婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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貴方の傍らで

第十二話 この方が落ち着きますわ

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 何故かお母様の手を掴んでしまいました。魔法具を装着するためだって分かってるのに。頭っていうより、体が反射的に動いた感じですね。

 そんな私を、ニヤニヤ笑いながらお母様は見ています。

 なんか照れくさいのと、素が出てしまった恥ずかしさや色々な気持ちが湧いて出て、ついお母様に乱暴な言い方をしてしまいました。

 そんな私を怒ることなく、お母様は例の魔法具を手渡してくれました。そして、「着けてみて」と促します。

 言われた通り、早速着けてみました。が、一向に変わりません。

 もしかして、失敗しました?

「私が失敗する訳ないでしょう。ほら、魔力流してみて」

 軽く怒られましたわ。

 言われた通り、魔力を流してみます。すると、みるみるシオン様の姿が変化し始めました。

 ものの一分程で、シオン様は以前のシオン様に戻ります。

「無事作動しているようね」

 お母様はホッと胸を撫でおろしています。やっぱり、失敗する可能性があったのでは? なんて言いませんよ。

「言わなくても、目が語ってるわよ」

 そう怒られ、軽く頭を小突かれましたわ。

 目が語ってるって……まだまだ私も修行が足りませんね。お母様を騙せるくらい成長しなくては。これから先、他国と渡り合っていかなくてはいけませんもの。今はお父様の力を借りていますが、学園を卒業したら、全てとは言いませんが、大半が王都に帰還するでしょう。それまでに、学ぶことは学び、吸収するところは吸収し、自分の糧にしないといけませんわ。今はその準備期間だと思ってますの。

 当然、シオン様も一緒ですわよ。一緒でなくてはなりませんの。

 だから、早く目を覚まして下さい。シオン様…………

「大丈夫よ。もうすぐ目を覚ますわよ。だからそんな顔をしないの」

 お母様が抱き締めてくれました。こんな風に慰めてくれるのは初めてです。戯れるように抱き付かれたことはただありますが。……こんな風に抱き締められるのもいいですね。

「……私は今まで子供たちに対して、親らしいことなんて一つもしてこなかった。こんな風に抱き締めることもしてこなかった。ほんとは……こうやって抱き締めて、あげたかったのに……」

 こんな告白をされたのは初めてです。

「してこなかったのではなく、出来なかったのですよ」

 私はそう告げると、お母様の背中にソッと手を回しました。

 確かに、普通の親がするようなことは一切ありませんでした。皇族を鑑みてもです。それでも、

「お母様の愛情を疑ったことはありませんわ。でもまぁ、その愛情表現が斜め上ですけどね」

 今回の件もそうです。普通、それとなく説明すべきことではありませんか。なのに何の説明もなく、いきなり放り込まれて決断をせがまれる。それも人生を左右する決断ですよ。これが他人なら、絶対、何かしらの報復をしてますけどね。

 ……お母様だから報復しないんですよ。怒ってはいますけどね。愛情があるからって、全部が全部許せる訳ありませんよ。

 と思いながらも、何も出来ないんですよね。実際は。

「斜め上って何!?」

「どうみても、斜め上でしょう。そもそも、反論出来ると思っているのですか? 何なら、一つ一つ細かく説明していきましょうか? 私は別に構いませんよ」

 と言った脅したら、お母様はこれ以上突っ込んではきませんでした。

「ーーこ、この魔法具だけど、シオン自身で取り外したりすることは出来ないから。取り外しが出来るのはセリアだけよ。同じように魔力を流したら取れるわ」

 少し動揺するお母様。

 それを横目で見てから、やってみました。すると、簡単に取れました。そして、シオン様は若返った姿に。

 なるほど。

 理解すると、私は無言でもう一度魔法具を装着しました。

 途端に以前の姿に戻るシオン様。

 やっぱり、この方が落ち着きますわ。見慣れてますもの。

 そんな私にお母様は、「セリアって、意外とオジサマ好きよね」とボソッと呟きます。

 聞こえましたよ、お母様。いい度胸ですね。一つ一つ、細かく説明していきましょう。まだ夜は始まったばかりですよ。

 お母様、逃しませんわ。




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