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貴方の傍らで
まさか、六か月後とは思いもしなかった
しおりを挟む竜王の剣を抜いた瞬間、俺を襲ったのは体全体が燃えるかのような熱さだった。本当に燃えてると錯覚するくらいの熱さだ。意識も、次第に霞が掛かってくる。
だが、意識を失わないように必死で耐えた。本能的にそうしていた。そうしないと、永遠に目が覚めないと思ったからだ。
焼け死ぬと思うくらいの熱さなのに、何故か痛みは全く感じなかった。麻痺したとかではなさそうだ。
痛みは感じないが、何故か体が動かない。自分の体なのにだ。一切自分の意思では動かせない状態だった。次第に、思考も定まらなくなってきた。そんな状態になっても、俺は耐えた。
危うい状態の中……体の細胞一つ一つがバラバラになっていくような、言葉にし難い不快感だけは俺をずっと苛んでいた。
終わりもなく、休む時間もなく、この状態が長く続くのなら、間違いなく俺は精神を病んでいただろう。多少の精神負荷なら耐えれる自信は十分ある。あるが、これはそういった通常の精神負荷とは全く違っていた。今まで感じたことがない種類の不快感だった。
血を見るわけでも、魔物の臓物を見るわけでもない。命の駆け引きをしているわけでもない。
俺が今まで晒されていた外からの負荷ではなく、内部から侵される負荷。内部を遠慮なく弄られる不快感ーー。それは想像を遥かに絶するものがあった。
そんな中で、俺が俺を見失わないでいられたのは、毎日のように語り掛けてくる少女の声だった。
その声の主を、俺はよく知っている。どんな状態になっても忘れることは決してない、俺の最愛の番。
運命の相手ーー。
…………セ……リア……セリ…ア…………セリア……
声には出せないが、詰まりながらもその名を呼ぶ。
その名を呼ぶ度に、俺は俺を保てた。今も昔もそうだが、この時の俺は特に、セリアが希望の光そのものだった。大袈裟じゃなく。
いい年をした中年のオッサンを本気にさせ、骨抜きにした物好きな少女。
いつも真っ直ぐで、恋愛に関しても、真正面から向かってきた。震えながら。本当は怖かったに違いない。下手したら、今まで築いてきた関係全てが終わる可能性があった。それでも、セリアは覚悟を決めて向かってきた。自分の気持ちを偽ることなく。
結局、逃げ腰だった俺をセリアは逃さなかったわけだが……
……昔は、自分の子供のように思っていたのにな。
今では、セリア以上に俺が執着している。惚れ抜いている。常に一緒にいたいと思っている。
この不快感は、セリアと一緒に生きるための試練だ。なら、この試練は、俺にとったら幸せの前準備だ。だったら、俺はさっさと準備を終えて、セリアを抱き締めるだけだ。安心させるだけだ。
セリア……今は答えられないけど、待っててくれ。直ぐに終わらせて、セリアの元に帰るから。
そして力一杯抱き締め、甘やかそう。まずは、心配掛けてしまったことを謝らないとな。
俺はそんなことを考えていた。
でもまさか、目が覚めたのが六か月も先になるとは、この時は思いもしなかった。
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