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また、乙女ゲームですか
第三十四話 お願いされました
しおりを挟むお父様が強制送還されました。お母様に。
離婚から退場までの展開の早さに、あ然としている私とシオン様。そんな私たちをよそに、お母様はパンパンと二回手を叩きました。
「絶対、あのヤンデレは来るから、結界を強固にしとくわ」
そう告げる前に、既に強固にしてますよね。ところで、聞き覚えのない言葉を耳にしましたが。
「……ヤンデレ?」
ヤンデレって何ですか? たぶん、お父様のことですよね。台詞の前後で誰かは理解は出来ます。
「ヤンデレって病んでるデレの略よ。乙女ゲームにもよく出てくる単語だから覚えとくといいわ。レイがそのいい例ね。
兎に角、これで、あのヤンデレでも侵入出来ないわね」
やけに良い笑顔で、一人納得するお母様。
そうですか……ヤンデレって、乙女ゲームの重要単語なんですね。正直覚えておきたくない単語ですわ……。乙女ゲームにはホトホトうんざりしてますもの。
お父様のように、好きな方に関わると、途端に馬鹿になる方がいるとは思いたくありませんわね。でも、現実にいるんですよね……。眼の前が真っ暗になりましたわ。これ以上、この事を考えるのは止めときましょう。精神面によくありませんから。
そうですね。確かにこの結界なら、お父様でも侵入出来ませんわね。おそらく、空から星が降って来てもこの城は無傷でしょう。それくらい強固です。こんな強固な防犯をしているのは、ここくらいでしょうね。王都ではなく。
どちらにしても、笑顔が引きつりますわ。
「……ごめんね。セリア」
そんな私に、お母様は悲しげにそう謝ると、両手を広げ私を抱き締めようとしました。だけど、途中で足が縺れよろめきます。
「大丈夫ですか!? お母様」
「ありがとう。大丈夫よ……」
力なく微笑むお母様を、私は慌てて抱き止めます。
冷たいーー。
思っていた以上に体温が低いですわ。魔力が上手く循環出来ていないようです。要は魔力の枯渇ですね。少し回復した途端、最高難易度の魔法を二連発したのですから、当然と言えば当然ですが……。考え事は後回しですね。
シオン様に手伝ってもらい、お母様をベッドに寝かせます。この場面を、もしお父様が見ていたら、理由関係なく、シオン様の腕を切り落としていましたね。勿論、そんなことをしようものなら、私が黙ってはいませんが。シオン様にあだなす者は全て私の敵ですから。まぁそれはさておき、
「セリア様。これを」
鋭い声でスミスを呼ぶ前に、マジックポーションを五本持って現れます。さすが、執事の鏡ですね。
「お母様。ポーションです。全部飲んで下さい」
「マジックポーションって不味いのよね……」
何、子供のようなことを言ってるんですか。
「飲んで下さい」
少し語尾をキツめに言うと、渋々ですが飲んでくれました。お母様の体温が少し上がります。
マジックポーションが効き始めたわね。魔力の流れも戻ってきてますし、これで一安心ですわ。ホッと胸を撫で下ろします。後は寝て魔力を回復させるだけですわ。
「それじゃあ、ゆっくり休んで下さいね」
私たちがいたら、ゆっくり休めないでしょ。なので、お母様に背を向けた時でした。
「……セリア。今日、一緒に寝ない?」
その手を振り解ける人間はいませんわ。
「いいですよ」
シオン様も頷いていらっしゃるし。仕方ありませんね。苦笑しながら、私はお母様の隣に滑り込みました。温かくてフカフカですわ。
シオン様がソッと部屋を出て行きます。
「……セリア。ごめんね」
扉が閉まる音がしてから、お母様が小さな声で謝ります。
「お父様との離婚についてですか? それなら、私は特に何とも思っておりませんので、お母様のしたいようになさって下さいな」
応援するつもりで言ったのですが、お母様は辛そうな表情をしています。
「……私も、レイも、親らしいことはしてこなかったのが悪いのね」
まぁ確かに、お父様もお母様も親らしいことをあまりしていないのは事実ですが……。
「親子の形にも色々あると思いますわ。私やお母様のような形があってもいいではないでしょうか」
「セリア……」
お母様、涙目になってます。そんな大層なこと言いましたか。
「私は今の関係、結構、居心地がいいんです。それに……私の身を案じて、お父様に進言してくれたこと、とても嬉しかったんですよ」
私をちゃんと見てくれてるって、伝わってきたから。
「当たり前じゃない。親なんだから」
当たり前ですか……。何も考えずにそう言ったんでしょうね。
「お母様。ありがとうございます」
「何で、お礼を言ってるのよ」
素直に感謝の言葉を口にしたら、反対に怒られてしまいましたわ。でも、心はとても温かくなりましたの。
今日はいい夢が見れそうですわ。
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