婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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悪役令嬢と呼ばれましたわ

屑には相応しい終わり方だ

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 …………頭が痛い。ズキズキする……何処かでぶつけたのか……いや、殴られたのか……?

 始めはボンヤリとだが、段々思い出してきた。そうだ。俺は知らない奴らに裏路地に無理矢理連れ込まれて殴られたんだ。そして気付いたらここに……いったい、ここは何処だ?

「気が付いたか、坊主」

 その声に弾かれるように体を起こそうとしたが、出来なかった。当然だ。手足を縛られていたのだから。

「お前ら、俺にこんなことをして許されると思ってるのか!!」

 口を開く度に鋭い痛みが走るが、我慢して怒鳴る。精一杯の虚勢だ。

 男はそんな俺を見て嘲笑った。

「あぁ? いつまで貴族面してんだ。お前、とうに平民にだろ~がよ。知ってるんだぜ。お前、馬鹿やって学園放り出されただろ? ついでに、勘当もされたんだってな」

 それを聞いて、俺は全身の血が沸騰する程の怒りが沸いた。しかし、縛られた体ではどうすることも出来ない。そんな俺を見て、益々男は下卑た視線で俺を見下ろす。

「何も言えねーよな。本当のことだからな。悔しいか? 悔しいよな?」

 わざと挑発してるのか、こいつは。

「俺が何をした? どこに連れて行くつもりだ?」

 薄暗いが、小刻みに伝わる振動から、荷馬車か何かで運ばれているのだと察する。特に声の大きさを気にしていないな。だったら、街を出たか。出来れば、出たところだったらいいんだが。腹は煮えかえる程腹が立ってるが、頭のどこかでは冷静な自分がいた。

 男はご丁寧にも教えてくれる。 

「お前は、これから売られるんだよ。お前みたいな貴族の坊っちゃんは需要があるからな。可愛がってもらえよ。本当は、お前と一緒にいたあの女も一緒に捕まえたかったんだが、途中で巻かれてよ」

 あの女……? エレノアのことか!? 無事逃げたようだな。騙されたとはいえ、ホッと胸を撫でおろす。とことん、悪運がある奴だ。

「人身売買は法律違反だぞ!!」

 今はエレノアのことなどどうでもいい。売られて飼われるなんて真っ平だ。この状況をなんとかしないと。それだけが頭を支配する。

「だからどうした?」

 意にも返さない返答だ。これっぽっちも悪いとは思っていない。とことん、俺を馬鹿にしやがる。男の言い方に切れ掛かったが、必死で我慢した。

「貴族の坊っちゃんには分かんないだろうけどな。スラム出身の平民は、こんなことをしないと生きていけねーんだよ」

 そう吐き捨てたきり、男は口を閉ざした。

 街から遠ざかる荷馬車の中で俺は思う。不思議と恐怖も何も感じない。殴られた場所だけがズキズキと痛むだけだ。

 俺はどこで間違ったんだ……。

 自問自答しても、答えなど返ってこない。それでも俺は問い続ける。

 そうだ。

 俺はずっと、あいつのことが忘れられなかったんだ。嫌われてるって分かってたし、その原因も俺にあるって分かっていた。それでも俺は……

 そんな時だ。母上から留学しないかと声を掛けられた。いい年をして婚約しない俺を見兼ねたからだ。母上は分かっていたんだ。俺が誰を想っていたのか。やっと会えると思った。そして謝って、もう一度始めからやり直そうと思った。

 なのに、来てみたらあいつは居なくて、落ち込んでいた俺にエレノアが話し掛けてきたんだ。

 エレノアは俺が求める言葉をいつも言ってくれた。俺の気持ちを誰よりも分かってくれた。だから俺は、エレノアを側に置いた。あいつのいない穴を埋めるために。

 それからの俺はズルズルだった。もう抜け出せなかった。魅了のせいかもしれない。でも、全部がそうじゃない。ほんと屑だな、俺は。

 自分自身に嘲笑する。そんな俺を男は訝しげに見ていた。

「気でも狂ったか? 何がおかしい?」

 男の声は耳には入らない。嘲笑する声が大きくなるだけだ。

「……屑の最後に相応しい終わり方だよな」

 あいつの蔑む目が忘れられない。当然だよな。俺は屑だ……。

「簡単に諦めるのですね。昔の貴方はそうではなかったと記憶してますが」

 その声はあいつの声とよく似ていた。


 

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