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聖国の大神官長様がやって来た
03 味方がいてよかったわ
しおりを挟む大神官長様の意向で、マントの町に赴く日の早朝。
私はイシリス様と一緒に、集合場所にやって来た。今回もジュリアを連れて行く。リアスはお留守番を頼んだ。とても不満そうだったけどね。向き不向きがあるでしょ。代わりに、ベルケイド王国に残った聖国の者たちの相手を頼んだわ。リアスなら上手くやってくれる。適材適所ってやつね。
聖騎士たちがいる中で、少年のクルトはかなり目立っていた。小さいからね。
へぇ~ちょっと見ない間に、一段と良い面構えになってきたじゃない。
久し振りにクルトを見て、私は感慨深い面持ちになった。
あの時の、甘ちゃんがね~~。
信念を持つと、こうも変わるなんて驚きだわ。いっちょ前に騎士の顔をしてるわ。
「俺が傍にいるのに、他の男のことを考えるな」
クルトを見ていると、不機嫌な声が隣からした。と同時に、イシリス様に腰を抱き寄せられる。そして、こめかみに軽いキス。
反対側には、大神官長様とラリーお兄様がいるのにお構いなし。後ろには大神官長様の付き人たちもいるのよ。
ラリーお兄様はこんなやり取り慣れているから平然としてるけど、大神官長様たちには生温かい目で見られたわ。顔を赤らめる付き人もいたしね。腹黒女は顔を赤らめることなく、クスクスと笑っていたわ。
すっごく、恥ずかしい。それでいて、カチンときた。相手は大神官長様にだけど。
もがけば、さらにイシリス様の腕に力が入る。悪循環。
ほんと、人前では止めてほしいわ。
普段からよくされてる行為だからといっても、この距離感、さすがの私も平常心を保てない。照れれば照れるほど顔が真っ赤になるから、なおのこと、皆に生温かい目でみられることになるし、大神官長様のクスクス笑いが続く。
居た堪れない私を無視して、イシリス様は私の腰を抱き締めたまま。
こうなった時のイシリス様って、頑固なんだよね……ヤキモチを焼く要素がいったいどこにあったのよ。そう言っても無視されて、さらに機嫌が悪くなるに決まってるから言わないけど。私も学習するのよ。
それにしても、慣れてる。流れるような動きって、このことを言うのよね。回避することも逃げることもできなかったわ。
モヤッとしながら感心している場合じゃない。しっかりホールドされてるけど、口は自由に動く。なので抗議する。
「人前でお止めてください!! イシリス様!!」
「ミネリアが俺の前で、他の男を誉めるからだ」
イシリス様は顔をさらに近付けながら言ってきた。
「近いですわ!! 他の男っていっても、クルトじゃないですか!?」
子供相手に何張り合ってるのよ。そんなに私って信用ないの?
「少年でも男だ」
「その理論なら、赤ちゃんも幼児も対象になりますよね!?」
ムカムカ度が増してきたわ。今度はイシリス様にだけど。
「そうだな。赤子や幼児もそうだが、動物であろうとも、雄がミネリアに近付くのは非常に不快だ」
言い切らましたよ、この人は。非常にって……
顔面偏差値が振り切れるほど高くて聖獣様だけど、言ってることはアブノーマル。……自覚ないよね。これ、普通の一般人が言ったら完全にアウトだからね。本体が獣だったとしてもね。
とはいえ、少し、キュンときた私も大概アブノーマルだと思うけど。それを表には出さない。
私は深く溜め息を吐いた後言った。
「……そうですか。イシリス様の気持ちは理解しましたが、私は素直に従うつもりはありませんわ」
これでも王女なのよ。そんなことできるわけないでしょ。完全に監禁でもされない限り。
「だろうな。ならば、捕まえて目を光らせればいいだけのことだ」
この台詞に、大神官長様の付き人たちは顔を赤らめ落ちたみたいだけど、私と大神官長様はなんとも言えない顔をしていた。ラリーお兄様は苦笑い。
腹黒女だけど、味方がいてよかったわ。
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