60 / 331
貴方の傍らで
第五話 番強しです
しおりを挟むアーク隊長の心配する気持ちは身に沁みて分かりますわ。本当に、仲の良い家族ですもの。幼い頃から側でずっと見ていた私はよく知っています。シオン様とアーク隊長たちの絆の強さを。
当然といえば当然ですね。
だってシオン様は、愛人や妾が珍しくない貴族社会の中で後妻を娶らず、自分の手でアーク隊長たちを育てあげましたから。それも立派に。絆が強くなって当たり前ですわ。
なので、ほんとは私もアーク隊長たちに見舞って欲しい。心からそう思います。
しかし……現実は厳しいもので。ほぼ不可能に等しいでしょう。
まず、竜族の習性がそれを許しません。前にもいいましたが、番に対して竜族の執着ぶりは凄まじく、正直怖いものがあります。先祖返りとはいえ、その一端を間近で体験したばかりの私が断言しますわ。
だとしたら、方法は一つしかありません。シオン様を移動させるしか……でも、移動させて何か起きたら、そう考えると怖くて出来ません。
ならばせめて、映像だけでも見せることが出来たのなら……隊長たちの慰めになるでしょうか。それに、前もって心の準備が必要だと思うのです。
どちらにせよ、お祖父様に訊いてみないといけませんね。勝手には出来ませんもの。
「お祖父様。お願いがあるのです」
その日の晩。いつもと同じように仕事を終えた私は、シオン様の元にやって来ました。そして出迎えてくれたお祖父様に早速尋ねます。
「お願い? セリアが。珍しいな」
「お祖父様。シオン様の様子を撮影してもよいでしょうか?」
「シオンの様子を? セリアのためか? それともシオンの子のためか?」
詳しい説明をしなくても、お祖父様には全て分かっておいでです。考えが読めるんだから、下手な説明はいりませんね。
でも、私のためって? まぁ……癒やしのために欲しいですけど。言葉にされると恥ずかしいですね。
「両方ですわ」
嘘は吐けませんもの。吐いてもすぐにバレますし。
お祖父様は眉間に皺を寄せて考え込んでいます。
やっぱり難しいみたいですね。人ならそれくらいって思うことも、竜族では考えられないことがただあるのです。番がいる自分の住処を映像に残すことは、竜族にとってはアウトに近いのでしょう。無理にとは言えません。半ば諦めていると、隣から援護射撃がありました。
「別にいいではありませんか?」
お祖母様です。
「しかし……」
お祖父様は渋っています。そんなお祖父様に、お祖母様は若干キツイ言い方で説得しようとしてくれてます。
「可愛い孫と孫娘の願いですよ。筋を通してくれているのが分からないの?
セリアは黙って映像を残すこともしなかった。やろうと思えば簡単に出来るのにね。少なくとも、セリアは私と貴方に対して誠意と敬意をもっているわ。そんな相手に、貴方は意地を張るの? そんなに器の小さな男なの?」
神に等しいと言われている聖獣様にそこまで言えるお祖母様って……
呆気にとられながら見ています。
ほんと、竜族の方が番に弱いことが改めて理解出来ましたわ。竜族と番。その力関係が分かった気がします。
「………………分かった。許可しよう。但し、我も立ち合う」
渋々認めてくれました。番強しです。
「お祖父様。お祖母様。ありがとうございます」
私は満面な笑みを浮かべ、勢いよく頭を下げました。
☆☆☆
第四回キャラ文芸大賞にエントリーしてます。
タイトルは【護国神社の隣にある本屋はあやかし書店】です。
少し古い作品ですが、応援宜しく(。•̀ᴗ-)✧
30
お気に入りに追加
7,467
あなたにおすすめの小説
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
【完結】本当の悪役令嬢とは
仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。
甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。
『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も
公爵家の本気というものを。
※HOT最高1位!ありがとうございます!
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。