上 下
60 / 78
聖国の大神官長様がやって来た

03 味方がいてよかったわ

しおりを挟む


 大神官長様の意向で、マントの町に赴く日の早朝。

 私はイシリス様と一緒に、集合場所にやって来た。今回もジュリアを連れて行く。リアスはお留守番を頼んだ。とても不満そうだったけどね。向き不向きがあるでしょ。代わりに、ベルケイド王国に残った聖国の者たちの相手を頼んだわ。リアスなら上手くやってくれる。適材適所ってやつね。

 聖騎士たちがいる中で、少年のクルトはかなり目立っていた。小さいからね。

 へぇ~ちょっと見ない間に、一段と良い面構えになってきたじゃない。

 久し振りにクルトを見て、私は感慨深い面持ちになった。

 あの時の、甘ちゃんがね~~。

 信念を持つと、こうも変わるなんて驚きだわ。いっちょ前に騎士の顔をしてるわ。

「俺が傍にいるのに、他の男のことを考えるな」

 クルトを見ていると、不機嫌な声が隣からした。と同時に、イシリス様に腰を抱き寄せられる。そして、こめかみに軽いキス。

 反対側には、大神官長様とラリーお兄様がいるのにお構いなし。後ろには大神官長様の付き人たちもいるのよ。

 ラリーお兄様はこんなやり取り慣れているから平然としてるけど、大神官長様たちには生温かい目で見られたわ。顔を赤らめる付き人もいたしね。腹黒女は顔を赤らめることなく、クスクスと笑っていたわ。

 すっごく、恥ずかしい。それでいて、カチンときた。相手は大神官長様にだけど。

 もがけば、さらにイシリス様の腕に力が入る。悪循環。

 ほんと、人前では止めてほしいわ。

 普段からよくされてる行為だからといっても、この距離感、さすがの私も平常心を保てない。照れれば照れるほど顔が真っ赤になるから、なおのこと、皆に生温かい目でみられることになるし、大神官長様のクスクス笑いが続く。

 居た堪れない私を無視して、イシリス様は私の腰を抱き締めたまま。

 こうなった時のイシリス様って、頑固なんだよね……ヤキモチを焼く要素がいったいどこにあったのよ。そう言っても無視されて、さらに機嫌が悪くなるに決まってるから言わないけど。私も学習するのよ。

 それにしても、慣れてる。流れるような動きって、このことを言うのよね。回避することも逃げることもできなかったわ。

 モヤッとしながら感心している場合じゃない。しっかりホールドされてるけど、口は自由に動く。なので抗議する。

「人前でお止めてください!! イシリス様!!」

「ミネリアが俺の前で、他の男を誉めるからだ」

 イシリス様は顔をさらに近付けながら言ってきた。

「近いですわ!! 他の男っていっても、クルトじゃないですか!?」

 子供相手に何張り合ってるのよ。そんなに私って信用ないの?

「少年でも男だ」

「その理論なら、赤ちゃんも幼児も対象になりますよね!?」

 ムカムカ度が増してきたわ。今度はイシリス様にだけど。

「そうだな。赤子や幼児もそうだが、動物であろうとも、雄がミネリアに近付くのは非常に不快だ」

 言い切らましたよ、この人は。非常にって……

 顔面偏差値が振り切れるほど高くて聖獣様だけど、言ってることはアブノーマル。……自覚ないよね。これ、普通の一般人が言ったら完全にアウトだからね。本体が獣だったとしてもね。

 とはいえ、少し、キュンときた私も大概アブノーマルだと思うけど。それを表には出さない。

 私は深く溜め息を吐いた後言った。

「……そうですか。イシリス様の気持ちは理解しましたが、私は素直に従うつもりはありませんわ」

 これでも王女なのよ。そんなことできるわけないでしょ。完全に監禁でもされない限り。

「だろうな。ならば、捕まえて目を光らせればいいだけのことだ」

 この台詞に、大神官長様の付き人たちは顔を赤らめ落ちたみたいだけど、私と大神官長様はなんとも言えない顔をしていた。ラリーお兄様は苦笑い。

 腹黒女だけど、味方がいてよかったわ。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

私の幼馴染の方がすごいんですが…。〜虐められた私を溺愛する3人の復讐劇〜

めろめろす
恋愛
片田舎から村を救うために都会の学校にやってきたエールカ・モキュル。国のエリートたちが集う学校で、エールカは学校のエリートたちに目を付けられる。見た目が整っている王子たちに自分達の美貌や魔法の腕を自慢されるもの 「いや、私の幼馴染の方がすごいので…。」 と本音をポロリ。  その日から片田舎にそんな人たちがいるものかと馬鹿にされ嘘つきよばわりされいじめが始まってしまう。 その後、問題を起こし退学処分となったエールカを迎えにきたのは、とんでもない美形の男で…。 「俺たちの幼馴染がお世話になったようで?」 幼馴染たちの復讐が始まる。 カクヨムにも掲載中。 HOTランキング10位ありがとうございます(9/10)

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】婚約を信じた結果が処刑でした。二度目はもう騙されません!

入魚ひえん
恋愛
伯爵家の跡継ぎとして養女になったリシェラ。それなのに義妹が生まれたからと冷遇を受け続け、成人した誕生日に追い出されることになった。 そのとき幼なじみの王子から婚約を申し込まれるが、彼に無実の罪を着せられて処刑されてしまう。 目覚めたリシェラは、なぜか三年前のあの誕生日に時間が巻き戻っていた。以前は騙されてしまったが、二度目は決して間違えない。 「しっかりお返ししますから!」 リシェラは順調に準備を進めると、隣国で暮らすために旅立つ。 予定が狂いだした義父や王子はリシェラを逃したことを後悔し、必死に追うが……。 一方、義妹が憧れる次期辺境伯セレイブは冷淡で有名だが、とある理由からリシェラを探し求めて伯爵領に滞在していた。 ◇◇◇ 設定はゆるあまです。完結しました。お気軽にどうぞ~。 ◆第17回恋愛小説大賞◆奨励賞受賞◆ ◆24/2/8◆HOT女性向けランキング3位◆ いつもありがとうございます!

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

処理中です...