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貴方の傍らで

第十九話 まるで宗教のようです

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「さて、ではさっき書いていたメモを見せてもらえるかしら」

 グリフィードの執務室。私の隣にはスミス。シオン様は剣の鍛錬中。

 薄暗い室内の中、私とスミスの前には五人の女性が緊張した表情をしながら立っています。文官が三人。侍女が二人。なかなか出そうとはしません。

 そんなに見られて困るモノなのかしら。益々見たくなるじゃありませんか。

「さあ、出しなさい。今すぐに」

 ニンマリと笑いながら、再度促します。

 そもそも、皇国の機密に関するものではないことは分かっているのです。だって、元、現暗部が働くこの元城で、皇国の機密を盗めるとは考えられませんわ。盗んで特になるものもありませんけどね。それに、もし仮に盗めたとして、あんな初歩的なミスしますか? あり得ませんわ。

 危ないモノじゃないって分かってるから、こう悠長に言っているんですけどね。

「……あの、セリア皇女殿下…………見せますから、どうか私たちから取り上げないで下さい!!」

 文官さんの一人がそう言ったのを皮切りに、次々と口を開き始めました。

「私たちの心の癒やしなんです。なくてはならないモノなのです。だから、どうか取り上げないで下さい!! セリア皇女殿下」

「私たちの活力を奪わないで下さい!! お願いします」

「「お願いします」」

 必死でそう嘆願し、頭を深々と下げる彼女たちの反応に、私も困惑を隠せませんでした。スミスも私と似た反応をしています。

 ……そこまで必死に守るものって一体何なの?

「取り敢えず、見せなさい。それから決めます」

 そう命令すると、渋々メモ用紙とスケッチブックを差し出す彼女たち。

 まずはメモ用紙を捲ります。

 一枚目に書いてあったのは、お父様とシオン様が肩を叩きあったあの時の様子ですね。

「……何故? お父様とシオン様が裸なの?」

 体のデッサンかしら? でも、それだけでこんな過剰な反応するかしら?

 疑問に思いながら次々と捲っていくと、書かれているのは、皆抱き合ったりしているものばかり。それも、全員男ですわ。詳細な説明付きで。

 多いのはクラン君ね。アーク隊長のもあるわ。えーースミスのもあるわね。後は騎士。それに文官。

「…………もしかして、欲求不満ですか?」

 男性の方が異性の裸の本を見ていると聞いたことがありますわ。ならば、反対があってもおかしくはないわね。まぁ、女性用は男性用よりも遥かに少なさそうだから、自分で用意したのかしら。

 もしそうだとしたら、これは個人の問題ですね。生理的なものですし、咎めることは出来ませんわ。お父様とシオン様が対象となってるのは、内心複雑ですが、二人とも魅力的なのだから仕方ありませんわね。

 だとしても、スミスまでって……守備範囲広くないですか!?

「違います!! これは至高の愛です!!」

 恍惚な表情で否定されました。

「至高の愛?」

 さっぱり分からない。誰か、通訳を頼みます。

「…………もしかして、貴女方はそちら方面の方たちですか……」

 やけに疲れた声でスミスは尋ねます。返事は戻ってきません。

「そちら方面?」

 代わりに私がスミスに尋ねます。

「男性同士の恋愛を推奨されている方たちです」

「男性同士の恋愛?」

 貴族社会や騎士の中には、同性の恋人がいる人が多いって聞いたことがあります。なので、特に驚きはしませんわ。

「はい。自分の好みの男性同士を恋人に見立てて楽しむ方たちです」

 あーーだから、クラン君のが多かったのですね。この中では毛色が違いますし。若いうえ、美形ですが華やかさに欠けるので、どちらかというと平凡寄りですよね。まぁ、人の好みは人それぞれだから。

 ということは、でも、お父様とシオン様を恋人同士に見立てて楽しんだってこと?

「自分じゃなくて?」

「はい」

 それって、何が楽しいの?

 首を傾げてしまいます。

「私にも分かりません」

 スミスも首を横に振ります。

 でしょうね。私もさっぱり分からないわ。ただ、一種の宗教のようだわ。まぁでも、

「害があるものじゃないから、返しますわ」

 そう告げると、まるで無罪を勝ち取ったかのように喜び、彼女たちは涙しています。若干引くくらいに。

「但し。お父様とシオン様は省くように。それと、絶対、人目につかないように。その二点が守れるなら、続けても構いませんわ」

 ほんと、面白いように顔色が変わりますわ。苦笑しながら見ています。喜んでいた顔が物凄く落ち込み、少し浮上しましたね。

 そんなに、お父様とシオン様が省かれるのは嫌だったのですか…… 



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