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また、乙女ゲームですか
第九話 こういうのをズルいって言うんですよ
しおりを挟むお母様に、そんな辛い選択をした過去があったなんて知りませんでしたわ。
そして、悲しい笑顔も初めて見ましたわ。
自分の行動は間違ってはいない。そう思いながらも、消化し切れない思いが、まだ心の底に渦巻き残っているのでしょう。
それとも、残った者を思い出していたのか……。
どちらにせよ、お母様にとってその過去は、封印しておきたいものだったに違いありません。少なくとも、他者が触れてはいけないものでした。
それを私が、強引に抉じ開けてしまった。優しいお母様だから、何も言わなかったけど。必要だったとはいえ、胸が痛みますわ。知らず知らずのうちに溜め息が出ます。
「……どうしたんだ? セリア。
さっきから、溜め息ばかり吐いて。
何か心配事でもあるのか? 例のシスターが何か言ってきたのか? してきたのか?
それとも、俺が何かしたのか?」
シオン様の気弱そうな声が頭上から聞こえてきます。
いつもの定位置に座りながら、今日の出来事に考えを巡らしていましたからね。シオン様を放置していました。駄目ですね。
私は微笑みながら言います。
「シオン様は何もしていませんわ。ちょっと、自己嫌悪に浸っていただけですわ。なので、心配しなくて大丈夫ですわ」
安心してもらえるように言ったつもりですが、余計に心配させてしまったみたいです。シオン様は少し寂しそうな笑みを浮かべながら、私の頬にソッと触れ言います。
「……セリアの苦しみは俺の苦しみだ。話せとは言わない。だが、それだけは覚えておいてくれ。そして、いつか話せる時が来たら話してくれればいい」
ほんとに、この人は……
私が欲しい言葉を欲しい瞬間に言ってくれますね。涙腺が緩みそうになるじゃないですか。話してしまいそうになるじゃないですか。甘えてしまいたくなるじゃないですか。こういうのを、ズルいっていうんですよ。
「……そうですね。その時が来たら、聞いて下さいね。シオン様」
ーー今は話せませんが。
「ああ。いくらでも聞いてやる」
ーー深く追求してこない、貴方が好きです。
「約束ですよ」
ーーごめんなさい。
「分かった」
ーー愛しています。シオン様。貴方のことを。
声に出来ない想いが、言葉に重みを体温を与えてくれます。
ほんの少しでもいい。この想いがシオン様に届きますように。願いを込めて、私は違う言葉を口にします。なのに、シオン様は私に愛を囁いてくれます。
「……セリア。愛している」と。
その声に促されるように、私はソッと目を閉じました。唇にシオン様の息が掛かります。
「私も」
声にしない囁き。聞こえましたか、シオン様。
☆☆☆
【第一回次世代ファンタジーカップ】に参戦しています。
タイトルは〈何もかも全てを奪われた元勇者王子、今度は俺が貴様らから全て奪ってやる〉です。
ざまぁは、第一章からとなっています。
読んで頂けると嬉しいですm(_ _)m
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