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学園は勉強するところです
僕は君のことをずっと……
しおりを挟む「…………八年ぶりだね。ソフィア」
離れた場所から、とてもとても小さな声で話し掛ける。まるで吐息ぐらいの大きさだ。当然、誰にもその声は届かない。
遠くからでも、ひと目で君だと分かったよ。
貴族の進学率は六割と低いけど、特別な力を持つ君ならこの学園に進学してる可能性が高かったからね。だから、父さんに無理を言ってここに進学したんだ。結構大変だったんだよ。入学した今も結構大変だけどね。
八年ぶりだけど、すごく綺麗になったね、ソフィア。僕は全然変わらないよ。ソフィアがあまりにも綺麗過ぎて、恥ずかしくて顔を出せないよ。元々、君の側に行く気はないけどね。だから安心して。心の中でそう話し掛ける。君には届かないけど。
君にとって、僕は封印したい過去の異物だと分かってるから。
誰にも言わない。
聖女の君が平民だったってことは。それも孤児だったってことはね。墓場まで持って行くよ、必ず。
そう思ってたのに、君の方から僕に話し掛けてくれたんだ。にっこりと微笑みながら。名前を呼ばれた時は、とてもびっくりしたよ。
「リベル……お願いがあるの。私のこと誰にも話さないで」
目をうるうるさせながらお願いされた。
「元々、話すつもりはないよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「よかった~~」
安心したように、ニコッと微笑むソフィア。
君の笑顔は昔と全く変わらないね。昔の僕は、一生懸命その笑顔を守ろうと躍起だった。その気持ちは今も変わらない。絶対に守るよ。
月日が流れ、君がウィリアム殿下と付き合い出したって聞いた時、とても悲しかったけど、応援しようと心に決めた。
君のよくない噂を聞きだしたのもこの頃だった。
貴族って本当に嫌だ。ソフィアを妬んであることないこと勝手に噂して。
「仕方ないよ」
君は力なく笑う。こんな時も君は笑うんだね。そんな笑顔をこれ以上させたくなくて、僕は君に装飾品を送った。伯爵令嬢になった君にとって、それはとてもちっぽけな物だった筈。それでも、君は嬉しそうに受け取ってくれた。
そんな心優しい君が、噂されてるような悪女なわけないじゃないか。悪女にあんな笑みが出来るものか。
僕は絶対に信じない。
「リベル」
中庭を歩いていると名前を呼ばれた。物陰からソフィアが姿を見せる。その隣には、謹慎中のギルバートとルイスが立っていた。
「二人とも大丈夫?」
「俺たちなら平気だ。気にするな」
ギルバートが力なく笑う。
「リベル。お願いがあるの。ウィリアム殿下をどうしても守りたいの。このままじゃあ、ウィリアム殿下駄目になっちゃう。あんなに優秀で頑張ってきたのに。可哀想だよ」
ソフィアが涙目で訴えてきた。
緊急用の魔法具を勝手に使ったせいで、今ウィリアム殿下は謹慎中だ。謹慎が解けても、魔法具の借金を返すための過酷な魔物討伐が待っている。
正直、僕も可哀想だと思う。
「そうだね」
そう答える僕の声は暗い。
ウィリアム殿下が駄目にした魔法具と同じものを作るよう、国王陛下からうちに発注がきていた筈だ。だから、その値段は大体把握していた。
正直、莫大な値段だ。ウィリアム殿下が一生魔物討伐をしても返せる金額じゃない。
「俺たちがどうこう出来る金額じゃない。いったいどうしたら、ウィリアム殿下を救えるんだ……」
そう嘆いたのはギルバートだ。
「少しでも減らせたらいいんだけど」
さすがの僕にもどうにも出来ない。
「だったら、別の者に肩代わりしてもらえばいい」
そう提案してきたのはルイスだった。
「誰に?」
思わず尋ねたよ。
「いるじゃないか。今回の件で当事者なのに無傷な人間が」
ルイスがニヤリと笑う。
「もしかして、あの女か」
「そうだよ、ギルバート。セリア=コンフォートだ。彼女に出して貰えばいい」
「確かに、彼女ならお金は持ってるね」
なんせ、皇女殿下だから。
「セリア様なら持ってると思うけど……でも、どうやって、お金を出させるの?」
ソフィアが尋ねる。僕も気になる。
それは大きな掛けだった。
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父さんが言っていたことを思い出す。
商売人は生涯の中で一度、大きな博打を打つ瞬間があるって。まさに今がそうなんだ。
「分かった。手を貸すよ」
結局、僕は賭けに負けたらしい。
まさか、こんな結末が待ってるなんて思わなかったよ。友人だと思ってたのにな……。でも不思議なことに、怒りの感情が湧いて来ないんだ。反対に穏やかだよ。何でかな……?
…………ソフィア
僕は君のことをずっと……
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