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これって、乙女ゲームのサブストーリーでしょうか
第七話 セリアなら分かるよね
しおりを挟むお母様が目を覚ましたその日の夜でした。お母様はまだ安静が必要ですわ。
そんな中、私とシオン様、そしてリムお兄様の三人で食後のお茶を飲みながら、例の白い影の捜索範囲について論議していました。私は然程興味はありませんけどね。だって、知り合いかもしれませんから。さすがにね……。
話が佳境にはいった時でした。お母様が軽装にカーディガンを羽織った姿で、私たちの元にやって来ました。
「もう、動いても大丈夫ですか?」
リムお兄様が慌てて駆け寄ります。私もシオン様も立ち上がります。
顔色は……もう、大丈夫みたいですね。いつもと変わらない顔色ですわ。ホッと胸を撫で下ろします。
騒がしくはしていないと思いますが……もしかして、退屈だったのかもしれませんね。
「大丈夫よ。もう平気」
リムお兄様のエスコートで、お母様は私たちが座っていたソファーまでやって来ました。足取りもしっかりしてますね。
「それなら安心ですが、あまり無理をしないで下さいませ」
本当に心配したのですから。
お母様はリムお兄様の隣に腰を下ろします。
「ありがとう。私はもう大丈夫。セリア、リム、シオン、心配掛けたわね。ごめん。
少し、皆と話がしたくて来たんだけど……本当、リムは好きよね、そういうの」
前半は私たちに、後半はやや呆れながらリムお兄様に。聞かれていたみたいですね。
一緒にいることは殆どないのに、さすが母親ですね。リムお兄様の趣味をよくご存知で。そういう何気ない所で、私たちはお母様の愛情を感じるんですよ。本当、お父様にはそういう場面は特に感じないんですけどね。
「改まって話しって何ですか? お母様」
向いに座るお母様に尋ねました。
「……私がこんな状態になった理由を話しとこうと思ってね」
とても気になってはいましたが、いいのですか?
おそらく、お母様を除くこの場の全員がそう思った筈。
「心配しなくていいわよ」
心配が顔に出ていたのでしょう。お母様は私たちを安心させるように、笑みを浮かべながら答えます。
「……では、単刀直入にお訊きします。母上。
母上をここまで追い込んだのは一体何処の誰です?」
そう切り出したのはリムお兄様です。
「私と同じ時期にこの地に界渡りをした【落ち人】よ。愚かにも、神の使徒と名乗り、自分は選ばれた聖なる存在と信じていた愚者ね。今は、自分は神の一人だと勘違いしている、可哀想な娘よ」
お母様はリムお兄様とシオン様に説明するように詳しく語ります。
ある程度前もって聞いてはいましたが……改めて聞くと、中々酷いですね。
人が神にですか……可哀想というよりも、頭は大丈夫ですか? って、訊きたくなりますわ。まぁ、力を持つと勘違いする人間は多少なりともいますからね。お母様と同様、世界を揺るがす程の力を持っているのなら、その振り幅はかなりあるでしょう。傍迷惑ですけど。
そもそも、どんなに実力があっても人が神様にはなれませんわ。だって、人と神様は種族自体が違うでしょ。当然、住んでる次元もです。
リムお兄様もシオン様も呆れながらも、眉間に皺が寄っています。
「それって……現聖王のことですよね?」
詳しいことまでは聞いてはいませんが、それしか考えられませんわ。
【落ち人】なら、お母様と同様に長生きをしていてもおかしくありませんから。だから、現聖王は聖教会を創った初代聖王ですね。
「…………そうよ。聖教会で聖王と呼ばれた唯一の人間。だけどね、聖教会に聖王はいないわ」
「いない……? どういうことです? だって、シスターが魔術師によって強制召喚されたのは、次代を継ぐためですよね?」
じゃなかったら、何のために大勢の魔術師の命を捧げたのです?
「それは、当たりであって当たりじゃないわね」
尚更、意味が分かりませんわ。
そう感じたのは私だけでなく、リムお兄様もシオン様も同じような反応をしています。
「……初代聖王は、既にこの世に存在しているようで存在していないのよ」
謎掛けですか。
「生命力までも魔力に変換し使用していたようね」
「生命力を……」
まさかーー。最悪な考えが頭を過ります。
「幾ら魔力が多くても、それを維持する肉体を持っていても、限度はあるわ。私たち【落ち人】は不老不死じゃないのよ」
お母様の言いたいことは理解出来ます。
生命力を魔力に変換した魔術師の行く末は、魔術師なら知っている筈です。物語や記述上で。だって、実際にそこまでする人は、この平和な世界では皆無ですわ。そういう場面になること自体ありませんもの。
信じられない思いで、私はお母様を凝視します。
ーーセリアなら分かるわね。
お母様の目が、そう語っていました。
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