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貴方の傍らで

第九話 人はそれを闇部屋と言います

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「やっぱり、魔の森産の紅茶は美味しいですわね」

 只今、事務仕事の合間の休憩時間です。

 私は侍女が用意してくれた紅茶と焼き菓子にほっこりしています。領地経営の仕事も大事で大変なんですけど、こういう時間も必要だと、ほぼ強制的にとらされますけどね。

「ありがとうございます、セリア様。昨日伯爵領から届いた物です」

 珍しく侍女の語尾が上がってます。

「良いことでもあったのですか?」

 何も考えずに尋ねます。すると、侍女は嬉しそうに答えてくれました。何故か、側で散らかした書類の整理をしているスミスも、機嫌が良さそうなのが少し気になりますが。

「はい。綺麗好きの私の友人の手紙が一緒に同封されていまして。やっと掃除が出来たと心底喜んでいました」

 まるで自分のことのように喜ぶ侍女。

 それが普通の掃除じゃないと察する私。

 一体何を掃除したのかしら? 

 気になりつつも深入りはしない。だって、その笑みの奥に闇が見えた気がしましたから。被弾するのもね。なのでここは、

「それはよかったわね」

 そう返事をしました。でも、避けていても、意図せず流れ弾は飛んで来るものです。

「はい。今までは、そこまで手を伸ばせませんでしたが、に許可頂いたので、それはそれは、に掃除出来たようです。二度と汚れが付かないように、ガラクタが増えないように、徹底的に監視するそうです」

 皆様に許可? 徹底的に? もしかして……

「掃除出来た証拠として、映像が届いていますがご覧になりますか?」

 スミスが尋ねてきます。侍女を見れば、左右に激しく揺れる尻尾が見えました。実際はないんですけどね。

 これって……

 一応形ばかりに訊いてはいますが、見て欲しい感アリアリと出てますわね。ここで断るのは簡単ですが、断った後のモチベーションは間違いなくダダ下がりですわね。

「……そうね。見せてもらおうかしら。まだ、休憩時間はありますからね」

 そう答えるしかないでしょう。

「では、再生致します」

 スミスは魔法具に魔力を流し稼働させます。

 ここに持って来てるってことは、余程見せたかったのですね。

 まず映し出されたのは、一見質素に見えますが、誂えている調度品は高価な物で統一された豪華な部屋でした。

 ただ……二点、不自然な点を除いてはですが。

 大きな窓には鉄格子。そして、天井、床、壁一面に魔石が練り込まれています。

 まさにこれは、牢屋ですね。

 それも、魔力を無効化する魔石を練り込まれている点から、魔術師相手の。よく見れば、鉄格子も普通の鉄とは違うようです。キラキラと光ってますもの。おそらく、鉄にも魔石の破片が練り込まれているようです。そうすることで、かなりの強化出来ます。

 うん。間違いなく、これは私専用ですね。

 なら、これを用意したのはルーク隊長ですか。いつから用意してたのでしょう。有に年単位は掛かってますよね。かなり用意周到だったようですが……ちょっと、いえ、かなり狂気を感じますわ。正直、ドン引きです。

 ということは、アーク隊長が言っていたのは、大袈裟ではなかったようですね。

 撮影者は細部まで部屋の様子を撮影しています。それも、ご丁寧に実況付きで。

「……ちゃんと撮れてるかな? 大丈夫ね。はい。お待たせ致しました。

 この部屋は、闇部屋ですね。暗闇の闇。別名病の方の病み部屋ともいいます。

 調度品は特級品。壁にも床にも、天井にも魔石が練り込まれていますね。鉄格子にも。徹底してますね。あっ、浴槽を見て下さい。有に三人は入れますね。一緒に入るつもりだったのでしょうか? (マジ、殺したろか)

 まぁ、造った本人から言えば楽園なのかもしれませんが。心底気持ち悪いですね~~。徹底的に排除したくなりますね。全てにおいて。でも、排除命令が出ていませんので、出来ないのがとても残念です。

 我が主が魅力的過ぎるから、こういう輩が出るのは分かりますけどね。(無自覚小悪魔キャラですから)

 では、早速壊していきましょうか。やっと許可が下りましたからね。アーク様と我が主の。徹底的にとの事ですので、徹底的に壊していきますね。調度品は壊しませんよ。これは売り払ってお金に変えますね」

 やけに明るい声でした。たぶん実況しているのが、目の前にいる侍女の友人なのでしょう。所々に、小声で本音が吐露されてますけど。

 で、無自覚小悪魔キャラって何ですの?



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