀委員室から一番離れた場所にありますの。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。