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これって、乙女ゲームのサブストーリーでしょうか
第十三話 悪い虫ね……
しおりを挟む『何で。何で。シオン様に会えないのよ!!
……悔しい。絶対いる筈なのに。ガードが固いわ。先回りしてるのに会えないなんておかしいわよ。絶対、あの女が邪魔してるに決まってる!! バグのくせに!!』
そう口汚く吐き捨てているのは、シスターの格好をした落ち人です。姿形はシスターらしく清らかな感じがしますが、中身は容姿とは正反対ですね。自分の欲望に忠実な方ですわ。
なので、シオン様が場を外していてよかったです。シスターとはいえ、あさましい女の姿を見せるのは気が引けますからね。
「……本当に、シオンルートがあるのね」
ポツリとお母様が呟きます。若干、疲れたような声ですね。
侍女が撮っていた映像にバッチリと映っているシスターを見て、漸くお母様は私の言葉を信じてくれたようですわ。それまでは、半信半疑だったようなので。本当に失礼ですわ。
「それだけ、シオン様は魅力的だということですわ。お母様」
不器用で、中々気付かれにくいですが。分かる人には分かるのです。だって……シオン様を狙う淑女の方や未亡人の方は大勢いますからね。偶々私が一番近くにいたから、運良く、自分の気持ちを告げれる機会に恵まれたに過ぎません。
「どうやらシスターは、若返ったシオンじゃなく、オジサンのシオンに対して迫ってるようね」
言葉の端々に棘を感じるのは私だけでしょうか。若くても、年をいっていても、シオン様はシオン様なのです。
そもそも、若返ったシオン様は一度も表には出て来ていません。知っている人も限られてますし、知っている者には箝口令がひかれています。彼らが裏切るとは到底思えませんわ。
完全にこちらの世界を舞台にした物語が存在しているからといって、シオン様が若返る前に、若返ることを知るなんて有り得るのでしょうか。
もしそれが出来るのなら、出処は神様しかいませんわ。
「何度も繰り返しますが、若返ろうが、そうでなかろうが、シオン様はシオン様ですわ。
お母様。シスターの事は心底どうなろうと構いませんが、男を見る目は確かなようですわね。
…………ところで、シスターが口にしているあの女とバグは、私の事ですよね。」
気になる単語を怒鳴っていましたから。意味は分かりませんが、おそらく良い意味ではないでしょう。
「そうね。セリアの事のようね」
「それで、バグって何なのですか?」
「バグっていうのは、悪い虫のことよ。といっても、現実の虫じゃないわ。
簡単に言うとね。登場人物が、今回はセリアがゲーム内でとるべき行動を、この世界でとっていないでしょ。そんな時によく使う単語よ。
この単語を使うってことは、やっぱり、完全にこの世界はゲームの世界だと思ってるようね。シスターは」
「つまり、私がシスターが知るゲームの登場人物とは違う動きをしているから、攻略が進まないと怒っているわけですか」
ほんと傍迷惑な。心底、腹立たしくなりますわ。
私たちはこの世界で、地に足を付けて生きている人間なのです。時には、民のために命を賭ける時もあります。空想上で生きる者と一緒にされたくはありませんわ。
「そういうことね」
なんとなくですが、現状は理解出来ました。但し、その危ない思考回路ではありませんよ。
「だとしたら、このまま自分が思う通りに行動するのが一番の得策ですね。まぁ、変えろって言われても変える気は更々ありませんが」
言葉にする度に、怒りが沸々と湧いてきますわ。でも、敵を知らねば対処のしようがありませんから。一旦止めていた映像を再生させます。
『そもそもどうして、あの女がここにいるのよ!! 一作目で悪役令嬢として退場した筈のにーー完全なバグだわ。あの女のせいで物語が全然進まないじゃない!! こうなったら、退場してもらうしかないわね』
退場ね……。
「つまり、私を排除しようと目論むわけですか……ほんと、面白いことを考えますよね。落ち人の皆さんは。あ、お母様は違いますよ」
今の私は淑女の仮面を着けていませんよ。敢えて取り外しましたわ。なので、お母様の前ですがニンマリと嗤います。さぞかし、黒い笑みでしょうね。
「とことんやりなさいな」
勿論、お母様は止めはしません。
「ありがとうございます。
ところで、一つ気になる事があるのですが……シスターの言う物語って、どんな物語何でしょう。シオン様がそれにどう関わっているのか知りたいですわ」
「それなら、そのうち分かるんじゃない」
落ち人であるお母様がそう言うのなら、そうでしょうね。まぁ直接訊くことも出来ませんし、おいおい分かってくると思いますわ。
目下、私がすべきことは決まってますわ。
シオン様に会わせない。
声も聞かせない。
シスターの言う物語を進めさせない。
そうすれば、短気で短慮なシスターのことですから、自分から墓穴を掘ってくれますわね。それに、初代聖王を廃した今、シスターを返しても特に問題になりませんし、いつでも放り投げれますわ。
お馬鹿なシスター。はなから、貴女に勝ち目なんてありませんのよ。
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