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聖国の大神官長様、今度は遊びに来る

05 だから腹黒なのよ

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 ユーリ様のたっての希望で、ベルケイド王国で一番美味しい魔物肉専門店に来ていた。

 そして、今現在、注目の的になってます。容姿じゃなくて、違う意味で。

 朝から魔物肉って……ユーリ様にとって、なかなかヘビーだと考えた私が馬鹿だったわ。半ば呆然としないながら、向かいに座るユーリ様を見ていた。

 ちょっと待って。凄い勢いで、皿が空になっていくんだけど。同時に山積みになっていく。マジで、食べるスピード、イシリス様と同じじゃない。

 本体が巨体のフェンリル様対人族。

 普通なら、イシリス様には遠く及ばないはずなのに、それができるってことは、

「…………ユーリ様って、人間辞めましたの?」

 思わず、ポツリと出てしまったわ。片足どころか、両足とも出てしまったのね。

「人聞きの悪いことを言わないでくれます。これぐらい、普通でしょう。ミネリア様は少食過ぎるのです」

「ユーリの言う通りだ。ミネリアは少食過ぎる」

 イシリス様も参戦してきた。

 一緒にしないでほしい。

 それにしても、すっごい勢いで空になっていくのに、流暢に喋れるものね。もうこれ、一つの特技じゃない。

「いや、私が普通ですから。異常なのは、ユーリ様です。ユーリ様のお腹、マジックバックですか!?」

 どこに消えてるのよ!?

「魔力を消費すると、お腹が空くのです」

 あっ、それ聞いたことがある。確か、食事で補うパターンと睡眠で補うパターンがあるって。

「ユーリ様って、食事で補うのですね」

 ユーリ様は小さく頷く。

 ……ん?
 
 そんなになるまで、いつ魔力を使ったの? まっ、まさか!!

「……ユーリ様、あの魔法具を使用したからですか?」

 それしか思い浮かばない。

 品物が品物だけに、つい、小声で訊いてしまったわ。

「ええ、かなり燃費が悪くて」

 マジか。しれっと肯定しないでよ。聖国のトップが魔力切れに近い状態になるって、どんだけ魔力を吸い取るのよ!? 燃費が悪いどころじゃないよね。一般人、いや、国所属の魔術師が誤って使ったら、魔力、生命力、全て吸い取られて、干からびて死んじゃう品物だよね!!

 ユーリ様らしいといえばらしいけど。そんな危ない物を、何も言わずに渡すなんて……私、はやまったかも。

 食事中なのに、大きな溜め息を吐いてしまう。

「……そのような危険な物、渡さないでくれます」

 できるなら、即刻、返したいわ。

「その点は、問題ありません。私にしか使用できないように設定していますから」

 だとしても、返したい。

 私が考えていることなんて、ユーリ様にはお見通し。食事の手を止め、天使のような容姿を有効に使い「友人に会いたくて……我儘ですよね」と、声を震わせ呟く。

 ざわつく店内。

 これ、否定できない流れよね。完全に私、悪者じゃない。やられたわ……だから、腹黒なのよ。

「……返しませんから、安心してください」

 そう言うしかないよね。

「ありがとうございます」

 ユーリ様はニコッと微笑むと、また、美味しそうに食べ始める。

 その姿を見て、誰も気付かれないように、私は小さな溜め息を吐いた。


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