上 下
40 / 328
学園は勉強するところです

僕は君のことをずっと……

しおりを挟む


「…………八年ぶりだね。ソフィア」

 離れた場所から、とてもとても小さな声で話し掛ける。まるで吐息ぐらいの大きさだ。当然、誰にもその声は届かない。

 遠くからでも、ひと目で君だと分かったよ。

 貴族の進学率は六割と低いけど、特別な力を持つ君ならこの学園に進学してる可能性が高かったからね。だから、父さんに無理を言ってここに進学したんだ。結構大変だったんだよ。入学した今も結構大変だけどね。

 八年ぶりだけど、すごく綺麗になったね、ソフィア。僕は全然変わらないよ。ソフィアがあまりにも綺麗過ぎて、恥ずかしくて顔を出せないよ。元々、君の側に行く気はないけどね。だから安心して。心の中でそう話し掛ける。君には届かないけど。

 君にとって、僕は封印したい過去の異物だと分かってるから。

 誰にも言わない。

 聖女の君が平民だったってことは。それも孤児だったってことはね。墓場まで持って行くよ、必ず。

 そう思ってたのに、君の方から僕に話し掛けてくれたんだ。にっこりと微笑みながら。名前を呼ばれた時は、とてもびっくりしたよ。

「リベル……お願いがあるの。私のこと誰にも話さないで」

 目をうるうるさせながらお願いされた。

「元々、話すつもりはないよ」

「本当に?」

「本当だよ」

「よかった~~」

 安心したように、ニコッと微笑むソフィア。

 君の笑顔は昔と全く変わらないね。昔の僕は、一生懸命その笑顔を守ろうと躍起だった。その気持ちは今も変わらない。絶対に守るよ。

 月日が流れ、君がウィリアム殿下と付き合い出したって聞いた時、とても悲しかったけど、応援しようと心に決めた。

 君のよくない噂を聞きだしたのもこの頃だった。

 貴族って本当に嫌だ。ソフィアを妬んであることないこと勝手に噂して。

「仕方ないよ」

 君は力なく笑う。こんな時も君は笑うんだね。そんな笑顔をこれ以上させたくなくて、僕は君に装飾品を送った。伯爵令嬢になった君にとって、それはとてもちっぽけな物だった筈。それでも、君は嬉しそうに受け取ってくれた。

 そんな心優しい君が、噂されてるような悪女なわけないじゃないか。悪女にあんな笑みが出来るものか。

 僕は絶対に信じない。





 
「リベル」

 中庭を歩いていると名前を呼ばれた。物陰からソフィアが姿を見せる。その隣には、謹慎中のギルバートとルイスが立っていた。

「二人とも大丈夫?」

「俺たちなら平気だ。気にするな」

 ギルバートが力なく笑う。

「リベル。お願いがあるの。ウィリアム殿下をどうしても守りたいの。このままじゃあ、ウィリアム殿下駄目になっちゃう。あんなに優秀で頑張ってきたのに。可哀想だよ」

 ソフィアが涙目で訴えてきた。

 緊急用の魔法具を勝手に使ったせいで、今ウィリアム殿下は謹慎中だ。謹慎が解けても、魔法具の借金を返すための過酷な魔物討伐が待っている。

 正直、僕も可哀想だと思う。

「そうだね」

 そう答える僕の声は暗い。

 ウィリアム殿下が駄目にした魔法具と同じものを作るよう、国王陛下からうちに発注がきていた筈だ。だから、その値段は大体把握していた。

 正直、莫大な値段だ。ウィリアム殿下が一生魔物討伐をしても返せる金額じゃない。

「俺たちがどうこう出来る金額じゃない。いったいどうしたら、ウィリアム殿下を救えるんだ……」

 そう嘆いたのはギルバートだ。

「少しでも減らせたらいいんだけど」

 さすがの僕にもどうにも出来ない。

「だったら、別の者に肩代わりしてもらえばいい」

 そう提案してきたのはルイスだった。

「誰に?」

 思わず尋ねたよ。

「いるじゃないか。今回の件で当事者なのに無傷な人間が」

 ルイスがニヤリと笑う。

「もしかして、あの女か」

「そうだよ、ギルバート。セリア=コンフォートだ。彼女に出して貰えばいい」

「確かに、彼女ならお金は持ってるね」

 なんせ、皇女殿下だから。

「セリア様なら持ってると思うけど……でも、どうやって、お金を出させるの?」

 ソフィアが尋ねる。僕も気になる。

 それは大きな掛けだった。

 下手したら、全員共倒れになる。でも上手くいったら、ウィリアム殿下は助かる。ソフィアも喜ぶ。ギルバートもルイスもだ。

 父さんが言っていたことを思い出す。

 商売人は生涯の中で一度、大きな博打を打つ瞬間があるって。まさに今がそうなんだ。

「分かった。手を貸すよ」

 

 結局、僕は賭けに負けたらしい。

 まさか、こんな結末が待ってるなんて思わなかったよ。友人だと思ってたのにな……。でも不思議なことに、怒りの感情が湧いて来ないんだ。反対に穏やかだよ。何でかな……?


 …………ソフィア

 僕は君のことをずっと……



    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です) アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。 高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。 自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。 魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。 この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる! 外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。

(完結)何か勘違いをしてる婚約者の幼馴染から、婚約解消を言い渡されました

泉花ゆき
恋愛
侯爵令嬢のリオンはいずれ爵位を継ぐために、両親から屋敷を一棟譲り受けて勉強と仕事をしている。 その屋敷には、婿になるはずの婚約者、最低限の使用人……そしてなぜか、婚約者の幼馴染であるドルシーという女性も一緒に住んでいる。 病弱な幼馴染を一人にしておけない……というのが、その理由らしい。 婚約者のリュートは何だかんだ言い訳して仕事をせず、いつも幼馴染といちゃついてばかり。 その日もリオンは山積みの仕事を片付けていたが、いきなりドルシーが部屋に入ってきて…… 婚約解消の果てに、出ていけ? 「ああ……リュート様は何も、あなたに言ってなかったんですね」 ここは私の屋敷ですよ。当主になるのも、この私。 そんなに嫌なら、解消じゃなくて……こっちから、婚約破棄させてもらいます。 ※ゆるゆる設定です 小説・恋愛・HOTランキングで1位ありがとうございます Σ(・ω・ノ)ノ 確認が滞るため感想欄一旦〆ます (っ'-')╮=͟͟͞͞ 一言感想も面白ツッコミもありがとうございました( *´艸`)

離婚しようですって?

宮野 楓
恋愛
十年、結婚生活を続けてきた二人。ある時から旦那が浮気をしている事を知っていた。だが知らぬふりで夫婦として過ごしてきたが、ある日、旦那は告げた。「離婚しよう」

別に構いませんよ、予想通りの婚約破棄ですので。

ララ
恋愛
告げられた婚約破棄に私は淡々と応じる。 だって、全て私の予想通りですもの。

幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。

白雪なこ
恋愛
「婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。」に出てきた、王女殿下視点の話です。親友を害そうとしたアレンが許せないそうで、ものすごーーーく怒ってます。怖いです。可愛いアリアンは出て来ません。アレンのやらかしが凶悪です。前作でのざまあが足りないようなので、家族にも責任をとってもらいました。最後の〆はコメディです。(作品に含まれる要素の異世界転生は前話のヒロイン=ボスのことです) *外部サイトにも掲載しています。

可愛いあの子は。

ましろ
恋愛
本当に好きだった。貴方に相応しい令嬢になる為にずっと努力してきたのにっ…! 第三王子であるディーン様とは政略的な婚約だったけれど、穏やかに少しずつ思いを重ねて来たつもりでした。 一人の転入生の存在がすべてを変えていくとは思わなかったのです…。 (11月5日、タグを少し変更しました) (11月12日、短編から長編に変更しました) ✻ゆるふわ設定です。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

(完)そんなに妹が大事なの?と彼に言おうとしたら・・・

青空一夏
恋愛
デートのたびに、病弱な妹を優先する彼に文句を言おうとしたけれど・・・

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。