婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
154 / 342
これって、乙女ゲームのサブストーリーでしょうか

第七話 セリアなら分かるよね

しおりを挟む


 お母様が目を覚ましたその日の夜でした。お母様はまだ安静が必要ですわ。

 そんな中、私とシオン様、そしてリムお兄様の三人で食後のお茶を飲みながら、例の白い影の捜索範囲について論議していました。私は然程興味はありませんけどね。だって、知り合いかもしれませんから。さすがにね……。

 話が佳境にはいった時でした。お母様が軽装にカーディガンを羽織った姿で、私たちの元にやって来ました。

「もう、動いても大丈夫ですか?」

 リムお兄様が慌てて駆け寄ります。私もシオン様も立ち上がります。

 顔色は……もう、大丈夫みたいですね。いつもと変わらない顔色ですわ。ホッと胸を撫で下ろします。

 騒がしくはしていないと思いますが……もしかして、退屈だったのかもしれませんね。

「大丈夫よ。もう平気」

 リムお兄様のエスコートで、お母様は私たちが座っていたソファーまでやって来ました。足取りもしっかりしてますね。

「それなら安心ですが、あまり無理をしないで下さいませ」
 
 本当に心配したのですから。

 お母様はリムお兄様の隣に腰を下ろします。

「ありがとう。私はもう大丈夫。セリア、リム、シオン、心配掛けたわね。ごめん。
 少し、皆と話がしたくて来たんだけど……本当、リムは好きよね、そういうの」

 前半は私たちに、後半はやや呆れながらリムお兄様に。聞かれていたみたいですね。

 一緒にいることは殆どないのに、さすが母親ですね。リムお兄様の趣味をよくご存知で。そういう何気ない所で、私たちはお母様の愛情を感じるんですよ。本当、お父様にはそういう場面は特に感じないんですけどね。

「改まって話しって何ですか? お母様」

 向いに座るお母様に尋ねました。

「……私がこんな状態になった理由を話しとこうと思ってね」

 とても気になってはいましたが、いいのですか? 

 おそらく、お母様を除くこの場の全員がそう思った筈。

「心配しなくていいわよ」

 心配が顔に出ていたのでしょう。お母様は私たちを安心させるように、笑みを浮かべながら答えます。

「……では、単刀直入にお訊きします。母上。
 母上をここまで追い込んだのは一体何処の誰です?」

 そう切り出したのはリムお兄様です。

「私と同じ時期にこの地に界渡りをした【落ち人】よ。愚かにも、神の使徒と名乗り、自分は選ばれた聖なる存在と信じていた愚者ね。今は、自分は神の一人だと勘違いしている、可哀想な娘よ」

 お母様はリムお兄様とシオン様に説明するように詳しく語ります。

 ある程度前もって聞いてはいましたが……改めて聞くと、中々酷いですね。

 人が神にですか……可哀想というよりも、頭は大丈夫ですか? って、訊きたくなりますわ。まぁ、力を持つと勘違いする人間は多少なりともいますからね。お母様と同様、世界を揺るがす程の力を持っているのなら、その振り幅はかなりあるでしょう。傍迷惑ですけど。

 そもそも、どんなに実力があっても人が神様にはなれませんわ。だって、人と神様は種族自体が違うでしょ。当然、住んでる次元もです。

 リムお兄様もシオン様も呆れながらも、眉間に皺が寄っています。

「それって……現聖王のことですよね?」

 詳しいことまでは聞いてはいませんが、それしか考えられませんわ。

【落ち人】なら、お母様と同様に長生きをしていてもおかしくありませんから。だから、現聖王は聖教会を創った初代聖王ですね。

「…………そうよ。聖教会で聖王と呼ばれた唯一の人間。だけどね、聖教会に聖王はいないわ」

「いない……? どういうことです? だって、シスターが魔術師によって強制召喚されたのは、次代を継ぐためですよね?」

 じゃなかったら、何のために大勢の魔術師の命を捧げたのです?

「それは、当たりであって当たりじゃないわね」

 尚更、意味が分かりませんわ。

 そう感じたのは私だけでなく、リムお兄様もシオン様も同じような反応をしています。

「……初代聖王は、既にこの世に存在しているようで存在していないのよ」

 謎掛けですか。

「生命力までも魔力に変換し使用していたようね」

「生命力を……」

 まさかーー。最悪な考えが頭を過ります。

「幾ら魔力が多くても、それを維持する肉体を持っていても、限度はあるわ。私たち【落ち人】は不老不死じゃないのよ」

 お母様の言いたいことは理解出来ます。

 生命力を魔力に変換した魔術師の行く末は、魔術師なら知っている筈です。物語や記述上で。だって、実際にそこまでする人は、この平和な世界では皆無ですわ。そういう場面になること自体ありませんもの。

 信じられない思いで、私はお母様を凝視します。

 ーーセリアなら分かるわね。

 お母様の目が、そう語っていました。


しおりを挟む
感想 775

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。