婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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二年生になりました

第十五話 やっぱり、あの話ですか。

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 一週間後、痣も綺麗に消えましたので学園に戻って来ました。今日の放課後は久し振りに魔物を討伐しに行きましょうか。

 シオン様ですか……あぁ……それは、今は話したくはありませんわ。ただ言えるのは、こちらから迎えには行きません。砦に恐怖の嵐が吹き荒れようとも。薄情と言われてもです。

「久し振りね。セリア」

「おはようございます。リーファ」

 和やかに挨拶を交わす私とリーファ。いつもはこの後、たわいない会話をしてると先生が来て朝のホームルームが始まるのですが、今日は違いました。代わりに来たのはケルヴァン殿下です。

「おはよう。セリア皇女殿下」

 今日は尻尾を振ってはいませんね。少しは現実を直視出来たようですね。夢の人物と私は違いますから。ならば、この一週間の休みは意味があったということですね。

「少し時間をもらえないだろうか?」

 深刻そうですね。

「昼休みで宜しければ」

「それで十分だ。助かる」
 
 ホッと胸を撫で下ろすケルヴァン殿下。

 普段脳筋の人が深刻になると、必要以上に気になりますね。たぶん、ケルヴァン殿下の悩みの種は想像出来ますが。




 さて、昼休みになりました。

 念のためにリーファにも同席してもらおうと思いましたが、もし想像していた内容なら二国間のことです。なので、リーファの代わりにスミスとクラン君が同席します。場所は学長室をお借りしました。

「ここなら、込み入った話も出来ますわ」

 ニコッと微笑みながら話すよう促します。

「配慮感謝する」

「大事なクラスメートですもの。当然ですわ。で、話って何ですの?」

 少し笑みが浮かんだケルヴァン殿下の顔が、直ぐに曇ります。

「……関税の件だ」

 やはり想像していた通りでしたわ。思ってたよりは遅いですが。お父様が怒って関税を引き上げるって言ってましたからね。それもジワリジワリと。

「その件なら聞いておりますわ」

「ならば問いたい。何故引き上げたんだ?」

「理由は簡単ですわ。我が国とエルヴァ王国とは友好を結んでいませんもの。ましてや、同盟国でもない。あくまで、前の関税は、グリフィード王国との取り決めでなされたもの。我がコンフォート皇国とは関係ありませんわ。違いまして?」

 それに、何故国同士の関税に関して、ケルヴァン殿下が表に出て来たのか。ゲスい考えが見え隠れしてますわ。

 我が国も舐められたものね。

「確かにその通りだ。ならば、是非、コンフォート皇国と友好国になりたいのだが」

「ならば、エルヴァ国王陛下が動かれるべきでは。私はあくまで、一領主、只の皇女でしかありませんわ」

 表の政治には一切関わっていませんので、私に言っても無駄だし何もしませんわよ。伝わったかしら。口を開き出して止めたところをみると、伝わったみたいね。

「分かった。色々勉強になったよ。今度落ち着いたら、一回手合わせしてくれないか?」

 おずおずと訊いてきます。ほんと、大型犬ですわね。

「喜んで、お相手いたしましょう」

「ほんとに。ありがとう。セリア皇女殿下」

 激しく左右に振れる尻尾が見えますわ。

「ケルヴァン殿下。硬苦しいので、セリアで構いませんわ」

 耳が真横に倒れてますわね。

「ならば、俺のことはヴァンと呼んでくれ」

 それはないですわ。婚約者や家族でないものが、異性を愛称呼びするなんて完全にマナー違反です。それこそ、変な噂に信憑性が増しますわ。

「それはさすがに出来ませんわ。なので、ケルヴァン様とお呼びしますわ」

 シュンと尻尾か垂れ下がりましたね。

 これでも、最大の譲歩ですわよ。同じ王族の子供同士なのでギリギリOKですわ。

 手紙を書くためか、ケルヴァン殿下は颯爽と退出されましたが、どうなるのでしょうか。まぁ、一筋縄ではいかないことは誰でも分かると思いますが。

 さて、あのゲスいエンヴァ王国の連中の出方次第で、私は出来たばかりの友人をなくすかもしれませんわね。
 

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