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これって、乙女ゲームのサブストーリーでしょうか
第八話 バケモノですわ
しおりを挟むお母様の目が私に語り掛けます。
セリアなら分かるわねとーー。
「…………肉体の崩壊ですか……」
それしか考えられません。
重い口調でそう答えると、お母様がニッコリと微笑みます。まるで、正解と言わんばかりに。
「肉体の崩壊って……?」
「どういうことだ?」
リムお兄様とシオン様が同時に訊いてきます。二人は魔術師ではありませんものね。今から話す内容は、魔術師の中でも、トップクラスの魔術師しか知らない事実ですわ。まぁ特に隠してはいませんので、話しても差し支えはありませんわ。
「言葉の通りですわ……。
魔力を極限まで使い切り、生命力、所謂、寿命を魔力に変換した場合、寿命を使い切れば当然死にますわ」
「ちょっと待て。そもそも、生命力を魔力に変換出来るのか?」
やっぱりそこが気になりますか、シオン様。実はそこが禁忌と呼ばれてる箇所なんだよね。
「出来ますわ。でも、その事に関しては、これ以上話せませんわ。禁忌に触れますので」
そう答えると、シオン様は引いて下さいました。
「分かった。それ以上は訊かない」
「ありがとうございます。
では、続けますね。
普通の死は心臓が止まりますよね。そして、全身に血液が回らなくなり、ゆっくりと体の機能が低下し死んでいく」
リムお兄様もシオン様も頷きます。ついでに、スミスとクラン君も。
「でも……禁忌を犯した場合。つまり、寿命を魔力に変換し使い切った場合、肉体は形を維持することも出来ずに、砂のように粉々になってしまうそうです。
そうでしたよね? お母様」
「ええ。その通りよ」
唖然としているリムお兄様とシオン様を放っておき、お母様は笑みを浮かべたまま答えます。
「つまりーー
シスターを召喚した魔術師と、初代聖王は禁忌を犯し死んだのですね」
その結論しか、頭に浮かびませんでしたわ。
「大正解!!」
本当に良い笑顔ですね。お父様の笑顔に引けを取らない程、黒い笑みですわ。夫婦は似てくるものですね。元ですが。
「ならば問います。
初代聖王はいつ崩壊したのですか? 召喚の際ではないのでしょう」
「どうして、そう考えたの?」
昔に師弟の関係にかえった感覚ですね。あの時もよく、こんな風に質問されたわね。
「初代聖王が健全な状態なら、召喚そのものが必要なかったのではありませか? 新しい象徴として。それをしなかった。まぁ、宗教のことですから、よく分かりませんが……」
「ええ。年をとらない聖王の方が神秘的だからね。健全な状態なら、召喚なんて危ない橋を渡る必要はなかったわね」
「そうでしょうね。そちらの方が神様感出てますよね」
そこまで会話を進めて、ふと……何かが頭に引っ掛かりました。
ん……? 何でしょう。何かを見落としているような気がするのは。確かお母様、初代聖王の事をこう言ってましたよね。
ーーこの世で存在しているようで、していないって。
それって、つまり……。
「…………肉体は消滅しても、魂だけは存在しているって事ですか。あのシスターを召喚した理由は、その肉体に初代聖王の魂を憑依させるため」
その事例は以前にもありましたわ。逆のパターンでしたけど。それでも、十分に可能ですわ。
「「そんなこと……」」
リムお兄様とシオン様が信じられない表情をしながら呟きます。
「不可能ではありませんわ。そうでしょ。お母様」
「ええ。ほんと驚いたわ。初めて学園でシスターに会った時、一瞬あの娘が目の前に現れたって思ったもの。直ぐにそれは違うって分かったけどね。魔力の質が違ったから」
「という事は、血族ですか?」
「たぶん、そうでしょうね。
魂の状態になっても、捜し続けたその執念、凄まじいと思わない?」
ゾッとしましたわ。冷や汗が止まりません。手汗も酷いですわ。ある意味、狂ってると言えるでしょう。
魂だけの不安定な状態の中、異世界に干渉し続ける精神力と、それを可能にする魔力。そしてブレることのない信念。まさにバケモノですわ。人間の域はとうに越えていますね。
「だったらおかしくないか。魔力を失ってるのに、何で干渉出来るんだ?」
シオン様の疑問は尤もですわ。原動力がなければ、どんな優秀な魔法具も動きませんもの。それと同じですわ。
「それは簡単よ。魔力の一部を予め別の容器に移していたのよ。肉体を失ったと同時に戻るようにしていたら、少し眠るだけで完全とまではいかないけど八割は戻るわね」
簡単に説明してますけど、それ、普通の魔術師ならまず出来ませんから。私でもお父様でも無理ですから。それが出来るのは、お母様クラスだけですわ。
リムお兄様もシオン様も完全に言葉を失ってますわ。
「…………それで、手ぶらで帰って来た訳ではありませんよね。お母様」
恐る恐る尋ねます。確信を持って。
「当然でしょ。この私が手ぶらで帰って来る訳ないでしょ」
そうニッコリと微笑みながら、お母様は異空間から小さな瓶を取り出しました。
その中には、小さな光の珠が一個入っていました。
その珠って……もしかして…………。
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