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二年生になりました
第二十八話 考えることが出来る脳筋ですからね
しおりを挟む「…………目が覚めた途端、そうきますか?」
想像していた通りの行動に呆れてしまいますわ。
呆れた表情を隠すことなく、私はコッソリと保健室を出て来た男の背に問い掛けます。
突然声を掛けられて吃驚した男は、ビクッと身を竦ませ、悪戯が見付かった子供のように、恐る恐る後ろを振り返ります。
私の顔を見て、引き攣るのはどういう意味でしょうか? もしかして、煩いとでも思っていますか? なら、話し合いが必要ですわね。さぁ、返答は如何に。
「見逃してくれないか? 俺を助けてくれた恩はいつか必ず返す。俺はどうしても行かなきゃ行けないんだ!!」
そう一方的に脳筋男は告げると、背を向け、そのまま行こうとしてます。その背を必死で引き止める者が一人。脳筋男の従者です。
「お待ち下さい!! ケルヴァン殿下。その御体では死に行くようなものです!!」
まさに、その通り。
「それでも、俺は行かなくちゃ行けないんだ!! 止めるな!!」
必死で止めようとする従者を払い除けないのは、ケルヴァン殿下の優しさですかね。
「止めます!! 私はケルヴァン殿下の従者です!! 主を危険な目に合わせることは出来ません!!」
本人たちは至って真剣だけど、私から見れば三文芝居もいいところ。いつまで続くのかしら。でもまぁ、こういうの嫌いではないですけど。
「ケルヴァン殿下」
内心苦笑しながら、わざと低い声で脳筋男の名前を呼びます。
ピタッと止まる、ケルヴァン殿下と従者君。
やっと終わりましたか。
「……ケルヴァン殿下。
貴方の大事なお兄様が、危険をおして助け出した命を、貴方は無駄にするのですね。兄孝行だこと」
時に人は、事実を突き付けられると嫌なものです。この時のケルヴァン殿下も、嫌悪感露わにして私に突っ掛かってきます。
「そんなこと、セリア様に言われなくても分かってる!!!! だけど「だけど、何です?」
そう尋ねると、ケルヴァン殿下は黙り込んでしまいました。床を親の仇のように睨み付けています。
「全く……今、貴方が行って何の役に立つのです?」
呟く声が聞こえたのでしょう。ケルヴァン殿下が私を睨み付けてきます。
「貴方に戦う力がありますか? 人の裏をかくことが出来ますか? 信じる未来のために、自分を偽ることが出来ますか? 自分を圧し殺すことが出来ますか?
どれか一つでも、出来ることがありますか?」
一つ質問をする度に、その目から光が消えていきます。何も言い返せない。それが答えです。
「……ケルヴァン様。これは友人としてのアドバイスです。
今の貴方には、お兄様に対し出来ることは何一つありません。
でも、未来は違うのではありませんか?
ここは勉強をする場です。教師たちも超一流の人たちです。自分を磨くことが出来る最高の場ですよ。使わない手はありませんわ。
さすがに、経験値は稼げませんが、基礎知識があるかどうかは、これから先の人生に大きな影響を与えると思いますよ。そういう私も勉強中ですしね」
そう微笑みながら話すと、ケルヴァン殿下の失っていた目の光が徐々に戻ってきました。もう大丈夫そうですわね。
この学園で何を得るかは、これから先のケルヴァン殿下次第ですわ。
ふと思うのです。第二王子がケルヴァン殿下をこの学園に逃したのは、命を護るためだけではなかったかと。いずれは、自分の片腕にケルヴァン殿下を考えているかもしれませんね。確かに彼は脳筋ですが、考えることが出来る脳筋ですから。
「そうそう。勉強するなら、従者君、貴方も学園に入学されたらどうでしょうか? 主を支えるなら、ある程度の教養と人脈は必要ですわよ。勿論、腕もね」
まぁ、決めるのは本人ですけどね。
☆☆☆
後、二日ですね。早いものです。
【第四回ホラー・ミステリー小説大賞】に参加しています。
タイトルは〈人喰い遊園地〉です。
少し古い作品ですか、本編は完結済み。
恐怖をお楽しみ頂ければ嬉しいですm(_ _)m
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