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貴方の傍らで

第十話 そういえばいましたね

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 闇部屋、もとい病み部屋が綺麗に掃除されていく様を見ながら、ふと疑問が頭を過りました。

「よく、ルーク隊長に気付かれずに処理出来ましたね」

 確かに私の侍女たちは優秀ですけど、ルーク隊長の野生の勘は侮れませんよ。特に、ここまで手の込んだ仕掛けをしているのに、邪魔して来ないなんて普通なら考えられません。

「当然、その点は既に手を打っていましたから、特に問題ありません」

 スミスがにっこりと微笑みます。

 途端に、ゾワッっと背筋に悪寒が走ります。さすが、私の先生ですわ。どこをどう見ても普通に見える笑み一つで、悪寒を走らせるなんて。これは是非習得しないといけませんね。これからの交渉に必要なスキルですわ。

 まぁ、それは後でじっくりと習うとして、ルーク隊長に眠り薬でも盛りましたか。でも、普通の眠り薬なら効きませんよね。ということは、獣用か魔獣用を使用したのかしら。そうだとしても、ルーク隊長には然程ダメージがないと思うのですが……。だってルーク隊長は、状態異常の耐性が異常に高かった筈。普通の人間が即死する程の毒を煽っても、ケロッとしながら味の感想を言うのがルーク隊長だ。

「……スミス。一体、何の薬物を使用したのです?」

 ていうか、この世界にルーク隊長に効く薬物なんて存在するのでしょうか? 

「普通のそこら辺にある睡眠薬です。ただ……状態異常の耐性を無効化する魔法を同時に発動しただけですよ」

 意外な答えが返ってきました。

 でも、納得です。なるほど、その手がありましたね。無効化ですか……でも、

「状態異常の耐性を無効化する魔法って……余程の物好きですね」

 口にする程簡単なものではありませんもの。

 確かにその魔法を掛けてから睡眠薬を飲ませれば、ルーク隊長は落ちますね。あくまで理論上ではですが。

 でもその魔法は、確か……かなりの魔力を消費する筈。冒険者登録している魔術師が、ほんのちょっと発動するだけで倒れるほどですね。だけどその割には、あまり実戦に役に立つ魔法ではありませんの。魔物相手に低下の魔法は掛けても、無効化までする必要はありませんもの。低下の魔法で十分対処出来ますわ。それに残りの魔力は攻撃に、そして治癒に使えますもの。こちらの方がよほど効率的ですよね。

 なので、この魔法を習得しようとする物好きがいるなんて思いもしませんでしたわ。

「伯爵領には使い勝手のいい駒がおりますので。お忘れですか? セリア様」

 使い勝手のいい駒? う~~ん、あっ、思い出しましたわ。

「そういえば、いましたね。確か……名前はルイスとソフィアだったかしら」

 あの一件から一年も経っていないのに、完全に忘れてましたわ。八か月ほど前、二人、魔力がそこそこある者を連れて来ましたね。

 私を嵌めて、無理矢理婚約しようと画策した件を思い出す。屑王子が国を継ぐためだったわね。

 改めて思うけど、あの屑王子たちがあんな馬鹿なことをしでかさなければ、グリフィード王国は滅びることはなかったでしょう。完全に彼らは国賊ですよね。

「はい」

「流石ですね。そこまで魔力を上げれるとは」

 魔力をあげるために、何度死んだことでしょう。最低五十回は死んだんじゃないですか。まぁ、自業自得、因果応報ですから同情も罪の意識もありませんけどね。それよりも、それに付き添い続けた皆に拍手を贈りたいですわ。

「皆の努力の賜物です」

 私もそう思います。なので、

「スミス。皆にボーナスを付けて下さいね。勿論、スミス、貴方もですよ」

 成果には、正当な報酬を。当然ですわ。

「ありがとうございます」

「さて、紅茶も飲み終えたことですし、そろそろ仕事を始めましょうか」

 いい、気分転換になりましたわ。

 机に戻る私に、スミスが書類を置きながら告げます。

「ユナ隊長の分は後程に」

 相変わらず、いい笑顔ですね。

「楽しみにしてますわ」






☆☆☆


 第四回キャラ文芸大賞にエントリーしています。

 タイトルは【護国神社の隣にある本屋はあやかし書店】です。

 少し古い作品です。

 親子愛をテーマになってます。

 気楽に読めますので、是非(。•̀ᴗ-)✧

 
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