上 下
155 / 331
これって、乙女ゲームのサブストーリーでしょうか

第八話 バケモノですわ

しおりを挟む


 お母様の目が私に語り掛けます。

 セリアなら分かるわねとーー。

「…………肉体の崩壊ですか……」

 それしか考えられません。

 重い口調でそう答えると、お母様がニッコリと微笑みます。まるで、正解と言わんばかりに。

「肉体の崩壊って……?」

「どういうことだ?」

 リムお兄様とシオン様が同時に訊いてきます。二人は魔術師ではありませんものね。今から話す内容は、魔術師の中でも、トップクラスの魔術師しか知らない事実ですわ。まぁ特に隠してはいませんので、話しても差し支えはありませんわ。

「言葉の通りですわ……。
 魔力を極限まで使い切り、生命力、所謂、寿命を魔力に変換した場合、寿命を使い切れば当然死にますわ」

「ちょっと待て。そもそも、生命力を魔力に変換出来るのか?」

 やっぱりそこが気になりますか、シオン様。実はそこが禁忌と呼ばれてる箇所なんだよね。

「出来ますわ。でも、その事に関しては、これ以上話せませんわ。禁忌に触れますので」

 そう答えると、シオン様は引いて下さいました。

「分かった。それ以上は訊かない」

「ありがとうございます。
 では、続けますね。
 普通の死は心臓が止まりますよね。そして、全身に血液が回らなくなり、ゆっくりと体の機能が低下し死んでいく」

 リムお兄様もシオン様も頷きます。ついでに、スミスとクラン君も。

「でも……禁忌を犯した場合。つまり、寿命を魔力に変換し使い切った場合、肉体は形を維持することも出来ずに、のように粉々になってしまうそうです。
 そうでしたよね? お母様」

「ええ。その通りよ」

 唖然としているリムお兄様とシオン様を放っておき、お母様は笑みを浮かべたまま答えます。

「つまりーー
 シスターを召喚した魔術師と、初代聖王は禁忌を犯し死んだのですね」

 その結論しか、頭に浮かびませんでしたわ。

「大正解!!」

 本当に良い笑顔ですね。お父様の笑顔に引けを取らない程、黒い笑みですわ。夫婦は似てくるものですね。元ですが。

「ならば問います。
 初代聖王はいつ崩壊したのですか? 召喚の際ではないのでしょう」

「どうして、そう考えたの?」

 昔に師弟の関係にかえった感覚ですね。あの時もよく、こんな風に質問されたわね。

「初代聖王が健全な状態なら、召喚そのものが必要なかったのではありませか? 新しい象徴として。それをしなかった。まぁ、宗教のことですから、よく分かりませんが……」

「ええ。年をとらない聖王の方が神秘的だからね。健全な状態なら、召喚なんて危ない橋を渡る必要はなかったわね」

「そうでしょうね。そちらの方が神様感出てますよね」

 そこまで会話を進めて、ふと……何かが頭に引っ掛かりました。

 ん……? 何でしょう。何かを見落としているような気がするのは。確かお母様、初代聖王の事をこう言ってましたよね。

 ーーこの世で存在しているようで、していないって。

 それって、つまり……。

「…………肉体は消滅しても、魂だけは存在しているって事ですか。あのシスターを召喚した理由は、その肉体に初代聖王の魂を憑依させるため」

 その事例は以前にもありましたわ。逆のパターンでしたけど。それでも、十分に可能ですわ。

「「そんなこと……」」

 リムお兄様とシオン様が信じられない表情をしながら呟きます。

「不可能ではありませんわ。そうでしょ。お母様」

「ええ。ほんと驚いたわ。初めて学園でシスターに会った時、一瞬あの娘が目の前に現れたって思ったもの。直ぐにそれは違うって分かったけどね。魔力の質が違ったから」

「という事は、血族ですか?」

「たぶん、そうでしょうね。
 魂の状態になっても、捜し続けたその執念、凄まじいと思わない?」

 ゾッとしましたわ。冷や汗が止まりません。手汗も酷いですわ。ある意味、狂ってると言えるでしょう。

 魂だけの不安定な状態の中、異世界に干渉し続ける精神力と、それを可能にする魔力。そしてブレることのない信念。まさにバケモノですわ。人間の域はとうに越えていますね。

「だったらおかしくないか。魔力を失ってるのに、何で干渉出来るんだ?」

 シオン様の疑問は尤もですわ。原動力がなければ、どんな優秀な魔法具も動きませんもの。それと同じですわ。

「それは簡単よ。魔力の一部を予め別の容器に移していたのよ。肉体を失ったと同時に戻るようにしていたら、少し眠るだけで完全とまではいかないけど八割は戻るわね」

 簡単に説明してますけど、それ、普通の魔術師ならまず出来ませんから。私でもお父様でも無理ですから。それが出来るのは、お母様クラスだけですわ。

 リムお兄様もシオン様も完全に言葉を失ってますわ。

「…………それで、手ぶらで帰って来た訳ではありませんよね。お母様」

 恐る恐る尋ねます。確信を持って。

「当然でしょ。この私が手ぶらで帰って来る訳ないでしょ」

 そうニッコリと微笑みながら、お母様は異空間から小さな瓶を取り出しました。

 その中には、小さな光の珠が一個入っていました。

 その珠って……もしかして…………。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。