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これって、乙女ゲームのサブストーリーでしょうか

第六話 学園よりも家族です

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「お母様、大丈夫ですか?」

「母上、大丈夫ですか?」

 リムお兄様と一緒にお母様の顔を覗き込みます。顔色は特に悪くはありませんね。ホッと胸を撫で下ろします。

 授業中に、スミスからお母様が目を覚ましたと連絡を受けて、飛んで帰って来ましたわ。早退ですが構いません。学園よりもお母様の方が大事ですからね。勿論、途中でリムお兄様を拾いましたよ。

 一応ですが、お父様もその場にいたので教えてあげましたわ。とてもとても、行きたそうにしていましたが、お母様に冷たい言葉を吐かれるのが怖くて動けないみたいです。ほんと情けないですよね。大の大人が。既にお母様から見放されてますし、私たちに情けない様も見せているのです。更に嫌われても、情けない様を見られても、変わらないと思っているのは私だけでしょうか。

 因みにお父様は、予想していた通り闇落ちしませんでしたわ。今は真面目に政務に取り組んでいるみたいです。お母様は仕事に関しては真面目な方を好んでいますからね。お母様自身、根は真面目ですし。

 脱線しましたわ。今はお父様のことはどうでもいいです。

「大丈夫。しっかり寝たから」

 う~んと伸びをしながら、お母様は笑みを浮かべ答えます。

「魔力も滞ってませんね。……本当に、良かったですわ」

「良かったな、セリア。母上、心配させないで下さい」

 リムお兄様が私の頭をポンポンしてくれました。やっぱり、シオン様と違いますね。でも、リムお兄様のポンポンも新鮮で和みますね。

「ごめんなさい。もう二度と、こんな事はないから安心して」

 それは決着がついたって事でしょうか。お母様をここまで追い込むことが出来るのは、今のところ、同じ落ち人だけでしょう。竜王様お祖父様はまだまだ健在ですし。

「本当ですね。母上」

「本当よ」

 リムお兄様に叱られてるお母様を見るのは初めてですわね。

「セリアもごめんね。学園休ませてしまって」

 シュンとするお母様。

「学園も大事ですが、それよりも、お母様の方が大事ですわ。お母様が心配する必要はありません」

「だけど……」

「悪いと思われるのなら、もう二度と無茶をなさらないで下さい。……本当に、心配したんですよ」

「……ごめんなさい。もうしないわ」

 こんなしおらしいお母様初めてですわね。なので、ここら辺で許してあげましょう。

「分かりました。お母様の言葉を信じますわ。もう少し休んでいて下さい」

「そうですよ。ゆっくり休んで下さい、母上」

 理由を訊かない私とリムお兄様に、お母様は不思議そうな顔を見せた後、顔を歪め俯きました。チラリとですが、お母様の顔が見えましたわ。今にも泣き出しそうな表情でした。これでよかったのでしょう。

 私はリムお兄様に目配せをしてから、ソッと静かに部屋を退出しました。後は信頼出来る私の執事と侍女たちに任せましょう。さて、私はリムお兄様を皇宮まで送らないと。

「何も訊かないんだな」

 別れ際、リムお兄様がポツリと呟きました。

「それはリムお兄様も一緒でしょ」

 そう答えると、リムお兄様が笑みを浮かべます。優しい笑みですわ。

「母上のことは信用しているからな。その母上が、私たちに内緒でこんな無茶をした。母上程の実力者を追い込んだ奴のことが気にならないなんて嘘になる。でも……無闇に立ち入ったら駄目な事もあるだろう」

 そう言えるリムお兄様が、私は大好きですわ。リムお兄様が私のお兄様でいてくれて、本当に幸せですわ。

「リムお兄様は大人ですわね」

 ニッコリと微笑みながら言うと、リムお兄様はすかさず反応しました。

「どういう意味だ?」と。

「いえ……これがお父様なら、真っ先に問い詰めると思いまして」

「……ああ。間違いなくそうするな」

 途端にウンザリとした表情をするリムお兄様。お母様の代わりにリムお兄様に矛先が向きますからね。そんな貧乏くじを引いたリムお兄様に、私は心からエールを贈ります。

「リムお兄様。頑張って下さい。今日は早めにお迎えに行きますね」

「そうしてくれ……」

 その後ろ姿はとても弱々しかったですわ。



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