婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
65 / 342
貴方の傍らで

第十話 そういえばいましたね

しおりを挟む


 闇部屋、もとい病み部屋が綺麗に掃除されていく様を見ながら、ふと疑問が頭を過りました。

「よく、ルーク隊長に気付かれずに処理出来ましたね」

 確かに私の侍女たちは優秀ですけど、ルーク隊長の野生の勘は侮れませんよ。特に、ここまで手の込んだ仕掛けをしているのに、邪魔して来ないなんて普通なら考えられません。

「当然、その点は既に手を打っていましたから、特に問題ありません」

 スミスがにっこりと微笑みます。

 途端に、ゾワッっと背筋に悪寒が走ります。さすが、私の先生ですわ。どこをどう見ても普通に見える笑み一つで、悪寒を走らせるなんて。これは是非習得しないといけませんね。これからの交渉に必要なスキルですわ。

 まぁ、それは後でじっくりと習うとして、ルーク隊長に眠り薬でも盛りましたか。でも、普通の眠り薬なら効きませんよね。ということは、獣用か魔獣用を使用したのかしら。そうだとしても、ルーク隊長には然程ダメージがないと思うのですが……。だってルーク隊長は、状態異常の耐性が異常に高かった筈。普通の人間が即死する程の毒を煽っても、ケロッとしながら味の感想を言うのがルーク隊長だ。

「……スミス。一体、何の薬物を使用したのです?」

 ていうか、この世界にルーク隊長に効く薬物なんて存在するのでしょうか? 

「普通のそこら辺にある睡眠薬です。ただ……状態異常の耐性を無効化する魔法を同時に発動しただけですよ」

 意外な答えが返ってきました。

 でも、納得です。なるほど、その手がありましたね。無効化ですか……でも、

「状態異常の耐性を無効化する魔法って……余程の物好きですね」

 口にする程簡単なものではありませんもの。

 確かにその魔法を掛けてから睡眠薬を飲ませれば、ルーク隊長は落ちますね。あくまで理論上ではですが。

 でもその魔法は、確か……かなりの魔力を消費する筈。冒険者登録している魔術師が、ほんのちょっと発動するだけで倒れるほどですね。だけどその割には、あまり実戦に役に立つ魔法ではありませんの。魔物相手に低下の魔法は掛けても、無効化までする必要はありませんもの。低下の魔法で十分対処出来ますわ。それに残りの魔力は攻撃に、そして治癒に使えますもの。こちらの方がよほど効率的ですよね。

 なので、この魔法を習得しようとする物好きがいるなんて思いもしませんでしたわ。

「伯爵領には使い勝手のいい駒がおりますので。お忘れですか? セリア様」

 使い勝手のいい駒? う~~ん、あっ、思い出しましたわ。

「そういえば、いましたね。確か……名前はルイスとソフィアだったかしら」

 あの一件から一年も経っていないのに、完全に忘れてましたわ。八か月ほど前、二人、魔力がそこそこある者を連れて来ましたね。

 私を嵌めて、無理矢理婚約しようと画策した件を思い出す。屑王子が国を継ぐためだったわね。

 改めて思うけど、あの屑王子たちがあんな馬鹿なことをしでかさなければ、グリフィード王国は滅びることはなかったでしょう。完全に彼らは国賊ですよね。

「はい」

「流石ですね。そこまで魔力を上げれるとは」

 魔力をあげるために、何度死んだことでしょう。最低五十回は死んだんじゃないですか。まぁ、自業自得、因果応報ですから同情も罪の意識もありませんけどね。それよりも、それに付き添い続けた皆に拍手を贈りたいですわ。

「皆の努力の賜物です」

 私もそう思います。なので、

「スミス。皆にボーナスを付けて下さいね。勿論、スミス、貴方もですよ」

 成果には、正当な報酬を。当然ですわ。

「ありがとうございます」

「さて、紅茶も飲み終えたことですし、そろそろ仕事を始めましょうか」

 いい、気分転換になりましたわ。

 机に戻る私に、スミスが書類を置きながら告げます。

「ユナ隊長の分は後程に」

 相変わらず、いい笑顔ですね。

「楽しみにしてますわ」






☆☆☆


 第四回キャラ文芸大賞にエントリーしています。

 タイトルは【護国神社の隣にある本屋はあやかし書店】です。

 少し古い作品です。

 親子愛をテーマになってます。

 気楽に読めますので、是非(。•̀ᴗ-)✧

 
しおりを挟む
感想 775

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

妹のことを長年、放置していた両親があっさりと勘当したことには理由があったようですが、両親の思惑とは違う方に進んだようです

珠宮さくら
恋愛
シェイラは、妹のわがままに振り回される日々を送っていた。そんな妹を長年、放置していた両親があっさりと妹を勘当したことを不思議に思っていたら、ちゃんと理由があったようだ。 ※全3話。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

婚約者が、私より従妹のことを信用しきっていたので、婚約破棄して譲ることにしました。どうですか?ハズレだったでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者が、従妹の言葉を信用しきっていて、婚約破棄することになった。 だが、彼は身をもって知ることとになる。自分が選んだ女の方が、とんでもないハズレだったことを。 全2話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。