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貴方の傍らで

第二十二話 久し振りの共闘です

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 苦虫を潰したお父様に例の釣書と書簡を押し付けて、とっととその場から離れました。

 勿論、向かうのは砦です。

 今日は朝早くから、シオン様はアーク隊長の所に出向いています。引き継ぎを兼ねての顔見せ的なものです。もう暫くはアーク隊長の手を借りますが、まぁ目安は私のデビュタントが終わるまでですね。

 砦に行くと、訓練所に人だかりが出来ていました。兵士と冒険者たちです。

 彼らの先で、激しく打ち合う金属の音がします。

「こんにちは。お久し振りです。皆さん一緒なんですね」

 グリフィード王国の時、前領主だったラング様と前ギルマスを見掛け、私は彼らに近寄り声を掛けます。

 例の禁止薬物の責任をとり降格したギルマスの代わりにラング様がギルマスに。前ギルマスは副ギルマスに降格されました。

「これはセリア様。お久し振りです。遅くなりましたが、婚約おめでとうございます」

「ありがとうございます。ラングさん」

「それにしても、二人とも凄いですね……」

 目の前で繰り広げられている剣技に、ラングさんも副ギルマスさんも興奮してます。それはこれを見ている全員ですが。

「肩慣らし程度ですよ。二人が本気になれば、周囲に被害が出ますからね」

「「あれで、肩慣らしですか!?」」

「ええ。三割ぐらいではないでしょうか? もう少し本気になれば、風圧だけで、普通の人間ならふっ飛ばされますよ」

「「…………」」

「どうかしましたか?」

「……もしかして、セリア様は見えているのですか? 二人の打ち合いが」

 副ギルマスが訊いてきました。

 変なことを訊きますね。思わず首を傾げてしまいましたわ。

「勿論、見えてますが」

 何、驚いてるんですか? 

「セリア様は魔術師でしょう」

 その台詞に納得しましたわ。

「確かに、ギルドには魔術師で登録してますが、剣が使えない訳ではありませんよ。だって、魔法に耐性がある魔物に対してどう対象するのです?」

 そんなに呆気にとられること言いました? まぁ大概はパーティーを組んで狩りますが、私は基本ソロで動いてますし、当然知っているとばかり思ってましたわ。

「セリア!!」

 そんなことを話していると、愛しい婚約者が私の名前を呼び飛んで来ました。

「シオン様。アーク隊長の次は私と手合わせして下さいませ!! 久し振りに、思いっ切り剣を振り回したいですわ。勿論、周囲に被害が出ないように結界を張りますから」

「なら、久し振りに俺と共闘しないか?」

 アーク隊長の提案に飛び付きます。

「いいですね。やりましょう!!」

 ストレス解消にはもってこいです。楽しみましたよ。思いっ切りやり合えるのは久し振りですからね。単独も楽しいのですが、組むのも楽しいものです。自分より上の相手なら特に。気を使わないですみますから。

 三時間。

 陽が暮れるまでぶっ通しで。

 あ~~いい汗掻きましたわ。かなりいいところまでいきましたが、全く歯が立ちませんでしたわ。悔しいですが、さすがですわ。これ以上、惚れさせてどうするんですか、シオン様。

 受け取ったタオルで汗を拭っていると、シオン様が訊いてきました。

「何かあったのか?」と。

 ほんと、お見通しですね。剣は嘘を吐かない。前にシオン様が仰った台詞ですね。

「後でお話しますわ。

 それよりも、ちょっと暴れ過ぎましたようですね……」

 周囲に被害はありませんでしたが、訓練所は完全に破壊されてました。取り敢えず、空いた大穴は埋めときますね。

 魔法である程度応急処置をしましたので、一週間程で使えるようになるそうです。よかったよかった。







「……信じたか?」

 ラングが副ギルマスに尋ねる。

 副ギルマスはたった二文字の単語さえ発せずに、コクコクと何度も頷く。

 彼はずっと疑っていた。

 四年前、コンフォート皇国を単身魔物から護った英雄がセリア皇女殿下なのかと。

 それは同時に、セリア皇女殿下が【黒の英雄】ではないと思っていた。いくらラングがそう言っても。まぁラング自身、その気持ちも分かなくはない。

 憧れていたからだ。誰よりも、【黒の英雄】に。それがまさかの小柄な少女とは、信じたくはないだろうな。ラングは頭を垂れている相棒を見ながら、そんなことを思っていた。仕方ない。今日は朝まで付き合ってやろう。

「今日は朝まで飲もうか」

 


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