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二年生になりました
第七話 誤魔化すことは出来ませんね
しおりを挟む私が呆然としている間も、ケルヴァン殿下の話は続いています。
「……セリア皇女殿下も知っている通り、エルヴァ王国は魔の森に接してはいない。だから、魔物が襲ってくるような事態はないんだ。当然、騎士団も人が相手で、剣よりも話術が武器になっている」
「それは、当たり前なのでは?」
国の特徴によって、武器が変わるのは特に不思議なことではありません。剣や魔法だけが武器ではないのです。時には、口からでる言葉が殺傷能力を持ち、防具にもなります。それに関して、不満を言っても詮無きことなのでは。
「確かに、当たり前だ。そのことに関して、不満はない。ないが、騎士団の騎士たちが下に見られるのは違う。同じように国を護っているのに……」
ケルヴァン殿下は悔しそうに口を歪ませます。
その気持ちは分かりますわ。まぁ少し違いますが、下に見られてましたからね。コンフォ伯爵家は。
命を掛けて魔物と対峙しているのに、王都に住む貴族は田舎者だと馬鹿にしていました。それが、あの婚約破棄に繋がったんですけどね。婚約破棄を期に一斉清掃したので、ほざく馬鹿は表面上少なくなりましたが、まぁ今もいるでしょうね。特にシオン様と婚約したことで、尚減ったでしょう。
「その時だったんだ。
【黒の英雄】の話を聞いたのは……
俺は俺と同じ歳の奴が、国のために民のために単身戦い続けた。
始めは只の憧れだった。凄い奴がいるんだなぁって、思うくらいだった。興味があって、色々取り寄せているうちに知ったんだ。コンフォ伯爵家が俺の所の騎士団みたいな立場だって。
不平不満も口にせず、当たり前のように我が身を差し出せる。強さをひけらかすこともない。俺だったら無理だ。絶対、文句を言ってる。国に対して地位の改善を要求していた筈だ。
知りたいんだ。
どうして、そんな風にいられるのか……」
そう言ったきり、ケルヴァン殿下は俯き黙り込んでしまいました。
ここまで言われて誤魔化すことは出来ませんね……言っている内容は甘ちゃんですけど。
「…………別に、【黒の英雄】は聖人君子ではないですよ。時には腹が立ち、不平不満も抱いていた」
そこまで言った時、ケルヴァン殿下は顔を上げ私を見ました。
「ただ……決意しているだけですわ」
「決意?」
「魔物を一匹たりとも、砦には入れない。ただそれだけです。他はどうでもいい。護るものがあって、決意があって、他に必要なものはあるのですか?」
「それは綺麗事だ」
「ケルヴァン殿下。貴方から見ればそう映るでしょうね。だって、傍観者ですもの。
しかし、貴方が敬愛する【黒の英雄】は当事者です。
不平不満を口にして、魔物がいなくなるなら、いくらでも口にしたでしょう。でも、そんなことをしても魔物は減りはしません。なら、その時間を別なことに回しただけですわ」
そう答えると、腹が立ったのか険しい表情で私を睨み付けてきます。
「まるで、【黒の英雄】をよく知っているような言い方だな」
「ええ。よく知ってますよ。【黒の英雄】の一番身近にいるのが私ですから」
なんせ、本人ですからね。
にっこりと微笑みながら答えます。
「見損なったぞ!!!! セリア皇女殿下!! 婚約者がいる身でありながら、そんなことを言うなんて、信じられない!!」
バンッ!! ケルヴァン殿下はテーブルを叩き怒鳴ります。派手な音を立て、椅子が後ろに倒れました。
「失礼する!! 頼みは忘れてくれ」
笑みを浮かべ続ける私を、ケルヴァン殿下は軽蔑の目で見下ろし吐き捨て背を向ける。
「それでいいんですか? ケルヴァン殿下。折角、【黒の英雄】との話す機会を持ちましたのに」
ケルヴァン殿下は不審そうな表情をしたまま立ち止まります、
脳筋でも、人の話を訊く頭はあるのですね。安心しましたわ。
「私も暇じゃないのです。やることは山程あるのです。領主代行に魔物討伐。後、三体体が欲しいくらいですわ」
「何故三体?」
隣で、ポツリと呟くリーファは無視です。
「確かに、コンフォ伯爵家はケルヴァン殿下の言う通り、田舎者と馬鹿にされていましたわ。言われても仕方ない面は確かにありましたけどね。
社交界に参加しない。もししても、最新のドレスでもなければ、最小限の宝石しか着けていない。見た目を特に重視している王都の貴族たちは、コンフォ伯爵に属する者を嘲笑った。獣臭いと馬鹿にされた。護って貰いながら。正直、腹が煮えくり返る程腹が立ちます。
でも私にとって、それはどうでもいいことなんですよ、ケルヴァン殿下。
私からすれば、ドレスや宝石、それが何の武器になるんでしょう。まぁ、王都に住む貴族にとったら、それは立派な武器になるでしょうけど、私にとったら、それは只の物でしかありませんわ。
宝石の一つ、ドレスの一着。
それを買うくらいなら、砦の設備に武器と防具の整備に当てますわ。兵士やハンターの実力強化にもね。後、彼らの福利厚生にも。
不平不満を口にするのは簡単です。でもそれだけで、人は民は護れない。
ケルヴァン殿下。私はここに誇りを決意を持っています。それを護るためなら、誰に何を言われても構わない。自分の体が傷付くのも厭わない。命さえ天秤に掛けてやる。それだけの覚悟を持っていますわ。
それが、当事者と傍観者の違いですわ、ケルヴァン殿下。
ああ、そうそう。私はシオン様一筋です。自分と浮気なんて、神様でも出来ませんよ」
そう微笑みながら締めくくると、私は呆然としているケルヴァン殿下を残し、リーファと一緒にその場を後にしました。
これ以上は付き合いきれませんわ。
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