上 下
58 / 78
聖国の大神官長様がやって来た

01 面倒くさいことになったわね

しおりを挟む


 お墓参りから帰って三週間後。

 お父様と先王、今は現国王に返り咲いたエンドキサン国王との会談が、密かに執り行われた。

 謝罪と話し合いの末、ベルケイド王国はエンドキサン王国との同盟は結ばなかった。

 その代わり、結界を解くことで決着したわ。これで、最低限の流通は互いに可能になる。それとは別に、賠償金もかなりの額を貰ったの。当然、当事者であるリアスにも渡した。当初、リアスは受け取るのを拒んだけどね。

 あまり、政治的な掛け引きは得意じゃないけど、正直、いいところで落ち着いたと思うわ。腹を探りながらの馴れ合いは嫌だからね。あっ、でも、それが政治だよね。となると、私には無理かな。だって、気抜けないじゃない。程々の距離感がいいんだよ。

 それは、私とあいつの関係も同じ。

 できれば近付きたくないし、馴れ合いたくもない。

 なのに、あいつは私に絡んでくるの。離れても距離を詰めてくるのよ。暇があればね。悪意ない笑顔を振りまき、周囲を味方に付けながらぐいぐいと。現に今も、あいつはやって来て、私の前に立って微笑んでいる。

「……このような辺鄙な場所に、足をお運びいただきありがとうございます、聖国大神官長様」

 こいつに笑顔は見せたくないけど、後々面倒くさいので、愛想笑いをして無難な挨拶をする。名前は絶対呼ばない。ささやかな抵抗ってやつね。

「聖獣様もミネリア様も、とてもお忙しいようなので、、私自身が足を運びました。お変わりなく、お元気そうでよかった。安心しました」

 わざわざってところに、こいつの底意地の悪さがでてると思わない? 忙しいのを理由に、聖国行きを断ったのを根に持ってるわね。

「それは、ありがとうございます、聖国大神官長様。貴女様もお変わりなくてよかったですわ」

 軽くジョブをいれる。

「友に心配されるのは、嬉しいですね」

 ニコッと微笑む、聖国大神官長様。
  
 うっ!! カウンターいれてきたわ、こいつ。いっせいに鳥肌が立ったわよ。何が、友よ。これっぽっちも思ってないくせに。そもそも、友人にはなりたくないわよ。って、言葉に出せたらいいけど、言えないのが現実。この女に仕えている人間の圧が強過ぎるからね。マジで怖いから。

 聖国は創世神様と聖獣様を奉ってる宗教国。

 国民は神官とシスターしかいない。

 国自体はベルケイドより小さいけど、その影響力は半端ないわ。大国であるエンドキサン王国よりもはるかにあるわね。

 ましてや、聖国の大神官となれば、どの国にでも入国可だし発言権もある。さらに大神官長となれば、どの国も来て欲しくてたまらない。その点でいえば、イシリス様とある意味同じよね。まぁ実際、イシリス様の次に有名な人だし。

 少し話がそれたけど、この女に仕えてる人間は皆、この女を心酔している奴ばかりってこと。

 カリスマはあるのは理解してるけど、どこがいいのかさっぱりわからない。底意地悪いし、天使の笑顔の下で腹黒いことを平気で考えている。この年で、大神官長を任されてるんだから、そうでなくてはやっていけないんだろうけど。私から見れば、こんな癖のある女をね……って、思っている。

「友と呼んでいただけて嬉しいですわ。それで、滞在はいつまでですか?」

 思ってもいないことを口にする。

 さっさと帰れ。

「しばらく、滞在させてもらいます。天罰がくだった元王国も気になりますので」

 にこにこしながら答える、聖国大神官長様。私が内心、帰れって言ってることぐらい伝わってるはずなのに。

 とはいえ、そう言われると、こちら側は強くは出られない。こんな腹黒でも聖国の大神官長様だからね。

 ほんと、面倒くさいことになったわ……。

 
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?

日々埋没。
恋愛
 公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。    ※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。  またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。

妹に全てを奪われた私、実は周りから溺愛されていました

日々埋没。
恋愛
「すまないが僕は真実の愛に目覚めたんだ。ああげに愛しきは君の妹ただ一人だけなのさ」  公爵令嬢の主人公とその婚約者であるこの国の第一王子は、なんでも欲しがる妹によって関係を引き裂かれてしまう。  それだけでは飽き足らず、妹は王家主催の晩餐会で婚約破棄された姉を大勢の前で笑いものにさせようと計画するが、彼女は自分がそれまで周囲の人間から甘やかされていた本当の意味を知らなかった。  そして実はそれまで虐げられていた主人公こそがみんなから溺愛されており、晩餐会の現場で真実を知らされて立場が逆転した主人公は性格も見た目も醜い妹に決別を告げる――。  ※本作は過去に公開したことのある短編に修正を加えたものです。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

処理中です...