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二年生になりました

第二十一話 属国ではありませんわ

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「セリア様!! これはいったい、どういうことでしょうか!!??」

 挨拶もなしに、いきなりケルヴィン殿下に詰め寄られてしまいした。

 シオン様に群がる虫を追い払ったばっかりなのに。おそらく、お父様の書簡がエルヴァン王国に届いたのでしょう。

 ーー国交を結ばない。

 その旨を記した書簡がね。

 溜息を吐いてしまいそうになりましたが、ケルヴィン殿下の身になって考えれば、まだ紳士的といえるでしょうね。

「……ケルヴィン様。落ち着いて下さいませ。別室でお話致しましょう」

 さすがに教室内でこの話は出来ませんわ。周囲の目がありますからね。

「……分かった」

 私とケルヴィン殿下は朝のホームルームを受けた後、学園長室に移動しました。国交を結んでいない相手国の王子を、友人とはいえ、作業室兼執務室に案内は出来ませんからね。

「これでゆっくり話せますね。ケルヴィン様」

 ケルヴィン殿下の後ろには従者が控えています。ケルヴィン殿下の顔色が悪いようですが、従者も劣らずに若干顔色を悪いようですね。息も浅いみたいです。極度の負荷が精神に掛かっているようですね。

 もしかして、従者さんの所にも、ケルヴィン殿下とは別のお手紙が届いたかもしれませんね。後で報告を聞きましょうか。

 届いたとしたら、そこに書かれている内容はゲスいものでしょうね。なんせ、エルヴァン王国はゲスが統治する国ですもの。

「今朝、父上から手紙が届いたんだが、コンフォート皇国はエルヴァン王国と国交を結ばないのは本当なのか!!??」

 興奮からか、勢いよくテーブルを両手で叩き、身を乗り出し激しく詰問します。

「その話なら、皇帝陛下から聞いてますわ」

 国の意思を尊重して、私は敢えてお父様のことを皇帝陛下と呼びました。

「どうしてだ!!!!」

 益々激しくなる声。

 念のために学園長室の周囲に防音障壁を張っておいて正解でしたわ。

「……このようなものを送られれば、どの国も国交を結ぼうとは思いもしませんよ」

 そう告げながら、私はケルヴィン殿下に例のアレを渡しました。論より証拠。初めから、ケルヴィン殿下に渡すつもりでしたから。

 勿論、アレって、エルヴァン王国から送られてきた書簡ですよ。お父様が沢山複製をくれましたから。

「…………嘘だ……こんなの……」

 現実を受け入れないのか、ケルヴィン殿下はわなわなと震えています。

 それは、自国の酷さからかしら。それとも、自分をモノとして扱われたからかしら。それとも両方か。……どちらにせよ、同情してしまいますね。不運ですわ。

「偽物ではありませんよ。ケルヴィン殿下。まぁ、複製ですけどね。送られてきた書簡をどのように扱おうと、我々の勝手。特に責められることではありませんわ」

「…………」

 言葉を発せないケルヴィン殿下に、私は容赦なく畳み掛けます。今この場で対峙している私は、貴方の友人ではなく、コンフォート皇国の皇女なのだから。

「はっきりと申しましょう。ケルヴィン殿下。
 我がコンフォート皇国はエルヴァン王国の属国ではありませんわ。馬鹿にするのも程があります。戦争になってもおかしくない文面ですよ」

 ダンマリですか。別に構いませんが。続けましょう。

「……ケルヴィン殿下。私には最愛の婚約者がいます。その私に対し、婚約者を裏切り愛人を持てと。たかが一国の王が、隣国の皇女に対してよく言えますね。
 属国としか思っていらっしゃらないから、その発言が出るのですね。よく分かりましたわ」

「…………別に愛人とは……」

 その声はとても小さい。

「はっきりと明記はされていませんが、誰がそう読んでもそう読み解くのでは?」

「…………」

「ケルヴィン殿下。もう一度申します。
 我がコンフォート皇国はエルヴァン王国の属国ではありませんわ。
 これでお分かりになったでしょう。我がコンフォート皇国が何故エルヴァン王国と国交を結ばなかったのか」

 これで分からなければ、馬鹿ね。ケルヴィン殿下は馬鹿ではないから、理解出来るでしょう。

「………………俺はどうすればいい」

「それは自分で考えるべきでは。だけど、猶予はありませんよ」

 そう答えると、私は学園長室を後にしました。ケルヴィン殿下にも考える時間が必要でしょうから。



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