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聖国の大神官長様がやって来た
04 出発したのだけど
しおりを挟むいつものスピードより、かなり遅いペースで私たちはマントの町へと向かっている。
のろのろ過ぎて欠伸が出そう。
まぁ仕方ないよね。武道集団である私たちのスピードに、素人が付いて来れるわけがないからね。馬車自体も機能性よりも、乗り心地を優先したものだしね。
大神官長様は数人の付き人と一緒に馬車に乗っている。
一緒に乗らないかって誘われたけど、間髪入れずに断ったわ。あの女と同じ馬車なんて、どんな拷問よ。気まずいったらありゃしない。断った瞬間、付き人たちが殺気立ったけどね。構うもんか。
それに、どんな豪華な馬車よりも、イシリス様の背中に勝るものはないからね。
「ミネリアは本当に、あの大神官が苦手なんだな」
苦笑しながらイシリス様は言った。
あえて、嫌いではなく苦手って言ってるところ、ほんと、イシリス様はよく見ているわね。
「苦手ですわ。あの虫を殺さないような笑顔の下で、ものすごく腹黒なことを考えているのですから」
神に使える者ばかりいる聖国だからって、薄汚いものがないわけじゃない。人が集まれば、それなりにいざこざがあるし、そこに権力が加われば、そのいざこざは抗争へと容貌を変える。
それはそれはエゲツないまでにね。
「ミネリアは大神官の本音を間近で聞いたからしょうがないか」
前大神官長様と代替わりをする時にね。
年がいっても、トップの座にしがみつこうとする前大神官長がいてね、自分の保身のために私を後ろ盾にしたくて、何度もコンタクトをとってきたんだよね。
ちょうど、イシリス様の番になったばっかりの時期だったかな。
番に甘いイシリス様の力を利用しようとしたのよ。
そんなこと、幼い私でも簡単に理解できたし、正直、超~腹が立った。許せなかった。でも、私には何もできない。今でも悔しいわよ。唯一できたのが、対立相手に、その事実を証拠とともに持って行くことだけだった。
その時に、初めて私はあの女の腹黒さを知ることになったの。ニコッと天使の笑顔を浮かべながら、自分の付き人たちにエゲツない指示を次々と出してたからね。子供ながらに引いたわ……見た目対して変わらないのにね。
前大神官長がどうなったかは、語るまでもないよね。
まぁ以前から、どことなく違和感があったんだけどね、あの女に。表面温度と内面温度が違う感じがしてたのよ。
「間近で見なくても、同じような反応をしましたわ」
「そうか?」
イシリス様の問に、私は小さく頷く。
「たまに、目が笑ってませんもの」
凍るような目をしている。感情が全くないような。
「それがわかるのって、ミネリアぐらいだな」
「そうでしょうね。その顔面に、皆目を眩ませていますもの」
私は眩ませてないけどね。
「……だから、気に入られてるんだろ」
イシリス様が小さな声でボソッと呟く。
どういう意味かと尋ねようとしたら、イシリス様は足を止めた。
「また、休憩ですか……」
ニ時間前に休憩したばかりなのに。もう、溜め息しか出ないわ。
いつになったら、マントの町に着くのかしら。
思わず口にしそうになった言葉を、私は飲み込んだ。
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