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また、乙女ゲームですか

第十八話 これは女の戦いなのです

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 今日はシオン様が夜勤でよかったですわ。本当に……。どんな顔をして会えばいいか分かりませんもの。淑女の仮面を完璧に被っても、シオン様にはすぐに気付かれてしまいますからね。自分の気持ちを整理する必要がありました。

 とはいえ、領地経営の仕事はこなさなければならないんですけどね。こなしながらも頭を過るのは、終盤に交わしたジーナ様との会話ばかり。集中しなければならないのに、どうしても集中出来ません。

 リーファが言った通り、考え過ぎかもしれません。学園内にも、同じ名を持つ方もいます。ならば、何故会いに行かないのです? 何故、名前を呟くだけなのです? 影から見守りたいから。ありえませんわ。高位貴族の令息に声を掛け続ける方が、そんなしおらしい訳ないじゃないですか。

 なら……その方は学園にいない方だと推測出来ますよね。

 そう……名簿リストに記載されていた最後の名前。

 それは、シオン様の名前でした。

 といっても、記載されていたのは【シオン】とだけ。家名はありませんでしたわ。



「…………ジーナ様。一番下に書かれているなまえは……?」

 戸惑い混乱するまま尋ねる私に、ジーナ様は「シスターが時折にポツリと呟く名前ですわ」と答えました。

「この名前を呟くのですか?」

 当然、ジーナ様は私の婚約者の名前を知っています。だから、複雑な表情をしながらも教えてくれました。

「……はい。溜め息を吐きながら…………」

「そう……溜め息を吐きながらね」

 

「ねぇ、スミス」

 完全に集中力が切れた私は羽ペンを置き、目の前にいる筆頭側近に話し掛けます。

「はい。何でしょう?」

「……お母様が前に言った攻略者って、学園外の人物も入るのかしら?」

 私が気になっていたのは、正にその点でした。

 あんなに格好良いシオン様ですもの。攻略者になってもおかしくはありませんわ。確かに少し年齢がいってはいますが、それを差し引いても十分魅力的です。恋い焦がれる女性がいてもおかしくはありません。現にこの前現れたばかりですわ。

「そうですね。学園と対極的な場所にいる方ですが……可能性がゼロではありませんね」

 スミスの言うことを否定出来ませんわ。確かに、爽やかな学園よりも血生臭い戦場が似合いますからね。それが、また男らしくていいんじゃないですか。

「ええ。シスターが会いに行かない点からみても、この【シオン様】は学園外の方の可能性がありますよね。
 ……本当に、なかなか斬新なゲームだこと。クスクス」

 もし、本当にシオン様が攻略者の一人に選ばれていたとしたら、お母様の誘いに乗ろうかしら。

「意外性が意表を突いて喜ばれることもありますから、なんとも。私には到底理解出来ませんが」

 そうでしょう。理解出来たらある意味怖いですわ。

「取り敢えず、シオン様を学園に近付かせないようにしないといけませんわね。後、シスターの行動にも目を光らせないといけませんわね。
 少しでも、砦に近付こうとするなら、徹底的に邪魔致しますわ。それでも近付くのなら、排除もじさないですわ。
 とはいえ、お母様が戻って来るまでは、直接手は下しませんが」

 間接的に動きますけどね。当然でしょ。愛しい男性ひとを護るためですよ。何でもしますわ。

 これは、女の戦いなのです。


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