婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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これって、乙女ゲームのサブストーリーでしょうか

第九話 まだまだ勉強不足ですわ

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 その光の珠が何なのか、この場にいる全員察していました。話の流れで馬鹿でも理解出来たでしょう。でもそれを、敢えて口にする強者はいませんでした。

 そんな中で口を開いたのは私です。

 だって、全員黙ったままだと、朝までこのままの状態が続きそうだったので。完徹は肌に悪いですからね。それに頭の働きも鈍くさせますから。明日の仕事に差し支えますわ。普段から短いのに。

「…………高名な魔術師であり、初代聖王の魂なら、さぞかし大きくて光り輝いているとばかり思っていましたわ」

 ちょっと残念です。率直な感想ですね。

 実は、直接魂を見たのはこれで二回目ですの。エレノアの肉体に寄生していた愛梨の魂を引き離し、元の世界に送り返した時にね。今、目の前の瓶の中に入っている光の珠と対して変わりはありませんでしたわ。

「長年、聖教会を支えていたからね……魂自体、疲れ切ってる状態よね。擦り減ってるって言った方がいいかな。だから、輝きは鈍いわね。今のシスターに寄生しても、使える魔力は全盛期の三割使えればいいところじゃない」

 魂も擦り減るものなのですね。肉体がないからでしょうか? しかし、シスターの魔力は中々なものでしたよ。ここは率直に訊いてみましょう。

「シスターの魔力を有してもですか?」

 素朴な疑問をお母様に投げ掛けたら、傍から待ったが掛かりましたわ。

「いやいや、問題はそこじゃないだろ?」

 リムお兄様が、お母様と私に突っ込みを入れてきます。

「どうして、ここに初代聖王の魂があるんだ?」

 シオン様が畳み掛けてきます。何気に、リムお兄様とシオン様、仲がいいんですよね。息が合ってるっていうか。

「そんなの決まってるじゃない。盗って来たからよ」

 でしょうね。でも、リムお兄様とシオン様が訊きたいのはそこではありませんわ。

「どうして盗って来たんですか? 母上」

 少し疲れた声でリムお兄様が尋ねます。

 盗って来た事を責めはしませんね。今から責めてもどうにも出来ないからでしょう。

「ムカついたから」

 答えは至って簡潔でした。

 これって、本音ですね。理由の後付もないようです。心底、ムカついたんですね。まぁ、気持ちは分かりますけどね。私も同じことをするくらいにはムカついてますから。

 リムお兄様は呆気にとられ、言葉を失っています。シオン様と私は、ある意味納得して黙っているだけです。決して、呆気にとられた訳じゃありませんよ。

「だってそうでしょ。
 自分の命をどう使おうかは自由よ。だから、魂だけになってまでも、聖教会を護ろうとした意思は尊重するわ。それだけなら、私はこんな事しなかった。
 ……でもね。
 自分の命を長らえるために、他者の命と肉体を使うのは駄目でしょう。
 それに、その肉体を得るために、大勢の魔術師の未来を奪った。まぁそれは、魔術師自身が選んだとしてもね。
 一度成功すると、また同じことを繰り返すわ。そして今度は、失った魔力を取り戻す研究をしだすでしょうね。擦り減った魂を癒やす方法も同時に。
 それこそ、大勢の犠牲者を出しながら。
 そんな奴を、見過ごせる? 自分たちと関わりのない国だから放っておける? 私には到底出来ないわ」

 ここまでお母様が怒りを露わにすることは今までありませんでした。

「……出来ませんね。
 一人の魔術師の命を長らえるために、大勢の罪なき命を犠牲にする。そもそも、それが許される人間なんて存在しませんわ。それが平気で出来る人間は、既に人間ではありません。魔物ですね。なら、討伐しませんと」

 ニヤリと嗤います。

「国が違えども、魔物から人を護らないとな。だがその前に……」

 シオン様は賛同しなからも、厳しい表情をしたまま言葉を濁します。

 リムお兄様に視線を移せば、シオン様と同様厳しい表情をしていました。リムお兄様は深い溜め息を吐きます。

「……それで、証拠を残すような間抜けな事はしていませんね? 母上」

 そこにいるのは、先程までの優しいリムお兄様ではなく、皇国の政を担う一人の政治者でした。硬い声でお母様を詰問しています。

 遠く離れた国交のない国ですが、皇国に対して、ほんの僅かでも憂いがある可能性がある以上、確かめなければなりません。

 恥ずかしいですわ。感情が先に来て、皇国のことが後回しになってしまいました。シオン様が濁した言葉の意味も今なら理解出来ます。私もまだまだ勉強不足ですわ。

 シオン様がポンポンと頭を叩き慰めてくれます。

「あの女の施した術式を全て破壊し、偽物と交換して術式を書き換えたから大丈夫よ」

「絶対に?」

「間違いに気付く魔術師は、聖教会にはいないわよ。それに、もし気付いたとしても手の施しようがないわ。近いうちに滅びるわね」

 黒炎の魔女が犯人だと分かっても、それが皇国の元王妃だと知る者は聖教会にはいない。ましてや、顔を知らない魔女に復讐したくても出来ませんね。

 それに、この距離をそうそう克服出来ないでしょうから、そうそう心配する必要はありませんね。

「……そうですか。なら、安心ですね」

 リムお兄様の顔が和らぎます。

「…………それで、この魂どうするのですか?」

 最大の問題が解決したので、次の問題に移りましょうか。


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