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これって、乙女ゲームのサブストーリーでしょうか
第三話 自暴自棄の極みですね
しおりを挟む「いつまで、そこでウジウジとなさっておいでなのですか? お父様」
もう考えるのも面倒くさいので、思ったことを、そのまま口にしましたわ。お父様の場合、言葉を選ぶのは却って失敗するでしょうからね。
「…………何しに来た? 俺を笑いに来たのか」
ほんと、かなり荒んでますね……。目が虚ろで、表情はない。その上、黒い靄が体を覆っているのが見えますわ。
「父上!! その黒い靄は!?」
魔力があまり高くないリムお兄様にも見えてるのですね。僅か一晩でこれですか……。溜め息が出ますわ。
「お父様。魔人に墜ちるつもりですか? お母様が悲しみますよ」
魔人というのは、闇落ちした魔術師のことですわ。完全に闇落ちしたら、姿形も人でなくなりますわ。記憶も曖昧になり、欲望のままに行動する。厄介な存在ですわ。主に、禁忌に手を出した魔術師が多いのですが、お父様のように自分から堕ちようとする人は、まずいないですわね。
これはもう、自暴自棄の極みですね。
心底、面倒くさい大人ですわ。
魔人という単語にリムお兄様がピクリと反応し、お母様という単語にお父様がピクリと反応します。
「お父様はお母様を忘れるつもりですか? そもそも、闇落ちしたくらいで忘れられる程度の人ですか?」
私の言葉に、お父様は厳しい目で睨み付けてきます。そこに虚ろさはありません。私なら無理ですわね。シオン様を忘れることなど絶対にありませんわ。
「お父様にも、お母様にも、時間は普通の人間よりもあります。なら、もう一度やり直すことが出来るのでは?
……まぁ、お父様には無理かもしれませんわね。お母様の前では、常に良い所を見せようと躍起ですからね。土下座することも、別れないでくれと、泣き縋ることも出来ませんよね」
なまじ惚れた相手が、自分の幼少時を知っているのは、男としては複雑なものがあるのでしょう。ましてや、魔法の師匠ですからね。計り知れないでしょう。
「……お前なら出来るのか?」
何当たり前のことを訊いてくるんでしょう。
「出来るに決まってるでしょ。私の些細な矜持など、愛しいシオン様の存在に比べればゴミですわ。ゴミ。
だから、私がもしお父様の立場なら、躊躇うことなくシオン様に縋り付き、必死で許しを請います。何度も、何度も」
リムお兄様が小さい声で「重っ」と呟いたのが聞こえました。
確かに、口にした私自身、重いって思っていますから。気にはしませんわ。実際に重いんでしょうね。でも、それが私の正直な気持ちですわ。
中には、相手のことを考えてない、独りよがりのものだと言われるかもしれません。でも、人を愛するって、そういう暗い面もあると思うのです。少なくとも、全てが綺麗なものではありませんわ。
「…………」
お父様の視線が痛いですわ。
「お父様。闇落ちするのはいつでも出来ると思いますよ。その前に足掻いてみては如何ですか? もしかしたら、奇跡はあるかもしれませんよ」
「…………」
お父様は黙り込んでいます。ここまで言って、後どうするかは本人次第ですわ。最悪闇落ちしても、お父様はお父様ですからね。そこまで付き合いきれませんもの。忙し過ぎて。
「リムお兄様帰りましょう」
私はリムお兄様の腕を掴むと引っ張ります。
「ああ……」
リムお兄様は大人しく付いて来ます。帰ろうとして、一つ言い忘れてることがあったのを思い出しました。
「あっ、言い忘れてました。お父様が知らないことを知ってるのが許せないのなら、直接、お母様に訊いて下さいね。ましてや、それが悔しくて仕事を多く振るのなら、お母様に言い付けますからね」
この際いい機会だから、はっきりと言っときましょう。こんな機会、そうそうありませんからね。本当に、これ以上仕事が増えるのは勘弁して欲しいのです。だって、シオン様とゆっくり出来る時間がどんどん削られて、今は殆どないんですもの。いい加減キレますわ。
そう言われた時のお父様の顔がどんなだったかは知りませんわ。そのまま戻って来ましたからね。因みに帰りは転移魔法使えるので、楽ですわ。
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