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二年生になりました

第二十三話 絶対いる筈なんです

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 学園長室で話した日を境に、ケルヴァン殿下は学園から姿を消しました。従者と一緒に。

 おそらく、エルヴァン王国に戻って国王たちを説得するためでしょう。ケルヴァン殿下のことだから、あの書簡のせいで国交が結べなかったと、素直に言うのだと思いますわ。脳筋ですから。

 まぁ、会って話を聞いてくれたらいいのですけど……まず無理でしょうね。なんせ、自分の子供を餌に使う国ですから。

 だとしたら、謹慎させてから学園に戻すでしょうね。まだ、使い道があると判断して。従者に秘密裏に渡した薬も使用されていませんしね。少なくとも、その薬を使用するまでは生かされる筈。

「…………あの男を心配してるのか?」

 明らかに不機嫌そうな顔をしながら、シオン様が訊いてきます。

 二人っきりの時間に、別の人間、それも異性のことを考えていたからですね。

 ちゃんとシオン様には、ケルヴァン殿下とエルヴァン王国のことは話してますよ。特に隠すことではありませんし。下手に黙っていれば、後々面倒ですしね。それに敏いシオン様ですから、すぐに気付かれてしまうでしょう。その後は、それはそれは面倒なことになるに決まってます。

「ええ。友人ですし」

 素直にそう答えたら、益々シオン様の眉間に皺が寄ります。

「それだけか?」

「それだけですよ。……それとも、違うと答えて欲しいのですか?」

 わざとらしく、首を傾げてみました。

「…………違うのか?」

 シオン様の眉間の皺がなくなり、目がスーと光を失い掛けます。

 もしかして、私地雷踏み掛けてます?

 でもここで慌てたら、余計深く踏み込みそうなので、慎重に答えます。

「シオン様。何故、そんなに自信がないのですか? 私の事が信じられないのですか? こんなにシオン様を愛しているのに……」

 シオン様の目を真っ直ぐ見詰めながら切実に訴えます。すると、シオン様の目に光が戻ってきました。

 やれやれ。どうにか、地雷から足を外すことが出来たみたいです。

「セリアは若くて魅力的だから不安になるんだ。ましてや、その男のこと嫌いじゃないだろ?」

 不安そうに揺れる目。

 たぶん……これから先も、些細なことでこの目は揺れるのでしょうね。でも……その目をさせることか出来るのは私だけ。私だけなんです。

「そうですね。嫌いじゃないですよ。脳筋で分かり易いので。
 ……シオン様が不安に思うように、私も不安に思うんですよ。これから先、この前のハンターの方のような方が現れるでしょうから。
 いいですか?
 シオン様はモテるんです。とても魅力的なんです。私から奪い取ろうとする方も絶対いる筈なんです」

 後半は特に力説しましたわ。

 そんな私を見て、シオン様は声を出して笑います。目尻の皺が素敵ですわ。思わずキスしたくなる程に。

「……セリア?」

 シオン様が私の名前を呼びます。ニッコリと微笑むと、シオン様はもう一度私の名前を呼びました。今度は低く掠れた声で。その甘い声に、私は自然と目を閉じました。

 

 その日から二週間後、ケルヴァン殿下が学園に戻って来ました。

 とてもやつれた姿で。


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