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学園は勉強するところです
私が全部奪ってやるわ
しおりを挟む目の上のタンコブだったあの女が学園からいなくなったわ。一緒にいた、あの目付きが悪い女と一緒にね。
前から気に食わなかったのよ、あの二人。特に黒髪の方は大嫌いだった。だって、新入生のくせに、聖女である私より目立つなんておかしいじゃない。まぁ、顔はそれなりかもしれないけど。あの無表情、不気味だわ。だから、男に捨てられるのよ。
ここだけの話、こんなに簡単にいくなんて正直思ってもなかったわ。ちょっと、拍子抜けもいいところよね。でも上手くいって良かったわ。
あの女がいなくなったのは嬉しいわよ。とてもね。
だけどね。思い出すだけで腹が立つの!! ウィル様のためとはいえ、あの女が正妃で聖女である私が側妃。行く行くは、私が正妃になれるとしてもあり得ないわ。ウィル様の手前賛成したけどね。
いくら皇女っていっても、この国より小国でしょ。ましてや、何十年前かに滅び掛けた国でしょ。その上、格下の男から婚約破棄された傷物でしょ。そんな女の下ってあり得ないわ。おかしいでしょ。
ところで、噂で聞いたけど、あの女、退学届けじゃなくて休学届けを出したんだって。信じられない。戻って来る気なの? ほんと、どこまでも厚かましい女。帰って来ても、あんたの居場所なんて何処にもないのに。私が全部奪ってやるわ。
おとなしく、私とウィル様の幸せのために金だけ出してればいいのよ。
二人がいなくなって、S組の生徒もいなくなったって聞いたわ。三学年ほぼ全員だって。アルベルト様の婚約者のマリアナって女は残ってるらしいけど。
皆不安がってるけど、S組の人間がろくに学園に来ていないのは知ってるでしょ。ちょっと人数が多いだけじゃない。大袈裟よね。だけど、そんな不安を取り去ってあげるのも、聖女としての私の仕事よね。後で、それとなく皆に流して貰おうっと。
セリアとリーファが魔物討伐に失敗して逃した魔物が、アルベルト王太子殿下を襲ったらしいってーー。
クスクス。あの女の来る日が楽しみ。早速皆にお願いしよう。会う約束してるし。
待ち合わせ場所に行ってみると、既に何人か集まってたわ。実はこの場所、ウィル様に教えてもらったの。
「これで、ウィリアム殿下は多額の借金から開放されるわ」
安心したように、そして嬉しそうに、微笑みながら皆に言ったの。
すると、直ぐにマリアナ様の義弟ルイス様が同意してくれたわ。ルイス様って少し気難しいところがあるけど、理知的で格好良いの。中性的な魅力がある方よ。
「元々、あの女のせいで出来た借金だ。あの女が払うのが筋だろ」
「ああ。ルイスの言う通りだな。格下の奴から婚約破棄された不良品のくせに、ウィリアム殿下の申し出を断るなんてどうかしてる。ましてや、足を引っ張るなんて、とんでもない奴だ。絶対に許せない。当然の報いだ」
怒りを顕にしているのは、騎士団長の三男ギルバード様。とても強いのよ。ルイス様と正反対でワイルドな魅力を持っているの。でも、とても優しいの。大型犬みたいな方ね。
「それにしても、よくこんな場所を見付けたよな、ソフィア」
ルイス様が感心したように呟く。
校舎の外れ。人気が無い中庭。ウィル様に教えてもらった場所よ。
「でしょう、ルイス様。偶然だったの。セリア様に睨まれて悲しくて、怖くて、思わず逃げ出した時に見付けたの」
辛そうな仕草をするだけで、ルイス様とギルバート様は慰めるように寄り添ってくれたわ。男って、ほんと単純よね。ころっと騙されるんだから。でも、そこがすっごく可愛いの。後一人いるんだけど、遅いわね。何かあったのかな。あっ、来た来た。
「どうしたの? リベル。顔色が悪いわ」
いつもと違って、どこか落ち着きがないわ。もしかしてバレたの。だったら、一人じゃないわよね。
「……聞いて驚くなよ。国境が封鎖された」
「「「はぁ!?」」」
どういう事なの?
「あの女、同盟の破棄を突き付けやがった!!」
苦々しく吐き捨てるリベルの言葉が、一瞬、頭に入って来なかったわ。
「…………えっ……ちょっと待って。国境が封鎖されたって。同盟の破棄って……そんな馬鹿なことあるわけないじゃない。あの女は加害者なのよ。襲撃犯なのよ!!!!」
それが現実なら、これからどうやってドレスや宝石を手に入れればいいのよ!?
思わず叫んじゃったじゃないの。それは私だけじゃなかったわ。ルイスもギルバートもだった。当然よね。
だってそうでしょ。破棄ってことは、全面的に戦うってことよね。生意気だわ。小国が大国相手に戦いを挑もうっていうの? それとも、絶対に勝てる自信でもあるの?
私たちか仕組んだことバレてないよね。リベルがここにいるのは、まだバレてないからだよね。だったら、念の為にここでリベルを切り捨てた方がいいのかな? でもそうなると、最新のドレスや宝石が手に入りにくくなるわ。
「ソフィア、大丈夫だよ。僕とギルバートが守ってあげる。後ろに下がってて」
ルイス様がそう告げた瞬間、目の前にいたリベルの体が崩れるように地面に倒れ込んだ。リベルの背中に広がる赤い染み。
「ルイス!!!!」
ギルバートが叫ぶ。
「…………ど……う…して?」
リベルの目が私たちを見据える。その目に、私は言葉を失ったの。
「ソフィアやウィリアム殿下を守るためだよ。リベル悪いな」
そうルイスが冷たく笑いながら言い放った時だったの。静かだった中庭に怒号が響いたのは。
…………嘘でしょ……嘘だよね。
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