上 下
121 / 331
また、乙女ゲームですか

第九話 こういうのをズルいって言うんですよ

しおりを挟む


 お母様に、そんな辛い選択をした過去があったなんて知りませんでしたわ。

 そして、悲しい笑顔も初めて見ましたわ。

 自分の行動は間違ってはいない。そう思いながらも、消化し切れない思いが、まだ心の底に渦巻き残っているのでしょう。

 それとも、残った者を思い出していたのか……。

 どちらにせよ、お母様にとってその過去は、封印しておきたいものだったに違いありません。少なくとも、他者が触れてはいけないものでした。

 それを私が、強引に抉じ開けてしまった。優しいお母様だから、何も言わなかったけど。必要だったとはいえ、胸が痛みますわ。知らず知らずのうちに溜め息が出ます。

「……どうしたんだ? セリア。
 さっきから、溜め息ばかり吐いて。
 何か心配事でもあるのか? 例のシスターが何か言ってきたのか? してきたのか?
 それとも、俺が何かしたのか?」

 シオン様の気弱そうな声が頭上から聞こえてきます。

 いつもの定位置に座りながら、今日の出来事に考えを巡らしていましたからね。シオン様を放置していました。駄目ですね。

 私は微笑みながら言います。

「シオン様は何もしていませんわ。ちょっと、自己嫌悪に浸っていただけですわ。なので、心配しなくて大丈夫ですわ」

 安心してもらえるように言ったつもりですが、余計に心配させてしまったみたいです。シオン様は少し寂しそうな笑みを浮かべながら、私の頬にソッと触れ言います。

「……セリアの苦しみは俺の苦しみだ。話せとは言わない。だが、それだけは覚えておいてくれ。そして、いつか話せる時が来たら話してくれればいい」

 ほんとに、この人は……

 私が欲しい言葉を欲しい瞬間に言ってくれますね。涙腺が緩みそうになるじゃないですか。話してしまいそうになるじゃないですか。甘えてしまいたくなるじゃないですか。こういうのを、ズルいっていうんですよ。

「……そうですね。その時が来たら、聞いて下さいね。シオン様」

 ーー今は話せませんが。

「ああ。いくらでも聞いてやる」

 ーー深く追求してこない、貴方が好きです。

「約束ですよ」
 
 ーーごめんなさい。

「分かった」

 ーー愛しています。シオン様。貴方のことを。

 声に出来ない想いが、言葉に重みを体温を与えてくれます。

 ほんの少しでもいい。この想いがシオン様に届きますように。願いを込めて、私は違う言葉を口にします。なのに、シオン様は私に愛を囁いてくれます。

「……セリア。愛している」と。

 その声に促されるように、私はソッと目を閉じました。唇にシオン様の息が掛かります。

「私も」

 声にしない囁き。聞こえましたか、シオン様。


 
☆☆☆

【第一回次世代ファンタジーカップ】に参戦しています。

 タイトルは〈何もかも全てを奪われた元勇者王子、今度は俺が貴様らから全て奪ってやる〉です。

 ざまぁは、第一章からとなっています。

 読んで頂けると嬉しいですm(_ _)m

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。