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二年生になりました
第十一話 始めが肝心ですもの
しおりを挟む迎えに行くと、いつもと同じように抱き締められ匂いを嗅がれました。
いつもなら、そのまま子供抱っこされるんですけど、シオン様の胸を両手で押し拒否します。だって、一度抱っこされるとずっとされ続けますから。
「セリア……?」
不審げに戸惑うシオン様に、私は手を出します。抱っこは出来ませんが、手を繋ぐのは全然構いませんから。
「たまには、手を繋いで歩きませんか?」
「……ああ。それもいいな」
どこか安心したような笑みを浮かべるシオン様。でも、戸惑いの表情は消えません。どうも、シオン様の中で抱っこは、匂いを嗅ぐと同列なもののようです。分かっていましたけどね。
手を繋ぐのって、意外と緊張するものなんですね。今まで何度も繋いできましたが、その度に、やっぱり緊張してしまいます。シオン様と繋がっているのは、手のひらだけなのに。
なんだかそれがおかしくて、知らず知らずに笑みが溢れます。
その温かみも、私にとったら幸せなんですけどね。……でも、シオン様はどうなんでしょう。
「……シオン様。シオン様はやっぱり抱っこしないと落ち着きませんか?」
シオン様を見上げながら尋ねます。
「この手のひら分の温かみだけでは不十分ですか?」
「それは……」
シオン様の目が少し泳いでいます。
「ちょっと道草しませんか?」
私はそうシオンに告げると、そのままシオン様を引っ張り転移魔法で鐘楼に移動しました。
陽が完全に暮れた旧王都の街並みは幻想的で、とてもとても綺麗でした。街の灯りだけで、シオン様の顔が見えます。シオン様も私の顔が見える筈です。
「シオン様。私はシオン様の番です。今も、これから先も。……言葉だけでは信用出来ませんか? 抱き締めるのも、抱っこも嫌ではありません。だけど、明らかに限度を超えてます」
「……それは…………」
分かってるとは言わないのですね。
「なので、線引きをしたいと思います」
「……線引き…………?」
そんなに落ち込まなくてもいいではありませんか。そんな表情をされると決心が揺らぎますわ。でもここは、心を鬼にしないと。
「はい。線引きです。認めて下さらないのなら、以後抱っこを禁止したいと思います」
言いましたわ。言い切りましたよ、クラン君。
ショックで言葉が出ないシオン様の隣で、幻想的な景色を楽しんだ後、私はシオン様と一緒に旧王宮に戻って来ました。
「シャワー浴びて来る……」
力なくそう告げ、肩を落としながら自室に戻るシオン様を見送ります。
罪悪感が募りますが、ここはグッと我慢しないと。だって、始めが肝心ですもの。
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