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貴方の傍らで
第十六話 なんか悔しいですわ
しおりを挟む「…………シオン様。何をなさっておいでなのですか?」
頬を引つらせながら、私は尋ねます。
「肩慣らしをしてただけだったが……駄目だったか?」
イタズラが見付かった子供のように答えるシオン様は、それはそれで可愛いのですが、ここはキッパリと申しましょう。
「確かに、十日経ったので、多少動く必要があると思いますわ。思いますが、これは多少でしょうか? そもそも、多少って散歩ぐらいだと思うのは、私だけでしょうか?」
少なくとも、魔物の死体の山を作るのは絶対に違うと思いますわ。それも幾つもね。少し目を離したらコレなんだから。
「……気分がよかったから、つい」
「つい?」
反対にそう聞き返せば、シオン様は気まずそうに頭をポリポリと掻きながら剣をしまう。
あーーなんか悔しいですわ。
そんな動作一つで絆されてしまう自分が。そして、溜め息を吐きながらも、持っていたハンカチで汗を拭ってあげてるなんて。
「悪かった」
素直に拭かれながら、シオン様は謝ってきます。
「どこか痛い所とか、違和感はありませんか?」
シオン様に抱き付きながら尋ねます。これでも、心配してるんですから。
まだ怖いのです。シオン様がまた眠りに付いてしまうのではないかって。お祖父様にも、もう大丈夫だと言われはしましたが、それでも心配で仕方ないのです。それじゃあ駄目だって分かってはいるのですが、それでも、心配する気持ちは拭えません。
「大丈夫だ。どこも痛い所はないし、違和感もない」
私を安心させるように笑みを浮かべながら、シオン様は言います。
「よかった……」
私はそう答えると抱き締める手に力を込めました。勿論シオン様も。
「汗臭くないか?」
「全然構いませんわ。だって、シオン様の匂いに包まれてるんですもの。どんな香水よりも良い匂いですわ」
ん……? 体温が上がったような?
顔を上げると、シオン様が片手で顔を隠していました。でも、隙間から見える頬や耳、首筋が赤く染まっています。
もしかして、照れてますの?
「……セリア。俺以外に、その台詞絶対に言うな」
「いいませんよ。シオン様以外の方は、ただの汗臭い匂いなのですから」
何、当たり前のことを言ってるんですか。
ちょっとムカッとしながらそう答えると、シオン様がその場に座り込んだ。
「どうしたんですか!?」
「拍車が掛かってる……」
小さい声でポツリとシオン様は呟きました。
それじゃあ、一緒に帰りましょうか。
「シオン様。この様子でしたら、デビュタント、一緒に踊れますね」
「ああ。その前に、練習しないとな」
「それなら、大丈夫ですわ。良い講師がいますから」
とても厳しいですけどね。私もこてんぱんにやられていますから。でも厳しい練習でも、シオン様と一緒なら幸せですわ。
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