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これって、乙女ゲームのサブストーリーでしょうか

第十五話 その頭、一度診てもらったらどうです

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「私のモノですか…………」

 そう低く呟く私を見て、シスターは一歩下がります。下僕たちも。

「なっ、何よ……そう決まってるのよ…………」

 尻窄みになりながらも答えるシスターに、私は更に笑みを深くします。

 ほんと、この手の女って、神経に障ることを言いますわね。余程、私が魅力無しと仰りたいのかしら。女としての魅力がないと。確かに、幼児体型ですが……胸もシスターと比べて……。

 あら、あら。どうして、皆さん更に後ろに下がるのでしょう。風邪でも引いたのですか? 小刻みに震えてますわね。私は何もしてませんよ。素人相手に威嚇や殺気を放ったりしませんわ。それにしても、中々可愛らしい姿だこと。フフフ。

「決まっているですか……どうして、そう思うのですか?」

 いい機会ですわ。じっくりと聞きましょう。その上で判断いたしますわ。幸いな事に、カフェにいた生徒たちも蜘蛛の子を散らしたように出ていきましたからね。ここにいるのは、私たちとシスター、貴女と下僕たちだけですわ。店員たちも奥に引っ込んでいますし。

「……そ、そんなの決まってるじゃない!! そういうゲームなのよ!!」

 まぁ、そう言うとは思っていましたが、まんまでしたね。ここは勿論知らない振りで通しましょう。

「一つお訊きしたいのですが、ゲームって、そもそも何なのですか?」

 この世界に、ゲームという言葉はありませんからね。当然乙女ゲームも。

「遊び道具の事よ!!」

 説明大まかな過ぎませんか。他に言い様があるでしょうに。ここはせめて、遊戯の種類って答えるべきなのでは。本当にお馬鹿ですね。男子学生に侍るよりも、本の一冊でもお読みになった方が宜しいのでは。

「遊び道具ですか? それとシオン様がどう繋がるのです? さっぱり分かりませんわ。リーファとジーナ様は分かりますか?」

 話を振ってみました。リーファの要望通り、デザートをより美味しくするには、皆で楽しく食べるのが一番ですからね。

「私も分かんないわね」

 リーファが話を合わせるようにそう答えれば、ジーナ様全く分からない顔をして答えます。

「私も理解出来ませんわ」と。

「ということなので、私たちにも分かるよう説明して下さりませんか」

 その少ない語彙力で。

 そう私がお願いすると、顔を真っ赤にしたシスターが地団駄を踏みます。

 成人した方が地団駄って……子供じゃあるまいし。呆れてしまいますわ。このシスターを見ても、まだ下僕が正気に戻らないのを見ると、魅了のスキルの怖さを思い知りますね。

 まぁでも……対象者が好意を少しでも持たないと掛からないんですけどね。

「グチャグチャ言わないでよ!!!! ゲームはゲームなの!!!! それで、この世界はゲームの世界なの!! だから、シオン様は私のモノなの!! シオン様は、この私を愛し、聖王から命を掛けて護ってくれるの。
 分かった!? 分かったら、シオン様と別れて!! シオン様は私のモノ……なの…………」

 興奮していたシスターが急に静かになり、一歩、二歩と後ろに後退ります。

 命を掛けて、聖王からシスターを護るっていうのが、貴女のしていた乙女ゲームの筋書ですか。なら、根本的な所で、このゲームは終わってますわ。

 だって、初代聖王は既に存在しませんから。だから、シスターを狙う者など存在しませんわ。その事を教えはしませんけどね。そこまで親切ではありませんもの。それよりも、

「私のシオン様の名前を、何度も、何度も、許しもなく呼びましたわね。
 ……この世界はゲームの世界ですか?
 では、ここにいる貴女以外の全員はゲームの登場人物ですか? だとしたら、私たちは意思のない駒になりますよね。では、シオン様を愛する私のこの気持ちは、一体何なのでしょう。
 ましてや、ゲームの世界だから、私から最愛の婚約者を略奪しても許されると……罷り通ると本気で思ってらっしゃるのですか? 何様のつもりです。
 貴女、一度、病院に行かれた方が宜しいのではないですか? その頭を診てもらったらどうです。なんなら、腕の良い病院を紹介しましょうか」

「う、煩い!! 煩い!!」

 まるで、癇癪を起こした子供みたいですね。

 折角、親切で教えて差し上げたのに、怒鳴られてしまいましたわ。その上、あろうことか、私に飛び掛かって来ましたの。当然避けましたわ。

 派手な音を立て、テーブルと椅子が倒れます。店員たちが出て来ます。それにしても、テーブルが倒れるって……結構な勢いですね。

 リーファもジーナ様も席を立ち避けていますから、被害はなかったようです。流石ですわね。

 あ~~私たちが飲んでいたお茶が……ケーキもスコーンもグチャグチャな状態に。頭から突っ込んで来たシスターの下敷きになってしまいましたわ。

 食べ物の恨みは恐ろしいですよ、シスターさん。



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