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成り立てほやほや王女殿下の初外交

22 どう見ても食う気満々でしょ

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 無言のまま、私とイシリス様、そしてジュリアは森の奥へと迷うことなく進む。

 元々、ジュリアはあまり喋らないし、私もそれほどお喋りじゃない。空気を読んで、自分から話し掛けることもあるけど、本来は無口な方だと思う。黙々と作業しているのが好きだしね。研究してる方が幸せ。

「そろそろ、休みましょう」

 イシリス様の眷属の一頭に跨がり、先を進むジュリアが振り返り声を掛けてきた。

「そうね。予定より早く着いたわね」

 これといって、凶暴な魔物は出てこなかったから、予定より早くに休憩場所に着くわね。この先に、拓けた場所があるの。毎年、私たちはそこを休憩場所の一つにしていた。

 ジュリアが声を掛けてきてから数分後、私たちは休憩場所に到着した。

 シートを敷き、休憩の準備をする。当然、私も手伝うわよ。だって今は、王女じゃないもの。ジュリアの親友としてここにいるんだから。

 ジュリアは手際よくお茶と軽食の準備をする。器用に水魔法でポットを満たし火に掛けた。お互いマジックバックの魔法具を持ってるから大丈夫。

「…………今年は、一人で行くと思っていました」

 お茶と軽食の準備を終え食べていると、ジュリアがポツリと呟いた。

「えっ!? どうして?」

 思いもしなかった台詞を聞いて、思わず淑女の仮面が外れちゃったわ。まぁ元々、王城ではない場所でジュリアと二人っきりだと、自然と言葉遣いがラフになるんだけどね。

「ミネリア様は王女殿下になられましたし、色々とお忙しいので……」

 ジュリアにしては、ものすごく喋ってるわね。それは嬉しいけど、なんか今は悲しい。

「だから? 関係ないでしょ。王女殿下っていっても、成り行きでそうなったものだし、生活が変わるわけでもないわ。違う? 呼び名が変わっただけでしょ。まぁ……もし生活が変わっても、一緒に来たけどね。だって、ジュリアは私の親友で命の恩人でしょ」

「親友だと言ってくれるのは嬉しいのですが、ミネリア王女殿下ーー」

「ミネリア」

 私はジュリアの台詞を遮る。親友に敬称は不要でしょ。この場にいるのは、私とジュリア、そしてイシリス様だけ。誰が咎めるの。

「……わかった。でも、私はミネリアの命の恩人じゃない」

 ジュリアは大きく息を吐き出すと口調を崩す。

 絶対、ジュリアは認めないのよね。昔からそう。私がそう思ってるのにおかしいよね。

「恩人でしょ。ジュリアは私を逃がすために、自分の数倍はある銀色の獣に突っ込んで行ったんだから」

 今でもはっきりと覚えてるよ。魔獣の毛皮を頭から被ったジュリアが、必死で逃がそうとしてくれたのを。私より小さな体で。

 ちなみに、その銀色の獣って、今私の隣にいる聖獣様だったんだけどね。

 幸いにもイシリス様だったから、ジュリアは私の目の前にいる。そうじゃなかったら、ジュリアはここにはいない。当然、私もね。

 そもそも、私が番じゃなかった場合でも同じでしょ。知らなかったとはいえ、聖獣様に刃を向けたんだもの、呪われて殺されていてもおかしくないわ。

「あっ、あれは、ミネリアが食われると思って!!」

「俺は護ろうとしただけだ!!」

 ジュリアとイシリス様が同時に言い放つ。

「護ろうとしたね……その気持ちは嬉しいけど、あの登場の仕方はないわ。誰が見ても、私を食おうとしているようにしか見えないわよ」

 突然現れた、大きな獣。

 血走った目をした獣は牙を剥き出しにして、私とジュリアに唸っていた。

 うん。どう見ても、食う気満々でしょ。そうとしか、見えないよね。

 なので、勝者はジュリア。圧勝だよ。

「違う!! 魔物がうようよいる森の中で、俺の番と小さな子供だけしかいなかったら、護ろうと思うのは当たり前だろ!! ……ちょっと、興奮しただけだ」

 最後の台詞は聞かなかったことにしとこう。


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