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また、乙女ゲームですか
第二十五話 怖くて逃げられません
しおりを挟むここは砦の執務室。
執務室の主は勿論シオン様です。
「あの……シオン様?」
黙って私を見詰めているシオン様に、恐る恐る伺います。
「…………どういうことか、きっちり説明してもらおうか。セリア」
笑みを浮かべながら尋ねるシオン様ですが、怒気が滲み出ています。
……これはかなり怒っていますね。
私を膝の上に乗せたまま、シオン様が追求してきました。腰をしっかりとホールドされているので、物理的に逃げることは出来ません。魔力を使えば逃げ出すことは可能ですが、そんなこと出来ませんわ。後が怖くて。
「……簡単にいえば、シスターが最も攻略し手に入れたいと考えているのは、シオン様のようですね」
そう答えると、いつもよりシオン様の目が大きく見開いています。驚いているみたいですね。
「嘘だろ……こんなオジサンをか?」
呆然と呟く声に力は全く感じません。
まぁでも、さっきのシスターの様子を見たら認めるしかありませんよね。叫んでましたから。
シオン様の隣は自分の場所だって。
「おそらく、彼女が知っている乙女ゲームの中には、シオン様も攻略者として登場しているようですね」
「こんなオジサンをか……」
二度目のセリフですね。よっぽど信じられないようです。
私にしてみれば、そこまで信じられない方が不思議でならないのですけど。
確かに異色ではありますわ。異色ですが、あって然るべきだと思いますわ。だって、全員が学園の生徒か教師、悪役令嬢の従者ばかりだと、物語としてあきませんか? 皆、似たような雰囲気の方たちですもの。野性味がないと言いますか……。
シスターのように、こちらを好む方も当然いらっしゃるでしょう。そういう方にとっては、シオン様は大変魅力的で最高の方。喉から手が出るほど欲しい方でしょうね。
「シオン様は決して、そこら辺にいるオジサンと同じものに分類されませんわ。年のことを言ってるのかもしれませんが、年イコール、オジサンではありませんよ」
私の説明にも、いまいち納得していないようですね。深くは追求されませんでしたわ。代わりに、
「……いつから知っでいた?」
「ジーナ様のレポートに。シスターがシオン様と呟いていたと。どのシオン様か分かりませんでしたが、念の為に警戒はしておりました」
でも、私の甘さでシオン様と鉢合わせしてしまいましたわ。
「もしかして、睡眠を削って作っていた魔法具はそのためのものか?」
シオン様の顔が少し辛そうに歪みます。
「はい。対象者が学園内のどこにいるか分かる魔法具を制作しましたの。まだまだ改良点はありますが。ゆくゆくは、魔物の討伐にも役立つものだと思いますわ」
「それは凄いが……俺のために無理をするな」
「シオン様のためではありませんわ。私のためです。
シオン様をお慕いしている可能性がある方に、シオン様を見せたくなかっただけです」
恥ずかしくて、下を向いたまま答えます。
「でも、誤算でしたわ。
まさか、停学中に学園から抜け出して、砦に来られるとは思いませんでしたわ。迂闊でしたわ」
考えてみれば、研究棟に突撃しようとした点といい、シスターは私を敵視しているのは明らかですね。今まであまり接点がなかったので、目立たなかっただけで。
おそらく、お母様から受け継いだこの黒髪と黒目のせいですね。
ヒロインの座を脅かす存在として認識されたみたいです。この前、お母様が制服を来てパンケーキを食べてた時、一方的に絡んでいましたからね。
私はヒロインの座を狙う悪役令嬢ってところですか。
「セリアのことだから、色々考えた上での行動だと思うが、無茶はするな」
そう言うと、シオン様はギュッと私を抱き締めました。抱き締められているだけなのに、胸がとても痛みます。
絶対気付いている筈なのに、シオン様は見なかったことにしてくれたからです。
シスターたちが捕えられた時、侍女がシスターに魔封じの魔法具を取り付けていたのを。
落ち人は魔力を多く有しているとはいえ、魔法具を付けての拘束はやり過ぎと言われるかもしれません。それを知りながら敢えてそうした理由を訊いてこないのです。
ほんとに、この人は……。
全てを話すことは出来ませんが、それでも誠実でありたい。だから……話せるところまで話そうと思います。
「…………シオン様。
シスターの存在はとても危険なのです。皇国と国交がないので、排除して送り返せば済むかもしれません。ですが、それが出来ない理由があるのです。
それは、彼女がどうやって落ちて来たのか。それが、簡単に排除出来ない理由なのです。
シスターの場合は異質でした。大勢の魔術師が命を対価にして、禁断の術を使い召喚したのです。
どうして、聖教会がそこまでしたのか。
その理由が明らかにならないと、排除出来ないのです」
息を飲んだ後、シオン様は訊いてきました。
「どうやって、理由を調べるんだ?」と。
「それはお母様が」
「セイラが? そうか……」
下を向いてるとはいえ、頭に突き刺さる視線が痛いですわ。
「分かった。いいか。絶対に無茶はするな。セリアに何かあったら、俺は生きていけない。狂ってしまうだろうな」
それは大袈裟ではなく、事実そうなのでしょう。それが竜人の性質なのだから。重いとは思いませんよ。反対に、少し嬉しいって思ってしまう私も大概ですわ。
「私も同じですわ」
そう答えると、シオン様がとてもとても嬉しそうに微笑みます。蕩けた笑顔に、私の顔は火がついたように熱を持ち、真っ赤になります。
好きです。
愛してます。
その言葉よりも重いセリフですよね。
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