上 下
40 / 331
学園は勉強するところです

僕は君のことをずっと……

しおりを挟む


「…………八年ぶりだね。ソフィア」

 離れた場所から、とてもとても小さな声で話し掛ける。まるで吐息ぐらいの大きさだ。当然、誰にもその声は届かない。

 遠くからでも、ひと目で君だと分かったよ。

 貴族の進学率は六割と低いけど、特別な力を持つ君ならこの学園に進学してる可能性が高かったからね。だから、父さんに無理を言ってここに進学したんだ。結構大変だったんだよ。入学した今も結構大変だけどね。

 八年ぶりだけど、すごく綺麗になったね、ソフィア。僕は全然変わらないよ。ソフィアがあまりにも綺麗過ぎて、恥ずかしくて顔を出せないよ。元々、君の側に行く気はないけどね。だから安心して。心の中でそう話し掛ける。君には届かないけど。

 君にとって、僕は封印したい過去の異物だと分かってるから。

 誰にも言わない。

 聖女の君が平民だったってことは。それも孤児だったってことはね。墓場まで持って行くよ、必ず。

 そう思ってたのに、君の方から僕に話し掛けてくれたんだ。にっこりと微笑みながら。名前を呼ばれた時は、とてもびっくりしたよ。

「リベル……お願いがあるの。私のこと誰にも話さないで」

 目をうるうるさせながらお願いされた。

「元々、話すつもりはないよ」

「本当に?」

「本当だよ」

「よかった~~」

 安心したように、ニコッと微笑むソフィア。

 君の笑顔は昔と全く変わらないね。昔の僕は、一生懸命その笑顔を守ろうと躍起だった。その気持ちは今も変わらない。絶対に守るよ。

 月日が流れ、君がウィリアム殿下と付き合い出したって聞いた時、とても悲しかったけど、応援しようと心に決めた。

 君のよくない噂を聞きだしたのもこの頃だった。

 貴族って本当に嫌だ。ソフィアを妬んであることないこと勝手に噂して。

「仕方ないよ」

 君は力なく笑う。こんな時も君は笑うんだね。そんな笑顔をこれ以上させたくなくて、僕は君に装飾品を送った。伯爵令嬢になった君にとって、それはとてもちっぽけな物だった筈。それでも、君は嬉しそうに受け取ってくれた。

 そんな心優しい君が、噂されてるような悪女なわけないじゃないか。悪女にあんな笑みが出来るものか。

 僕は絶対に信じない。





 
「リベル」

 中庭を歩いていると名前を呼ばれた。物陰からソフィアが姿を見せる。その隣には、謹慎中のギルバートとルイスが立っていた。

「二人とも大丈夫?」

「俺たちなら平気だ。気にするな」

 ギルバートが力なく笑う。

「リベル。お願いがあるの。ウィリアム殿下をどうしても守りたいの。このままじゃあ、ウィリアム殿下駄目になっちゃう。あんなに優秀で頑張ってきたのに。可哀想だよ」

 ソフィアが涙目で訴えてきた。

 緊急用の魔法具を勝手に使ったせいで、今ウィリアム殿下は謹慎中だ。謹慎が解けても、魔法具の借金を返すための過酷な魔物討伐が待っている。

 正直、僕も可哀想だと思う。

「そうだね」

 そう答える僕の声は暗い。

 ウィリアム殿下が駄目にした魔法具と同じものを作るよう、国王陛下からうちに発注がきていた筈だ。だから、その値段は大体把握していた。

 正直、莫大な値段だ。ウィリアム殿下が一生魔物討伐をしても返せる金額じゃない。

「俺たちがどうこう出来る金額じゃない。いったいどうしたら、ウィリアム殿下を救えるんだ……」

 そう嘆いたのはギルバートだ。

「少しでも減らせたらいいんだけど」

 さすがの僕にもどうにも出来ない。

「だったら、別の者に肩代わりしてもらえばいい」

 そう提案してきたのはルイスだった。

「誰に?」

 思わず尋ねたよ。

「いるじゃないか。今回の件で当事者なのに無傷な人間が」

 ルイスがニヤリと笑う。

「もしかして、あの女か」

「そうだよ、ギルバート。セリア=コンフォートだ。彼女に出して貰えばいい」

「確かに、彼女ならお金は持ってるね」

 なんせ、皇女殿下だから。

「セリア様なら持ってると思うけど……でも、どうやって、お金を出させるの?」

 ソフィアが尋ねる。僕も気になる。

 それは大きな掛けだった。

 下手したら、全員共倒れになる。でも上手くいったら、ウィリアム殿下は助かる。ソフィアも喜ぶ。ギルバートもルイスもだ。

 父さんが言っていたことを思い出す。

 商売人は生涯の中で一度、大きな博打を打つ瞬間があるって。まさに今がそうなんだ。

「分かった。手を貸すよ」

 

 結局、僕は賭けに負けたらしい。

 まさか、こんな結末が待ってるなんて思わなかったよ。友人だと思ってたのにな……。でも不思議なことに、怒りの感情が湧いて来ないんだ。反対に穏やかだよ。何でかな……?


 …………ソフィア

 僕は君のことをずっと……



    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。