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悪役令嬢と呼ばれましたわ
どこを間違ったの
しおりを挟む「本当にここを下りて行けばいいんだよな?」
地下へと続く螺旋階段を下りながら、マルティスが訊いてきた。
「そうよ。私の言うことに間違いなんてないんだから、安心してよ」
何度も訊いてくるマルティスに、うんざりしながらも愛想よく答えてあげた。だって、途中でほっとかれたら嫌じゃない。こんな薄気味悪い所にさ。まぁ、私をほっとくなんて、まずあり得ないんだけどね。
ほんと、この男ってちょろかったわ。今も、ちょっと微笑んだだけで、鼻の下伸ばしちゃってさ。顔はいいけんだけど、頭は空っぽなのよね。だけど、自分は優秀だって思ってる。勘違い野郎。ほんと笑える~~。で、プライドも滅茶苦茶高いのよ。つくづく残念な男よね。そこそこの地位もあるし、利用するにはもってこいなんだけど、そろそろ潮時かもしれないわね。まぁ、これが上手くいったら、もうお払い箱なんだけどね。
悪いけど、私の推しは昔から、ユリウス様一択なの。私しかユリウス様を幸せに出来ないの。あの偽者じゃない。そもそも、あの薄気味悪い女がユリウス様の隣に立つなんて許せないわ。レイファ様もそう。クラン君も。皆あの偽者に騙されてるのよ。
あの女狡猾だから、皆気付かないのよね。だけど、私は知ってる。あの女がどれほど最低な女か。いくら口で言っても誰も信じてくれない。だけど、私は優しくて強いから、挫けたりはしない。皆を救ってみせるわ。
だって、私はヒロインなんだから!!
私がハマってずっとやってたゲームはシリーズ化されていてね、今取りに行ってるのは、ヒロインが王子様を呪いから救うアイテムなの。これがあれば、ユリウス様の呪いは無くなって、私とユリウス様は幸せになるの。待っててね、ユリウス様。
「……いつまで続くの? この階段」
苛々してきた。もう二十分以上は下り続けてるのに、ゴールが見えないんだけど。
「…………もしかしたら、目くらましの魔法が掛けられてるんじゃないか?」
目くらましの魔法……?
「エレノア……?」
考え込む私を心配して、マルティスが名前を呼ぶ。完無視よ、完無視。
煩い、少しは黙っててくれる。今、思い出しそうなんだから。プレイはしてないけど、攻略本は読んだから攻略の仕方は知ってる。確か……ヒロインの王子様を想う無心の心が、祈りが、魔法を解いた筈。
そうよ!! これは、試練の回だったわ。ヒロインは試されていたのよ。なら、大丈夫。私はユリウス様を愛してるわ。
ユリウス様だけを想いながら、階段を一段一段下りたわ。すると、さっきまでゴールが見えなかったのが嘘のように、ほんの五分程で地下に到着したの。
やっぱり、私ってヒロイン。試練の回、無事突破したん…………だ……よ…ね……。
なのに、目の前にいるのは何なの?
…………どうして?
ここに魔物がいるの?
どうして、口元が赤く染まってるの?
前足で踏んでるのは何なの……? マルティスは? いない? じゃあ、それって……!?
血に染まってるが、見慣れた制服。
さっきまで一緒にいた筈なのにーー。
「う、嘘よ…………い……い、嫌ーーーーーーーー!!!!!!」
どうして、私はヒロインだよね。なのに、何で、こんな目に合わなきゃいけないの?
体が燃えるように熱いよ。感覚がなくなってきたよ。どんどん力が抜けていく。私、死ぬの……こんな形でリセットなんて、バッドエンドもいいところじゃない。ほんと、最低~~。
ねぇ……どこを間違ったの?
「始めからよ」
意識を失う直前、そんな声を聞いた気がした。
納得。そっかぁ……始めからか…………リセットしたら、また始めからやり直さなきゃ………………
「それは無理ね」
意地悪言わないで…………私は……ヒロインな……ん…………だ……か…………ら…………………
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