婚約破棄ですか。別に構いませんよ

また、乙女ゲームですか

第二十三話 隣りにいてくれる幸せ

　お父様に呼ばれ、王宮に戻った第一声が、

「元気そうだな、セリア。セフィーロ王国から正式な謝罪文が届いたぞ」

　これでした。

　ああ、あの馬鹿令息の件ですね。

　あれで、公爵令息とは……皇国も人のことは言えませんが。

　まぁその件はさておき、三日で謝罪文が届くとは。リーファ、きっちり仕事をしましたね。かなり怒ってましたからね。

　私としては、これ以上関わりたくないので、それさえ約束して貰えれば、別に後はどうとでも。幸い、謝罪文にはその旨が記載されてましたし、それを無視して接触してくるのなら、後は……墜ちるだけですわ。もう既に、墜ちてはいますけどね。墜ちるとこまでですわ。

　それにしても、やけに機嫌が宜しいようですね、お父様。可愛い娘が災難に見舞われたのに。その顔ですか。完全に楽しんでますね。

　さては、お母様を止めなかったことでの意趣返しですか。それとも、私には毎日連絡があるのに、お父様の所に連絡が一切ないからですか。なかなか大人気ない行動ですね。お母様が絡むと、お父様は途端に馬鹿になりますからね。でも、この馬鹿は許せる馬鹿ですわ。

　確かに許せますが、少しムカつきますので、さっさと帰ることにしましょう。隣にはシオン様がいますしね。当然、お母様にとりなすことは致しませんわ。

「そうですか。しかと受け取りましたわ。では、私はこれで」

　そう答え退室の礼をすると、途端に慌てだすお父様。慌てるくらいなら、素直にお母様の事を尋ねるとか、声が聞きたいと仰るのなら、快くとりなしましたのに。ほんとに馬鹿ですね。

「おい！！」

　私は慌て狼狽えるお父様を無視して、満面な笑顔で微笑みながら言いました。

「では、御機嫌よう。お父様」と。

　そして私はシオン様の手を掴むと、執務室を出ました。

「いいのか？」

　執務室を出た途端、シオン様が訊いてきました。優しいですね、シオン様。

「構いませんよ。そもそも、夫婦の意思疎通不足を子供を利用して、解消しようとするのが間違ってるんです」

　一緒に生活していなくでも夫婦でしょ。でも……せめて、愛しい人の声を聞きたいという気持ちも分かります。そんな気持ちが身に沁みて知ることが出来たのは、隣りにいるシオン様のおかげですね。

「どうした？」

　シオン様が微笑み掛けてくれます。いつも私を気に掛けてくれる気持ちが、とても嬉しいですわ。

「シオン様が隣りにいてくれる幸せを噛み締めていただけですわ」

　素直に言葉にします。

「それは俺の言葉だ」

　視線を逸し、頬を赤らめるシオン様は、新鮮でとても愛しい。私の宝物ですわ。

　謝罪文の件に関して、シオン様は全く関係ないのですが、どうしても一緒に行くと仰られたので甘えました。正解でしたわ。久し振りの休日だったのですけど。

　そうそう。急でしたけど、砦の皆は快く送り出して下さいましたわ。シオン様も私と似て仕事漬けの毎日ですからね。ちょっとした息抜きが出来れば幸いです。

　勿論、シスターの独り言の件は内緒にしてますわ。私のシオン様とは断定されていませんからね。もしされても、絶対言いませんけどね。だってそうでしょ。私のシオン様の心に影をさす存在は必要ありませんから。

　シスターの件は一旦忘れましょう。気持ちを入れ換えて。

　少し時間がありますし、久し振りに王都でシオン様とデートが出来ますね。露店巡りも楽しそうです。新店巡りも外せませんね。行ってみたい店があるのです。

「シオン様。王都に新しいケーキ屋さんが出来たそうです。一緒に行きませんか？」

　シオン様は女子や子供が好きな可愛いお店とかは苦手なので、お持ち帰りにしましょう。

　楽しみがどんどん増えていきます。シオン様の腕を引っ張りながら、私は王都に繰り出しました。自然と小走りになりました。