婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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二年生になりました

第十ニ話 酷い女なのでしょうか

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「お仕事頑張って下さいね。シオン様」

「ああ。頑張って来る。セリアもな」

 今日も元気がないですね。……覇気がないというか。

 別に抱っこを禁止している訳ではないのですが。

 ただ、トイレや風呂場まで運ばれるのが嫌なのです。これでも乙女なんです。そこは立ち入ってほしくないスペースなのです。夫婦になったら、お風呂を一緒にって方がいらっしゃると聞きますが、私は絶対に嫌です。だけど、シオン様はたぶん、いえ絶対、一緒に入りたい方ですよね。

 お父様とお母様を見てて思うのですか、夫婦になるってことは、色々なことを妥協し合いながら、自分たちの関係を築いていくものだと、私は思うのです。なので、夫婦それぞれ違うのだと思います。

 なら、この婚約期間は、その妥協点を見極めていく期間なのだと、私は思います。

 だから、私は私なりの妥協点を提示しました。

 その結果、シオン様はかなりのストレスに晒されているようで。私はそんなに難しいことを、酷なことをお願いしましたか。

 シオン様を見ていると、まるで自分が悪いことをしてしまったかのような気がしてきます。胸が痛くなります。だからといって、そこだけはどうしても譲れません。

 そんな私は、酷い女なのでしょうか?

 日をおうごとに覇気がなくなっていくシオン様の背中を見送るこどに、私の胸の痛みが徐々に酷くなっていきます。

 苦しくて、とても痛いのに。それを口にすることは出来なくて。その痛みを取り除いてくれる唯一の人も苦しんでいる。……こういうのを、堂々巡りっていうんですよね。

 そんなことを考えていると、目頭が熱くなってきました。これ以上ここにいると、泣いてしまいそうです。誰かに見られたら、絶対にシオン様に筒抜けですね。なので、背を向け急いでその場から離れようとした時でした。

 追い風が吹きました。

 その風は、私が一番好きな香りを運んで来ます。そして、優しい体温に背中がソッと包み込れました。

「セリア……」

 頭上で囁かれるその声に、私の涙腺はとうとう壊れてしまいました。いつの間にか体の向きを変えられ、正面から抱き締められています。

「鐘楼まで飛べるか?」

 私はその声に小さく頷きました。


 
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